保安隊海へ行く 106
「誠、聞いて良いか?」
一つ畳を拭き終わった要が起き上がり、手の上で雑巾をひっくりかえす。
「はい」
誠は壁についたシミを洗剤でこすって落とそうとしていた。
「オメエ自分の力をどう思ってる?二度も襲われてるんだ、それについてどう見るよ?」
要の言葉に誠の手が止まる。誠はとりあえず洗剤を置き、雑巾でシミのついた壁をこすり始めた。
「そうですね。何も知らない時の方が気楽だったかも知れませんね」
「意外だな、お前のことだから怖いですって即答すると思ったんだけどな。わけわからねえで浚われた方が怖くないのか?」
誠の顔が要の方に向き直る。要は照れたように次の畳を拭き始める。
「自分に力があるなんていうことを知らなければ、ただの偶然でまとめられるじゃないですか。嵯峨隊長はあっちこっちで恨みを買ってますから、そのとばっちりってことで納得できる。自分に原因は無いんだってね。でも今回のは違いましたね。僕はもう自分が法術適正者だと知ってしまった。相手は他の誰でもなく僕を狙ってくるのがわかる。どこへ行っても、どこに隠れても、僕であるというだけで狙われ続けるんですから」
いくらこすっても取れないシミ。誠は今度は雑巾にクレンザーを振りかける。
「そうだな。アタシも気になってさあ、ここのところ法術に関する研究所のデータや軍の資料を当たってみたんだ。公開されてる情報なんてたかが知れているが、それでも先月の近藤事件以降かなりの極秘扱いのデータが公表されるようになったしな」
要は雑巾を畳の目に沿って動かす。
「遼州人のすべてが力を持っているわけじゃねえ。純血の遼州人の家系であることが間違いない遼南王朝の王族ですら、力が確認されている人物は記録に残っているのはたった三人だ。初代皇帝女帝ムジャンタ・カオラ。六代目ムジャンタ・ヘルバの皇太子で廃帝ハド。そして新王朝初代皇帝ムジャンタ・ラスコー、今の戸籍上の名前は嵯峨惟基」
誠はクレンザーの研磨剤で消えていくシミを見ながら要の言葉を聴いていた。
「数千人、数万人に一人の確立というわけですか。選ばれたと言って喜ぶ気にはなれませんよ」
誠の手が止まる。要はそれを見ると立ち上がった。
「不安なのか?」
そう言うと要は誠の頭に手を置いた。
「言っただろ?アタシが守るって」
中腰の姿勢から立ち上がる誠。要の手は頭の上から誠の頬に流れた。見下ろす誠。要はじっと見ていたが、すぐに目を逸らすと再び畳を拭き始めた。
「勘違いするなよな!アタシはお前の能力を買っているから助けるだけだ。テロリスト連中に捕まって暴れられたら困るからな……」
誠はこっけいに見える要の姿に笑いをこらえていた。




