保安隊海へ行く 36
「風呂行ってきたのか?」
部屋に戻った誠を待っていたのは黒い礼服のネクタイを締めている島田と、鏡を見ながら髪を整えているキムだった。
「何ですか?なんかあるんですか?」
誠は状況が読めずに、思わずそんな言葉を口に出していた。そんな誠の言葉に思わず顔を見合わせる二人。
「そりゃあ西園寺大公家御令嬢主催のささやかなパーティーに出るためだよ。聞いてなかったのか?礼服持参とちゃんと言われてたろ?」
「島田先輩。礼服って東和軍の儀仗服のことじゃないんですか?」
そんな誠の言葉に島田とキムは顔を見合わせて大きくため息をつく。
「お前なあ。俺達は遊びに来てるんだぞ?仕事を想像させるようなもの着るかよ。それともあれか?礼服の一着も持ってないわけじゃないだろうな」
島田がそう言うと誠はうつむいた。
「島田、いいじゃないか。どうせ身内しかいないんだ。とりあえず着替えろ。俺達は先に行ってる」
そう言うとキムと島田は部屋を後にした。誠はバッグの中から濃い緑色の東和陸軍の儀礼服を取り出した。
「なんだかなあ」
そう言いながら服を着替える。窓の外はかなり濃い紺色に染まり始めている。ワイシャツに腕を通し、ネクタイを締めた。
『アメリカ海軍か』
先ほどの二人のことを思い出していた。近年、東和軍と地球各国との人的交流は比較的盛んである。アサルト・モジュールの運用に関しては東和軍はその導入時期が極めて早かったことから、各国の上下を問わず、かなりの数の軍属が研修目的で所属することは珍しい話ではない。また、保安隊と言う部隊の持つ司法機関直属実力行使部隊と言う性格は、遼州星系で活動する上で非常に便利な身分でもあることは誠でも分かった。
『まあいいか』
結局は嵯峨の思惑次第だと諦めて、誠はベルトをきつく締めながら部屋から出かけることにした。




