保安隊海へ行く 17
「お姉さん。どこが変なの?」
焼きそばを口に突っ込みながら要がそう尋ねる。その目はどこかふざけたようないつもの要のタレ目だった。カウラ、アイシャ。他の面々もそれを気にしていた。そして誠もそうだった。リアナの部長格という肩書きがここで役に立った。
彼女から見ても、いつもの要の傍若無人振りとは違う言動は、少し変なものに見えていたらしい。それが判るだけでこれまで要のいつもと違う言動を見てきた面々には十分だった。
「なんと言うか……いつもより素直よね」
ここで誠をはじめ面々は肩透かしを食らった。直情的なのはいつものことだ。情報戦ですら平気でこなすはずの非正規戦用最新鋭義体の持ち主である要である。いつもそう言った任務を嵯峨が吉田に一任しているという現実が、『素直』の一言で解明できるなら彼らの苦労はまったく無駄だったという事だ。
「アタシはいつだって素直ですよ」
そう言いながら手酌で飲み続ける要はまったく普通に答える。そしてアイシャ達が何で自分のことを不思議そうに見ているのかわからないというようなとぼけた表情を浮かべていた。
誠は思った。
『いつもこんな素直なら、かわいい感じなのにな』
誠も島田には話していないが大学ではそれなりにちやほやされてきた。理系専門大。そこに現れた左腕の救世主。明らかに期待されていない下部リーグの大学野球戦で一年の時からエースを任されたヒーロー。誠もそれなりに女性からの告白も受けた事がある。しかし、彼の『オタクマインド』を知ったとき、二種類の反応を彼女達は示した。
プロのスカウトも動くような大物左腕。そう思って声をかけた相手が気弱な二次元マニアだと知るとすぐに立ち去るタイプ。
これが三人。彼女の中ではマッチョで勝負屋とでも言う印象があったのかもしれないが誠はとてもそんな人間を演じられるわけも無い。二年の春に研究室の助手の女性から声をかけられた時は携帯端末のアドレス交換で取り出したとたんだった。誠のファンシーな少女が壁紙に張られているのを見た彼女は交換をしない言い切ってそれからは話すのも嫌だというほどに嫌われたこともある。彼の趣味を理解してくれた後輩のマネージャーもいたが、彼女はあまりにも誠と似た趣味だったので彼女と言うより読者と言う感じで結局卒業した今では音沙汰も無かった。
誠もそれが当然だと思っていた。野球、特に変化球と配球の微妙なバランスについて一時間一方的に話し続ける。それが終われば美少女アニメとレトロな特撮モノの話を長々とするのがいつものパターン。それ以外のキャパシティーを持たない彼と話をあわせてくれる人などめったにいない。保安隊で腐女子をカミングアウトしているアイシャと、コスプレマニア、シャムの在籍する保安隊ではぎりぎり認められる存在。誠は自分のことをそう思っていた。
「なんか、今日の要ちゃんは前向きよね」
保安隊の核融合炉。そう呼ばれている要を前にして、さすがのリアナも言葉を選んだ。
「前向き……。良いじゃねえの?後ろ向きよりよっぽど生産的だ。アイシャ。人の機嫌を気にするならこんくらいの事は言えないとなあ」
また口にラム酒を含みながら、タレ目の視線をアイシャに向ける。
「そうなら別にいいんだけど……」
相変わらず良くわからない要の機嫌に場は完全に静まり返る。そんな中、突然店の中の照明が薄暗く変わる。
「小夏!」
「アンドシャム!」
『踊りまーす!』
突然だった。シャムと小夏の二人が猫耳と尻尾をつけて通路に飛び出してくる。前触れの無い出来事に全員が唖然としてその姿を見守っていた。




