保安隊海へ行く 131
「なんだ、来てたのか」
暖簾をくぐる嵯峨がそう言った。誠が店の中を覗くと、すでにさしつさされつ日本酒を飲み交わしている明華と明石の姿があった。
「すみません。ワシ等先やらしてもらってますわ」
もつ煮をつつく明石。少しばかり酔いに頬を染めて、照れ笑いを浮かべる明石を見つめる明華。
「あのなあ。お前等が先に来てたら吉田の気遣いが無駄になるじゃねえか」
そう言うと吉田の手にしている花束を奪って要に握らせた。
「許大佐。婚約、おめでとうございます」
「ありがとう。アンタが選んだでしょ?相変わらずみごとなものね」
明華が受け取った花束の香をかいでいる。
「お前等が一番に着いたのか?」
「ちゃいます、アイシャ達が一番に来て小夏を連れて、なにやら仕掛けとるみたいですわ」
「それで準備が出来るまで飲んでろって言われたわけか」
嵯峨はテーブルの上の三つ置かれた二合徳利を眺めた。
「じゃあ俺等はどうしましょうか?」
吉田が嵯峨に目配せをする。
「まあ、こいつ等と第四小隊以外は上がっても大丈夫なんじゃないの?」
そう言うと嵯峨はそのまま奥の階段を上り始める。
「ちょっと嵯峨さん」
厨房から出てきた春子が呼びかける。タバコに取り出しかけた手を置いた嵯峨が振り返る。
「こっちにあるビールのケース。運ぶの頼んでも良いかしら?」
そう言われると嵯峨は吉田に目配せをした。吉田はシャム、要、そして誠の頭を軽く叩く。
「ああ、吉田さんと誠君が来てくれれば大丈夫よ」
春子の指名で目を見合わせた吉田と誠は、カウンターをすり抜けて厨房に入る。
「そこに二ケースあるでしょ?それを上に運んでもらえるかしら?」
言われるままに吉田はビールのケースを持ち上げる。誠はそれに付き合うようにその下のケースを持った。
「今日はメインは何ですか?」
「牛のもつ焼きよ。何でもスミス大尉が大の好物なんですって」
春子はそう言うと宴会の仕込みに取り掛かった。
「アメリカ産の癖に妙なもん食うんだな」
そう言う吉田を先頭に、あまさき屋の狭い階段を上り始めた。




