保安隊海へ行く 130
花屋の隣は締め切られたシャッターが二つ続いた。
「結構寂れてるんですね」
誠は辺りを見回す。およそ二軒に一軒は夕方のかき入れ時だというのにシャッターが閉められている。通るのは近くに住んでいるらしい老夫婦や、裏手の工業高校の男子生徒の自転車くらいだ。
「駅前の百貨店とかにかなり客を取られてるからな。ここらだと車を持っているのが普通だから、郊外の量販店なんかに行くんだろ」
吉田が淡々とそう答える。
「でも僕の実家の辺りなんか商店街結構繁盛してますよ」
「それはテメエの家の辺りは下町じゃねえか。それにお太子さんもあるくらいだから観光客もいるぞ」
あちこち見ながら歩いている誠をせかすように要がそうつぶやいた。
「でも隊長がなんか商店街の会長さんとなんかやるつもりだって言ってたよ」
「そう言えばオメエはこの先の魚屋の二階に住んでるんだったな。叔父貴の奴、またくだらないことでも考えてるのか?」
頭をかく要。アーケードが途切れ、雲ひとつ無い夏の終わりの空が赤く染まろうとしていた。
「よう、また俺の話でもしてたの?」
突然の声に四人が左を向いた。作務衣を着て扇子を持った嵯峨がそこに立っている。その後ろには白いワンピースに白い帽子を被った茜が立っていた。
「別に……なあ!」
要が誠の顔を見つめる。
「そうですよ。それより良いんですか?その様子だと早引きしたみたいですけど」
「吉田の。お偉いさんの俺等の評価は知ってるだろ?どうせ仕事なんて回ってこねえよ」
軽くいなすようにそう言うと嵯峨は歩き始めた。
「どうした、先行くぞ」
立ち尽くす四人を振り返る嵯峨。四人はともかく歩き始めることにした。
「あれだな、東和軍の幕僚とやりあったのか?」
「当たり。何でも司法局の依頼で五人ほど法術特捜にまわしてくれって頼んだのを断られたんだと」
吉田の言葉に振り向く茜。目が合った誠は愛想笑いを浮かべた。
「オメエ等の出向もそれで決まったわけだな」
「以前から話は来てたんだがね。まあ今となってはそう言うことだ。要するに俺らで遼南軍の筋の良さそうなのに唾つけようって魂胆だ。隊長も抜け目が無いって言うかなんと言うか」
銭湯の煙突に隠されていた夏の終わりの太陽が六人の顔を照らし出した。あまさき屋の暖簾がはためいているのが目に入る。




