保安隊海へ行く 21
「良い天気!」
ハンガーの前で両手を横に広げて走り回るシャム。お気に入りの戦隊モノのプリントがされたTタンクトップにデニムの半ズボン。さすがに旅行と言うこともあって毎度おなじみの猫耳はつけていなかった。しかしそれだからこそ彼女は小学校低学年の児童にしか見えなくなる。
「あの、西園寺さん。あの人、本当に三十過ぎなんですか?」
「まあオメエのお袋よりは年下なんじゃねえの?どっちも実年齢は信じられねえけどな」
そのはしゃぎぶりを眺めて呆れる誠と要。要は黒いタンクトップにジーパンと言うラフな姿だった。誠も無地の水色のTシャツ。痛い格好はするなと寮長の島田から釘を刺されていた。
「シャムちゃん!そこにバス停めるからどいてね!」
白い髪に白いワンピース姿のリアナと、その後ろで荷物を抱えながらついてくる健一。
「そのまま!ハンドル切らずにまっすぐで!」
そう叫んでいるのは青いTシャツを着た西。いつもこう言うときに気を利かせる彼の機転に誠は感心しながらその後姿を眺めていた。
「もっとでかい声出せよ!真っ直ぐで良いんだな!」
サングラスをかけてバスの運転席から顔を出しているのは島田だった。電気式の大型車らしく静かに西の誘導でバックを続けている。
「随分本格的ですねえ……レンタルですか?」
エメラルドグリーンの髪に合わせたような緑色のキャミソール姿のカウラに誠は声をかけた。
「去年は二台バスを借り切ったが、今年は一台で済んだな」
あっさりとそう言うカウラの横顔を見つめて目を見開いて驚いてみせる誠。
「それってほとんど隊が空っぽになるんじゃないですか?まだ準備段階で今より人数も少なかったって話ですし……」
「去年は機体も無い、機材も無い。することも無いって有様だったからな。それに第四小隊の噂、本当らしいぞ。その準備とか色々あんだろ?」
要がポツリと呟いた。
「第四小隊?第三が先じゃないんですか?」
「第三小隊は選抜は終わったが、同盟会議の決済がまだ下りないそうだ。そこで同時進行で進んでいた第四小隊の増設が来月頭にあるらしい」
穏やかに答えるカウラ。目の前ではバスの止める位置をめぐり西がもう少し寄せろと言い出して島田と揉め始めていた。
「そうなんですか?……でも変じゃないのか?なんで第三小隊の増設が出来ないで……」
「あんまり叔父貴に力が集まるのが面白くねえんだろうな、上の連中は。第三小隊の隊長は楓の奴だろ?それに法術捜査局が来月立ち上げだ。その主席捜査官が……」
そこまで言うと要はにんまりと笑って西と一緒に島田をとっちめはじめたサラを見ながら笑顔を浮かべる。
「嵯峨茜弁護士。ですか」
パラソルを抱えたキムがおそろいの南国風の絵柄のTシャツ姿のエダと共に現れた。早速小走りで島田達に近づいて仲裁を始めるキム。だが島田は頑として折れようとしないようだった。
「まあ近藤事件は叔父貴が独断で仕掛けたところがあったからな。どこの軍や司法機関も法術と言う存在を意識した組織改革を行っているところだ。テメエの尻はテメエで拭けってことなんだろうよ。予算のかかるうちみたいなところに金を出すならそれが済んでからって話なんだろうな」
要はそう言うとタバコを口に持っていく。ようやく止める位置をめぐる島田と西の争いが決着が付いたようで島田はそのまま窓を閉めてハンドルを離してバスから降りようとしていた。
「で、第四小隊の情報は掴んでるわけ?」
こつりと後頭部を小突かれて思わず要がつんのめる。
「って!何しやがる!」
要の後頭部を突いたのは『萌え』とプリントされたピンクのTシャツを着ているアイシャだった。隣にはお腹の辺りが開いた大胆な服を着ているパーラがスイカを抱えている。
「そう言うオメエはどうなんだ?」
後頭部をさすりながらアイシャを見上げる要だが、アイシャは余裕たっぷりに口を開く。
「そうねえ、遼南の米軍基地から輸送艦が一隻、新港に入ったらしいわよ。中身はM10グラント」
頷いているカウラを見るとアイシャは話を続けた。
「M10は05式と互角にやれる機体よね。それをわざわざウチの運用艦『高雄』の母港に運ぶってことは……」
「第四小隊の面子の身元はアメちゃん……か。目的はうちの持っている神前や叔父貴の法術シュミレーションのデータとその運用ノウハウの確立とでも言うところか?」
要はそう言うと大きく伸びをした。




