保安隊海へ行く 86
管理部の部屋に明かりが灯っていた。中を覗けば頭を下げ続けている菰田と、私服姿で書類を手にしながらそれを叱責している管理部部長、アブドゥール・シャー・シンの姿があった。
「すっかり事務屋が板についてきたな、シンの旦那」
横目で絞られている菰田を見てにやけた顔をしながら要がこぼす。実働部隊控え室には明かりは無い、そのまま真っ直ぐ歩く要。隊長室の窓からは明かりが見えた。
「……例の件ですか?そりゃあ俺んとこ持ってこられても困りますよ。うちは探偵事務所じゃないんですから、公安の方に……って断られたんでしょうね、その調子じゃあ」
「おい!叔父貴!」
ノックもせずに要が怒鳴り込んだ。電話中の嵯峨は口に手を当てて静かにするように促す。カウラ、茜、アイシャ、誠。それぞれ遠慮もせずに部屋に入る。レベッカは少し躊躇していたが、誠達のほとんど自分の部屋に入るようにためらいの無い様を見て続けて部屋に入りソファーに腰をかけようとするが、見ただけでわかる金属の粉末を見てそれを止める。
「……そんな予算があればうちだって苦労しませんよ。わかります?それじゃあ」
嵯峨は受話器を置いた。
「東和の内務省の誰かってとこだろ?」
部屋の隅の折りたたみ机の上に並んでいる拳銃のスライドを手に取りながら要が口を出した。
「まあそんなとこか。さっさと帰れよ。疲れてんだろ?」
「こいつが疲れてる理由はどうするんだ?」
要は誠を親指で指しながら嵯峨を見つめた。
「俺のせい?」
そう言って頭をかく嵯峨。アイシャ、カウラ、そして茜も黙ったまま嵯峨を見つめている。
「どう言えば納得するわけ?」
「今日襲ってきた馬鹿の身元でもわかればとっとと帰るつもりだよ」
拳銃のスライドを何度も傾けては手で撫でている要。嵯峨は頭をかきながら話し始めた。
「たしかにオメエさんの言うことはわかるよ。誰が糸を引いているのかわからない敵に襲われて疑問を感じないほうがどうかしてる。明らかにこれまで神前を狙ってきた馬鹿とは違うやり口」
「そうだよ。今度のは誠の馬鹿や叔父貴と同じ法術使いだ。しかもご大層に『遼州の屈辱を晴らす』とかお題目並べての登場だ。ただの愉快犯やおつむの具合の悪い通り魔なんぞじゃねえ」
要はそう言いながら拳銃のバレルを取り上げリコイルスプリングをはめ込み、スライドに装着する。
「予想してなかった訳じゃねえよ。遼州の平均所得は例外の東和を抜けば地球の半分前後だ、不穏分子が出てこないほうが不思議なくらいだ」
「そう言うこと聞いてんじゃねえよ。明らかに法術に関する訓練を受けたと思われる組織がこちらの情報を把握した上で敵対行動を取った。そこが問題なんだ」
いくつか机の上に置かれた拳銃のフレームから、手にしたスライドにあうものを見つけると要はそれを組み上げた。
「つまりだ。アタシ等も知らない法術に関する知識を豊富に持ち、さらに適正所有者を育成・訓練するだけの組織力を持った団体が敵対的意図を持って行動を開始しているって事実が、何でアタシ等の耳に入らなかったかと言うことが聞きたくてここに来たんだ」
要は拳銃を組み上げてそのままテーブルに置いた。




