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「──よし、シャワー浴びて寝るか……」
「おい、現実逃避するな!」
なぜゼノがそこまでやる気なのかは謎だが、首根っこを掴まれてしまっては仕方がない。
第一関門であるあの城門突破の方法を考えるか……
「よくよく考えてみればあの城を必ず落とさなければならないわけではない。諦めてしまうのも1つの選択肢なのかもしれんな」
「そうでござるな」
「お前らはなんでそうもやる気がないんだよ……」
だからなんでゼノはやる気満々なんだよ……
聞きたいけど聞けないこの状況がもどかしい。
いっそのことリリィ以外にもバラしてしまってもいい頃なのかもしれないが。
いつかは明かさないといけないことだからな……
でもまだそのタイミングではない気がする。
最悪なのはこの事実を知ってパーティーから抜ける人員が出ること。
結局は魔王戦当日になれば判明してしまうことなんだが、切羽詰まったその状況であればまだリスクは低くできる。
ってなんで俺は味方をこんなに信用してないんだろうな……
もしも魔王城が1年あれば歩いていける距離にあって、俺もこいつらと冒険をともにできていたならこんなことにはなってなかったのかもしれない。
「──三厳はなんでそんなに難しい顔してるの?」
「そうね。アクルセイドが言ったように必ずしもあの城を手に入れる必要はないのよ?」
「悪い、少し別の事を考えてた」
「何よそれ……あんたがリーダーなんだから少しはしっかりしなさいよ」
だからいつ俺はリーダーになったんだよ……
まあ流れ的に仕方がないとは思うが、リリィがリーダーではダメなのか?
ダメだろうな……
「それで本当にどうするでござるか?」
魔王と戦えるだけの力があるのか確認するには、あの城を攻める選択が効率的なことに代わりはない。
いっそのこと居城にするのは諦めて盛大に暴れてみるものありだ。
しかしそれではこの前みたいにリリィの身に何かあった際になすすべがなくなるんだよな……
「…………ドラゴン……夜ならバレない……」
「確かにライドラさんは真っ黒なので闇に紛れることは可能かもしれませんね」
「その方法で召喚士殿が中に潜入できれば、翌日一斉に攻めることが可能か」
サシャの戦略は悪くはないと思う。
しかしそんなことで簡単に潜入できるものなのだろうか?
「多分無理だな。あの辺りでは夜行性なモンスターも多いからそういう対策は取られているだろう」
「どうしてゼノはそんなことまで分かるの?」
「周辺のモンスターの分布状況とかを調べておくのは常識だろ……お前らがそういう用意をしてなさ過ぎるんだ」
「それは……」
ゼノの正論をぶつけて魔族であることを誤魔化した。
あいつが自分から魔族だと明かしてくれればなんて思っていたが、そうはうまくいかないようだ。
「結局また振り出しでござるな……」
何1つ解決しないこの状況に胃が痛くなってきた……
やっぱりシャワー浴びて寝たいな。
「そうだな……なあ正成、お前忍者なんだし門からじゃなくてもいいからどうにか潜入できないのか?」
「門からでなくていいなら多分可能でござる。しかしその方法では召喚士殿が真似できないでござる」
「いや、俺が入れなくても誰かが入れればそれでいいんだよ」
なぜこんな簡単な方法を今まで忘れていたのだろうか……
誰か1人でも中へ入れればリリィの魔法で中に入ることができるじゃないか。
ミリエリ姉妹をアホ扱いしてたけど、俺は俺で相当抜けてたな……
「なるほど……召喚士殿の潜入が無理ならば、それに特化した正成殿が潜入してリリィ殿の魔法で移動するわけか」
「それなら確かに全員まとめて移動ができますね」
「最初から三厳は必要なかったんだね」
「おい、そこの貧乳。一言余計だ」
「貧乳って呼ぶな!」
目には目を、歯には歯を、一言余計な言葉には一言余計な言葉を。
いい歳して頬を膨らまして怒っているエリスはさておき、これで城門を越えることはできるだろう。
ただ問題はそこからなんだよな。
「──ところでずっと気になっていたのですが、どうしてマスターは精神支配に耐えられるのですか?」
「召喚士が耐えられるというよりも月詠のローブに精神系の魔法に対する耐性があるんだ」
「それなら召喚士が前に出なくても、他の誰かがローブを羽織ればいいんじゃないかしら?」
えっ?
「確かにミリスの言う通りマスターがわざわざ前に立つ必要はないですね」
「…………」
コクコクとサシャにまで同意されてしまう。
俺の出番は?
いや、前に出なくていいならそれはそれでありがたいんだけど。
「その方法は一番不合理である。──もし月詠のローブを外した召喚士殿が精神支配を受けてしまったらどうしようもないではないか」
「こいつの召喚能力は絶対服従の契約なんだ。──敵に回すと一番厄介な精神支配術士は間違いなく召喚士だぞ……」
そして次は疫病神的扱い!?
ヤバい、そろそろ心が折れそう……
「ならいっそのこと三厳をここに置いていけばいいじゃん。代わりにゼノがローブを着て役割を交換すればそれで問題ないでしょ」
はい。
もういいです。
引きこもりしてます。
「召喚士殿を危険な目に合わせたくないという気持ちは分からないでもないでござる。──ただ拙者はそれでも適任は召喚士殿だと思うでござる」
「ござるの言う通りだ。この中で一番咄嗟の対応ができるのは召喚士。俺が最前線に立った方が戦力は安定するかもしれねぇが、どうしようもない事態に陥った時に対処ができない」
「それはそうだけど……」
「ミリス殿やリリィ殿たち女性陣が皆召喚士殿の事を好いていることは分かっている。──しかし某たちがすべきことは召喚士殿を安全な位置に配置することではなく、守ることではないか?」
正成、ゼノ、アークの説得に俺を前線に立たせたがらなかった4人は沈黙する。
こいつらのフォローに今度は違う意味で涙が出そうだわ。
「要約すると普段は戦闘にまったく参加しないヒモ召喚士をたまには働かせろってことだ」
やっぱさっきの言葉撤回!
俺の涙を返せ!
まだ流れてないけど返せ!
「結構大事なところで戦ってるだろ!」
レーグス戦とかクセフィロ戦とか後リリィの相手とか。
むしろそれくらいしかやってないのは事実だけど。
「自滅して3日間目を覚まさなかったり、腰を抜かしてとどめをさせなかったり、相討ちで結局気絶してしまってるやつが偉そうに言うな」
はい。
醜態ばかりさらしてしまいすみませんでした。
「ホントにそんなんで大丈夫なのかしら……」
「なんか心配になってきた……」
「まったくです」
「…………」
今度は大丈夫だからなんて言えない自分がとても悲しい。
それでも前に進むしかないよな。
「そう落ち込まないで欲しいでござる。そういうことにならないように精一杯助太刀するでござる」
「そうですね。マスターは私が守りますから安心して戦ってください!」
「某も後方からしっかりと支えてみせよう」
「まあ、リリィたちの言う通りね」
「…………」
「ござるの人もたまにはいいこと言うじゃん!」
「──だから拙者は正成でござる」
なんか泣けてくるな……
頼もしい仲間たちだよホント。
「それでは早速城の前まで戻りましょうか──」




