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保安隊海へ行く 30

 海は好きな方だと誠は思っているが、それにしても部屋の窓から見る景色はすばらしい景色だった。松の並木が潮風にそよぐ。頬に当たる風は夏の熱気を少しばかりやわらげてくれていた。

「なんか珍しいものでもあるのか?」 

 荷物の整理をしながら島田がからかうような調子で呼びかける。たぶん去年に彼が体験した新世界を誠が見つけたことに多少思うところがあるのだろう。

「別にそんなわけじゃないですが、いい景色だなあって」 

「何なら写真でも撮るか?」 

 振り返るとキムがカメラを差し出していた。

 その時、突然キムの携帯端末が着信を知らせる。キムはすぐさま振り向いてドアのほうに向かって歩き出した。そしてこちらから聞こえないような小さな声で何事かをささやきあっていた。そんなキムを見て頭を掻きながら立ち上がる島田。

「抜け駆けかよ。まあいいや、神前。とりあえず俺、出かけてくるから」 

 ベッドからバッグを下ろした島田はそれだけ言うとそそくさと部屋を出て行く。キムはしばらくドアのところで電話の相手と楽しげに歓談をしている。

 その時急にドアが開き、キムがそのドアにしたたか頭を打ち付けた。

「何してんの?」 

 頭を抱えて座り込むキムを見下ろしている紺色の髪の女性。入ってきたのはアイシャだった。しばらくして恨みがましい目で彼女を見上げるキム。

「あっ、ジュン君ごめんね。痛かったでしょう」 

 アイシャが謝るが、軽く手を上げたキムはそのまま廊下に消えていった。

「一人で退屈でしょ。うちの部屋来ない?」 

「はあ……」 

 誠はなぜ自分が独りになると言うことを知っているのか不思議に思いながら生返事をする。満足げにそれを見つめるアイシャ。

「誰の部屋だと思ってんだ?」 

 怒鳴り込んできたのは要だった。そしてそのまま窓辺に立っている誠の目の前まで来るとしばらく黙り込む。

「あの……西園寺さん?」 

 誠の言葉を聞いてようやく要は何かの決意をしたように誠を見上げてきた。

「その……なんだ。ボルドーの2302年ものがあるんだ。一人で飲むのはつまらねえからな。良いんだぜ、別に酒は勘弁って思ってるんだったらアタシが全部飲むから」 

 要をちらちら見ながら近づいてくるアイシャ。要の言葉に思わず噴出しそうになるのを無理して口を抑えて我慢している。

「いいワインは独り占めするわけ?ひどいじゃないの!」 

 アイシャが要に噛み付く。開かれたドアの外ではカウラが困ったような表情で二人を見つめている。

「わかりました、今行きますよ」 

 そう言って誠は窓に背を向ける。そして満足そうに頷いているアイシャに手を握られた。

「何やってんだ?オメエは」 

 タレ目なので威圧してもあまり迫力が無いが、機嫌を損ねると大変だと慌てて手を離す誠。カウラにも見つめられて廊下に出た誠は沈黙が怖くなり思わず口を開く。

「ワインですか。なんか……」 

「アタシの柄じゃねえのはわかってるよ」 

 頭を掻きながら要が見つめてくるので、笑みを作った誠はそのまま彼女について広い廊下の中央を進んだ。

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