保安隊海へ行く 43
「ちょっとは待っていてくれても……」
とりあえずズボンをはきポロシャツに袖を通す。確かに絶好の海水浴日和である。誠はしばらく呆然と外の景色を眺めていた。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。ベルボーイか何かだろう。そう思いながら誠はそのまま扉を開いた。
「よう!」
要が立っている。いかにも当たり前とでも言うように。昨日のバーで見たようなどこかやさぐれたいつも通りの要。
「西園寺さん?」
視線がつい派手なアロハシャツの大きく開いた胸のほうに向かう。
「何だ?アタシじゃまずいのか?」
いつもの難癖をつけるような感じで誠をにらみつけてくる。気まぐれな彼女らしい態度に誠の顔にはつい笑顔が出ていた。
「別にそう言うわけじゃあ」
誠は廊下へ出て周りを見渡した。同部屋のアイシャやカウラの姿は見えない。
「西園寺さんだけですか?」
「テメエ、アタシはカウラやアイシャのおまけじゃねえよ。連中は先に上で朝飯食ってるはずだ。アタシ等も行くぞ」
そう言うと要は振り向きもせずにエレベータルームに歩き出す。仕方なく誠も続く。廊下から見えるホテルの中庭。はるか先には山々が見える。保安隊の本部が置かれている豊川の街はあの山の向こうだ。そんなことを考えながら黙って歩き続ける要のあとをついていく誠。
「昨日はすいません」
きっと何かとんでもないことでもしている可能性がある。そう思ってとりあえず誠は謝ることにした。
「は?」
振り返った要の顔は誠の言いたいことが理解できないと言うような表情だった。
「きっと飲みすぎて何か……」
「意外としっかりアタシの部屋まで送ってくれてただろ?もしかして、記憶飛んでるか?」
エレベータが到着する。要は誠の顔を見つめている。こう言う時に笑顔でも浮かべてくれれば気が楽になるのだが、要にはそんな芸当を期待していない誠。
「ええ、島田先輩達が言うにはかなりぶっ飛んでたみたいで……」
「そうか……」
要が珍しく落ち込んだような顔をした。とりあえず彼女の前ではそれほど粗相をしていなかったことが分かりほっとする誠。
「まあ、いいか」
自分に言い聞かせるように一人つぶやく要。扉が開き、落ち着いた趣のある廊下が広がっている。要は知り尽くしているようにそのまま廊下を早足で歩いた。




