保安隊海へ行く 66
「そう言えば西園寺さん。こんなことしてていいんですかね」
照れるのをごまかすために引き出した誠の話題がそれだった。
「なんだよ。さっきの東方開発公社の件か?あれは公安と所轄の連中の仕事だ。それで飯を食ってる奴がいるんだから、アタシ等が手を出すのはお門違いだよ」
そう言うと再びタバコに火をつけた。
「東方か、ずいぶんと世話になったんだがな」
タバコの煙を吐き出すと、サングラス越しに沖を行く貨物船を見ながら要がつぶやいた。
「やはり胡州陸軍と繋がってるんでしょうか?」
要は胡州帝国陸軍非正規作戦部隊の出身であることは保安隊では知られた話だ。
五年ほど前、東都港を窓口とする非合法物資のもたらす利権をめぐり、マフィアから大国の特殊部隊までもが絡んで、約二年にわたって繰り広げられた抗争劇。その渦中に要の姿があったことは公然の事実だった。遠くを行く貨物船を見ながら悠然とタバコをくゆらす要。
「アタシ等の作戦に関する、物資や拠点の提供、ターゲットの情報、現在の司直の捜査状況の把握。いろいろとまあ世話になったよ」
「でもこの一ヶ月、僕等がもたもたしていたせいで一番利益を得た人間達が免罪符を手に入れたんですよね。今更捜査を始めても間に合わないことばかりだと思うんですけど」
誠は正直悔しくなっていた。一応、自分も保安隊隊員である。司法実力行使部隊として、自分が出動し、一つの捜査の方向性をつけたと言える近藤事件が骨抜きにされた状態で解決されようとするのが悔しかった。
「お前、なんか勘違いしてるだろ」
サングラスを外した要が真剣な目で誠を見つめてくる。
「アタシ等の仕事は真実を見つけるってことじゃねえんだ。そんなことは裁判官にでも任して置け。アタシ等がしなければならないことは、利権に目が血走ったり、自分の正義で頭がいかれちまったり、名誉に目がくらんだりした戦争ジャンキーの剣を元の鞘に戻してやることだ。そいつが抜かれれば何万、いや何億の血が流れるかもしれない。それを防ぐ。かっこいい仕事じゃねえの」
冗談のようにそう言うと一人で笑う要。
「でも、今回の件でもうまいこと甘い汁だけ吸って逃げ延びた連中だって……」
「いいこと教えてやるよ。遼南王朝がラスバ大后の時代、あれほど急激に勢力を拡大できた背景にはある組織の存在があった。血のネットワークを広げるその組織は、あらゆる場所に潜伏し、ひたすら時を待ち、遼南の利権に絡んだときのみ、その利益のために動き出す闇の組織だった」
「そんな組織があるんですか?」
「アタシも詳しいことは知らねえ。だが、あのおっさんが持ってる尋常じゃないネットワークは、まるでそんな都市伝説が本当のことに感じるくらいなものだ。どれほどのものかは知らないが、少なくとも今回の東方開発公社の一件で免罪符を手にしたつもりの連中の寝首をかくぐらいのことは楽にしでかすのが叔父貴だ」
そう言うと要は再び沖を行く船を見た。
「やっぱりアタシのクルーザー回せばよかったかなあ」
「西園寺さん、船も持ってるんですか?」
そんな誠の言葉に、珍しく裏も無くうれしそうな顔で要が向き直る。
「まあな、それほどたいしたことはねえけどさ」
沖を行く釣り船を見ながら自信たっぷりに要が言った。




