保安隊海へ行く 76
「確かにあなたの母上、西園寺康子様は本来、遼南南朝王弟家の出。要様、あなたにも我々と志を同じくする資格があると言うことです」
男はまた一歩踏み込んできた。
「くだらねえなあ!アタシは貴族とかつまんねえ肩書きが嫌で陸軍に入ったんだ」
「ほう、それもまたよし。私達は王党派とも組しません。ただ遼州人全体の幸福を……」
「それで何が起きるんですか?」
誠は男の言葉をさえぎった。ゆっくりとうろたえることも無く、誠は男に近づいていった。
「今の遼州には多くの人が生きています。地球人、遼州人、そして先の大戦で作られた人工人間。でもあなたは遼州人のための世界を作ると言いましたね」
「仕方ないでしょう。我々は力を持っている。そして他の人々は持っていない。力のあるものが生き延びるのは宇宙の摂理で……」
誠は顔を上げてアロハシャツの男をにらみつけた。男は少しばかり動揺したように見えたがすぐさまポーカーフェイスに戻る。
「つまり交渉決裂と言うわけですか」
『そうみたいですわね』
三人の頭の中に言葉が響く。男は周りを見回している。
「この声……茜?」
要がつぶやくその視線の前に金色の干渉空間が拡がる。
そこから現れたのは黒い髪。それは肩にかからない程度に切りそろえられなびいている。まとっているのは軍服か警察の制服か、凛々しい顔立ちの女性が金色の干渉空間から現れようとしていた。
アロハの男は突然表情を変えて走り始めた。逃げている、誠達が男の状況を把握したとき、要に茜と呼ばれた女性はそのまま腰に下げていた軍刀を抜いた。そのまま彼女は大地をすべるように滑空して男に迫る。
男が銀色の干渉空間を形成し、茜の剣を凌いだ。
「公務執行妨害で逮捕させていただきますわ!」
そう叫んだ茜が再び剣を振り上げたとき、男の後ろに干渉空間が展開され、その中に引き込まれるようにして男は消えた。
「逃げましたわね」
その場に立ち止まった茜は剣を収める。
「茜さん?もしかして、師範代の娘さんの……」
誠はそばまで走っていった。
「お久しぶりですわね、誠君。それと要お姉さま」
「気持ちわりいから要と呼べ!」
頭をかきながら要がそう言った。
「それよりその制服は?」
「ああ、これですね。要さん、私一応、司法局法術特捜の筆頭捜査官を拝命させていただきましたの」
誠と要はその言葉に思わず顔を見合わせた。
「マジで?」
明らかにあきれているように要がつぶやく。
「嘘をついても得になりませんわ。まあお父様が推薦したとか聞きましたけど」
淡々と答える茜に、要は天を見上げた。




