保安隊海へ行く 169
「良いんですか?こんなので」
誠は要に駆け寄ってみたものの、どうにも我慢しきれずにそう尋ねた。
「良いの良いの!叔父貴が責任取るって言うんだから」
「俺のせいかよ」
そう言うと情けない顔をしてタバコを口にくわえる嵯峨。
「まあこれが我々の流儀だ。そのくらい慣れてもらわなくては困る」
いつものように表情も変えずにカウラはハンガーへ続く階段を降り始めた。ハンガーでは整備班員がバーベキューの下ごしらえに余念が無い。
「ちょっと!ちゃんと肉は平等に分けるのよ!そこ、もたもたしてないで野菜を運びなさい!」
明華は相変わらず彼等を大声で叱り飛ばす。
「じゃあアンプはそこに置いて。そしてお立ち台は……菰田君!ここよ!」
いつの間にか和服に着替えていたリアナは電波演歌リサイタルの準備にいそしんでいる。
「よう、歓迎される気分はどうだい」
嵯峨がぼんやりと走り回るブリッジクルーや整備員、そして警備部隊の面々を眺めているロナルドに声をかける。
「歓迎されるのが気分が悪いわけは無いでしょう」
口元は笑っているが目が呆れていた。隣に立つ岡部もただ何も出来ずに立ち尽くしている。調子の良いフェデロは勇敢にもリアナのリサイタルが予定されている場所でアンプの設定を手伝っていた。
「遅くなりました」
そう言いながら茜は野菜を切り分けている管理部の面々に合流する。
「私、何か出来ませんか?」
「良いんだよ。黙って見てれば。さてと」
嵯峨はタバコに火をつけて座り込んだ。
「神前!手を貸せ」
いつの間にか復活していた島田が、クーラーボックスに入れる氷を砕いている。
「わかりました!」
「アタシも行くぞ」
「私も!」
要とアイシャが誠と一緒に駆け出す。遅れてカウラも後に続いた。
「いいねえ、若いってのは」
そう言いながら嵯峨はタバコの煙を吐いた。秋の風も吹き始めた八月の終わりの風は彼等をやさしく包んでいた。誠は空を見上げながらこれから始まる乱痴気騒ぎを想像して背筋に寒いものが走った。
(了)




