保安隊海へ行く 19
「何見てんだ?お前等?」
要は聞いていなかった。それもまた意外だった。誠も彼女の地獄耳のおかげで酷い目にあったことが何度かある。カウラもアイシャも同様なのだろう、意外な要の言葉に戸惑っている。
「やっぱり要ちゃん変!神前君のことで悩んでるんでしょ?」
リアナのその言葉。誠、カウラ、アイシャ、島田、サラ。皆はリアナの口をふさいでおかなかったのを後悔した。
「何で?」
そんな言葉が要の口から出てきたとき、誠達は胸をなでおろした。その様子を不思議そうに見つめる要。
「でもこれも上司としてのお仕事ね。要ちゃん。神前君のことどう思ってるか言って御覧なさい」
また地雷原に踏み込むようなリアナの発言にシャムでさえ背筋が凍ったように伸び上がる。既に小夏は退避済みである。
「こいつのこと?アタシが?……それって何?」
要はまったくわかっていないと言うようにグラスを傾ける。誠は隣の席の健一の脇を突いた。
「リアナさん。無理に聞かなくても……」
「健一君。出会いはね、重要なのよ。そして思いも。要ちゃん照れなくてもいいから答えてみて」
リアナが真顔で隣に座っている要に顔を近づける。白い頬が朱に染まっているのを見て誠は逃げ出したくなるのを何とか我慢していた。要がその青い瞳、白い髪を眺めながら時が経つ。
カウンターでは女将の春子と小夏がじっとその様を見つめていた。
急に要の頬が赤らんだ。瞬きをし、そして手にしていた酒を一気にあおる。
「ばっ、ばっ、馬鹿じゃねえの?お姉さん冗談止めてくださいよ。誰がこんな軟弱野郎のこと好きだとか……」
『好き?』
その言葉を自分で口にして要はさらに顔を赤らめる。
「要ちゃんかわいい!」
シャムがそう言って飛び出そうとしたところで要が立ち上がり、上目がちにシャムを睨みつけた。その迫力に圧されて愛想笑いを浮かべながら自分の席に戻るシャム。
「気が変わった。お前等割り勘な。それとアタシ帰るから」
誠たちが予想はしていた反応の中で一番穏やかな態度で要が立ち上がる。
「要ちゃん!」
呼び止めようとリアナが声を出したが、要はそのまま手を振って店を出て行く。顔を出した春子が呆れたようにリアナを見つめている。
「ああ、行っちゃった」
息を潜めていたパーラが伸びをして要が消えた引き戸を見つめていた。
「お姉さん!要の性格知ってるでしょ?」
アイシャが恨みがましい目でリアナを見つめる。同様に要の財布をあてにしていた誠や島田もリアナを見つめる輪に参加していた。
「ちょっとまずかったかしら。いいわ。みんなのお勘定健一君が払うから」
「え?」
突然の提案にうろたえる健一。そして給料前の出費を恐れていた一同がホッと胸をなでおろした瞬間だった。
「神前、追え」
カウラは確かにそう言った。静かだが明らかに命令としてカウラはその言葉を口にしていた。
「いいから追え!」
動こうとしない誠を見つめて再びカウラの口から出た言葉。ハッとして誠は店から飛び出していた。




