保安隊海へ行く 22
「アメリカ軍?そんな。なんで地球圏から遼州同盟機構に……」
誠はきょとんとして要達を見つめる。当然のように呆れはてた視線を投げてくる女性陣。
「馬鹿だな神前の。現状で法術適性の持ち主が圧倒的多数居住するのは遼州星系だ。アメちゃんがそこに目をつけないはずが無いだろ?それにアメリカ本国でも遼州系の移民による法術犯罪が相当数発生しているのは事実だからな。これまでは情報管制と上層部からの圧力で抑えられたが、それも限界が来たってことだ」
要はバスを見上げながらそう言って手にしたポーチからサングラスを取り出してかける。
「それだけじゃ無いだろうな。法術の軍事技術利用の研究が一番進んでいるのもアメリカだ。当然東和の法術技術開発には関心がある。合法的にそれを監視できると言うところで同盟内部の譲り合いで空いた第四小隊の椅子を手に入れられるならそれもいいと思ったんだろ」
カウラはそう言うと足元の大き目のバッグを持ち上げた。
「はいこれ!」
突然パーラとサラの後ろから現われたアイシャがガリ版刷りの小冊子を誠、要、カウラの三人に手渡す。手にした冊子に明らかに不審そうな表情を浮かべる要。
「今時わら半紙で、ガリ版刷りって……これ!僕の描いた『魔法少女エリーS』のミルキーじゃないですか!」
「なんだそりゃ?」
要は誠の描いたイラストが表紙にある冊子を眺めている。そしてすぐにサングラスの上の眉をぴくぴくと振るわせ始めた。一生懸命爆笑を堪えている。そんな様子に苦笑いを浮かべる誠。
「そうよ。あえて空気キャラを表紙に使う事で内容への関心を呼び起こすと言う……」
「暇だな貴様は」
呆れるカウラ。誠もその絵の上に踊る『うみのしおり』と言う文字を放心したように見つめていた。
「そう言や、アメちゃんの何軍だ?陸軍は叔父貴に遺恨が残っとるし、海兵隊はM10グラント配備してねえだろ?空軍?海軍?宇宙軍?」
出来るだけ冊子のことには触れたくないと言うように要が話題を変えてアイシャに顔を向ける。自分の自信作が無視されているのに気が触ったようで頬を引きつらせているアイシャ。
「ああ、海軍だって話みたいよ。遼南の南都州の基地と言えばアメリカ海軍の遼州最大の拠点だから当然じゃないの?それより要!」
「なんだよ、おっかねえ顔して」
三人の中で一番『美人』と言う言葉が似合うと誠自身は思っているアイシャの瞳が鋭く要を見つめる。
「あなたはちゃんとこの冊子を読んで、理解してからバスに乗るのよ。これは上官からの命令よ!わかった?」
「なんだよ!この前の件で佐官に昇格したからって……」
愚痴る要をアイシャが一睨みした。
「わあったよ!読めばいいんだろ!読めば!」
そう言うと要は一人で先にバスの入り口に向かった。手荷物がやけに少なく、他の隊員が荷物の積み込みの順番を待っているのを横目に実ながら歩いていく。
「よろしい。じゃあちょっと他のみんなにも配ってくるわ」
アイシャが背を向ける。要はそれを見てすばやく誠達のところに戻ってきた。そして子供みたいに石を投げる振りをする。
「餓鬼か?お前は?」
呆れるカウラ。
「ったく!あの馬鹿!腹が立つぜ。これ、絵を描いたの神前か?」
表紙を眺めながら要が呟く。
「ええ、そうですけど……何か?」
サングラスを少しずらしてタレ目で誠を見上げてくる要の視線に誠は少したじろいだ。
「っ、別にな。じゃあ読むか」
要はそうポツリとつぶやくと手の中の冊子を開く。それを横目で見ながらカウラは要の手にあわせるように冊子を開いた。




