保安隊海へ行く 23
冊子を開くと、そこにはあまり上手くないアイシャの絵が踊っている。思わず要がアイシャを一瞥する。
「なに?」
「いや別に……」
再び冊子のページをめくった要の表情が曇る。
「何々?バスでの飲酒は禁止?これパス。運転中のバスでは立ち歩かない?これもパス。休憩中のパーキングでは必ず早めにトイレに行くこと?まあこれはいいんじゃねえの?」
「アンケートじゃないのよ!それは絶対遵守事項!」
腰に両手を挙げて怒鳴りつけるアイシャ。思わずサングラスを落としそうになりながら要が冊子を地面に叩きつけた。
「やってられるか!ったくつまんねえことばかりはりきりやがって!」
そんな要を見ながらカウラが冊子を拾った。にらみつけてくるアイシャと関わるのが面倒だと言うよな表情の要。冊子を手に取ると抱えていたポーチにねじこむ。
「それにしても今回は少ないよな、参加者。技術部は島田のアホとキム、ソン、西、吉川、金子、遠藤。警備部はヤコブ、イワノフ、ボルクマン。管理部は菰田、服部、立川。それとお姉さんの旦那か」
要はアイシャの冊子を誠に押し付けると男性陣を指折り数えた。
「暇そうな連中だな」
それを聞いたカウラもそう続ける。そこで要はサングラスを下げて、下から見上げるようにカウラに近づく。何事かと構えるカウラの正面に満面の笑みの要がいた。
「菰田、ソン、ヤコブが来るのはお前目当てなんだろ?ちゃんと絞めて行けよ」
「つまらない事は言わない方がいいぞ。口は災いの元だからな」
カウラはその話をしたくは無いと言うようにあっさり答えた。
「神前!荷物積むの手伝え!」
とても実働部隊の備品とは思えない量のパーティーグッズを荷物置き場に押し込んでいる島田が叫んだ。
「じゃあな、アタシ等乗ってるから」
そう言うと島田に見入られて身動き取れない誠を置いてバスに乗り込む要とカウラ。
「スイカはここに入れると割れるんじゃないですか?」
誠はパーラから島田が受け取ろうとしているスイカを見てそう言った。
「じゃあシャムちゃんに見つからないように隠しておくわね」
パーラはそう言うとそのままボストンバッグを誠に渡してバスに乗り込む。
「パラソルは折れるかな?」
「大丈夫なんじゃないですか?奥のほうに突っ込んでおけば」
誠と島田はバスに乗り込んでいく面々から荷物を受け取りつつ、それを床面の下の荷物置き場に突っ込む。
「正人!アイス買ってきたけど食べる?」
荷物置き場が一杯になった時、備品の自転車に乗って買出しに行っていたサラが二本のアイスキャンディーを島田達に手渡す。彼は受け取った二本のキャンディーを誠に見せた。
「悪いね。神前、どっち食う?」
「じゃあ小豆の方で」
いつの間にかかいた汗を拭いながら三人で一息つく。
「なるほどねえ。この前、姐御からM10の仕様書渡されて、どっからこんな最新機の情報手に入れたか聞こうと思ったんだが、ウチで動かすのか。整備のシフト考え直さないとまずいよなあ」
ソーダ味のアイスキャンディーを口にしながら島田が呟く。
「しかし、M10なら採用国は同盟加盟国でも何カ国かあるから大丈夫なんじゃないですか?」
失敗したかなと思いながら、小豆のアイスバーを口にねじ込む誠。
「だからだよ。海兵隊が採用しなかったのは初めて導入したアメリカ海軍での評判があまり芳しくなかったからだって話だぞ。関節部の駆動部品のメンテが面倒でね。交換に一癖あって正直、俺もどうかなあって思ってたんだよ。まあA4にバージョンアップしてその部分はかなり改善されたって言う話だけど、05に比べるとかなり手のかかる代物みたいだな、まあ実物を拝まないことには判断はつかないけどな」
そう言うと島田は解けて手にかかろうとするアイスに手を焼いてそのままがぶりと先から食いついた。
「そうなんですか……」
誠は島田の話を聞きながら伸びをする。その視線にバスの中で手招きしている要の姿を見つけた。




