保安隊海へ行く 31
やわらかい乳白色の大理石で覆われた廊下を歩く。時折開いた大きな窓からは海に突き出した別館が見える。要は先頭に立って歩いている。
「本当にすごいですね」
窓の外に広がる眺望に誠は息を呑んだ。広がる海。波の白い線、突き出した岬の上の松の枝ぶり。
「アタシは嫌いだね、こんな風景。成金趣味が鼻につくぜ」
先頭を歩く要の言葉。見慣れすぎたこの人にはつまらなく見えるのだろうと誠は思った。時々要の見せる乱暴な態度が生い立ちの裏返しのような印象を受けた。
胡州四大公筆頭西園寺家の時期当主となれば擦り寄ってくる人間の数は万を超えたものになるだろう。そうなったときにどう自分を演じて利用される状況から逃れるのか。それはとても扱いに困るじゃじゃ馬を演じること。要はそう結論付けたのかもしれないと誠は考えていた。
そんなことを考えている誠を気にするわけでもなく廊下を突き当たったところにある凝った彫刻で飾られた大きな扉に要が手をかざした。
ゆっくりと開かれる扉。そしてその外側に広がる水平線に誠は目を奪われた。
「これ、部屋なんですか?」
誠は唖然とした。
全面ガラス張りの部屋が広がっている。中央に置かれた巨大なベッド。まさに西に沈もうとする太陽に照らされた部屋は、誠達にあてがわれたそれのさらに五倍以上の広さが会った。
「まあ座れよ。ワイン取ってくる」
要はぶっきらぼうにそう言うと部屋の隅の大理石の張られた一面に触れる。壁が開かれ、何十本という数ではないワインが誠の座っている豪奢なソファーからも見える。
「じゃあ、グラスは四つで」
「アイシャ。オメエに飲ませるとは一言も言ってねえぞ」
要はそう言うと年代ものと一目でわかるような赤ワインのビンを持ってくる。その表情にいつもにない自信のようなものを感じて誠は息を呑んだ。
「要ちゃんと私の仲じゃないの。少しくらい味見させてよ」
アイシャが手を合わせてワインを眺める要を見つめている。誠は二人から目を離し、辺りを見回した。どの調度品も一流の品なのだろう。穏やかな光を放ちながら次第に夕日の赤に染まり始めていた。
「ああ、この窓はすべてミラーグラスだからな。覗かれる心配はねえよ」
専用のナイフで器用に栓を開けた要がゆったりとワインをグラスに注いでいる。
「意外と様になるのね。さすが大公家のご令嬢」
「つまらねえこと言うと量減らすぞ」
そう言いながらも悪い気はしないと言うように要はアイシャの方を見つめていた。カウラはじっと要の手つきを見つめている。
「カウラも付き合え」
最後のグラスに要がワインを注ぐ。たぶんワイン自体を飲んだことが無さそうなカウラが珍しそうに赤い液体がグラスに注がれるのを見つめていた。
「まあ夕日に乾杯という所か」
少し笑顔を作りながら要はそう言うとグラスを取った。




