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さらにあの一件から2週間ほどが経過し、ようやく俺たちは魔王城周辺まで辿り着いた。
「大きな城でござるな……」
「今からここを攻めるんだよね。……大丈夫なのかな?」
「案ずることはない。某たちは強い。慢心せず望めばきっと勝利は掴めよう」
「そうね。誰か1人を除けば連携も完璧。──それにこれくらいで負けてしまうようなら魔王討伐なんて夢のまた夢よ」
頼もしい限りだが、ミリスの言う誰かとは誰のことなんだろうな?
まったく使えないやつもいたもんだ……
「それじゃ今回の作戦について話をしておくが、相手は魔族の中でも貴族と呼ばれる上位魔族だ。──だからこそ万全を期す必要がある」
「それは分かるけど、それならいつも通りでいいじゃん」
「そうはいかない理由がある。俺たちの目的はここを乗っ取って居城にすることだ。いざとなったらリリィの火力に任せる戦い方はできない」
「その上相手はまた精神支配を仕掛けてくるかもしれない」
「確かに……しかし対処法はあるのだろうか?」
「──俺が最前線に立つ」
できることなら後ろでのんびりとしていたいんだけどな。
でも魔王と戦う前のウォームアップとしてはこれ以上にないチャンスだろう。
「つまり私は防御魔法に専念すればいいんですね」
「ああ、リリィには後方で防御に徹してもらう。アークは俺の後ろで援護。ミリエリはサシャとリリィの護衛。そして正成には気配を消して俺とともに前に出てもらう」
「ゼノ殿はどうするでござるか?」
「ゼノは外で待機だ。緊急時に退却する時のポイントになってもらう。──ここはゼノと正成のどちらを残すか迷ったところだが、完全に気配を消せるゼノの方が最適だと判断した」
本音を言うと魔族であるゼノを前線で使えなかっただけだ。
いくらバルハクルトとかいうやつが穏健派とはいえ、俺と魔王の関係を知られたらまずいからな……
「それはいいとしてもあの見るからに強固そうな城門はどう突破するのよ?」
城門突破か……
門に立つ見張りは10人。
さらに城壁の上に見張りがたくさんいる。
リリィの魔法で突破できない今となっては正面突破は難しい。
それはミリスに言われるまでもなく分かっていたことだ。
黒い馬に乗った朱槍の人が現れて突破してくれればベストだが、まあそんな展開はないだろう。
「これ使ってどうにかするわ」
エスシュリー(仮)を操作して取り出したのはローブ。
ゼノが術士から剥ぎ取ってきた相手の紋章が入ったやつだ。
「それでごまかしきれるわけないじゃん」
「そんなことは召喚士殿も承知しているでござる」
「…………」
正成の言葉をサシャがコクコクと肯定する。
ああ、サシャには気付かれていたのね。
「召喚士はここ2週間何もしてなかったわけじゃないからな。あくまでローブは保険みたいなもんだ。──今じゃござるよりも気配を消すのがうまくなってるから問題ないだろう」
「悔しいでござるが事実でござる。──それと拙者は正成でござる!」
「三厳って妙なところで器用だね……」
なぜそこで呆れた表情をされないといけない!
器用だっていいじゃないか!
「──しかしマスターが1人で行ってしまってはもしもの時はどうするんですか! 私は認められません」
「しかしそれでは正面突破をするほかあるまい。そちらはそちらで無謀ではないか」
「それでもです! マスターの代わりはいないんですよ!」
俺の意思を汲んだアークの言い分も、俺の身を案じるリリィの言い分も間違っているとは言えない。
リリィに関していえばそこに別の感情が混じってしまっているのが分かるが、それを抜きにしたとしても魔王を倒すためには俺の力が必要なのは事実。
誰が悪いわけでもないが雰囲気は次第に悪くなっている。
何か対策を考えなければ……
「仕方ないでござる。拙者が先陣をきるでござる」
そう考え始めた矢先正成が解決策に繋がる可能性を示してくれた。
「ござるの人が先陣をきったところで何の解決にもならないじゃん」
「そうでもない。──むしろこれは妙案だな」
「ちょっと、どういうことよ」
ミリエリ姉妹は正成の意図を理解できなかった。
最近は前線で戦う姿ばかり見ていたから頼もしく思っていたが、そういえばこの姉妹はそろってアホな子だったな……
「正成殿が気配を消して城門と抜けるのであれば、成功した場合には召喚士殿も抜けられる事が証明される。万が一失敗してしまった場合でも召喚を解除すれば離脱することができると言うことだ」
「アクルセイド殿の言う通りでござる。捨て駒になるつもりはござらんが、主君の通る道を作るのも忍の役目でござる」
「なら正成に任せるぞ。万が一の時はあれを使ってくれ」
「心得たでござる。──それでは行ってくるでござる」
正成は颯爽と飛び出していく。
俺からすればその姿が確認できるせいか滑稽に見えるが、今のあいつならきっとやり遂げてくれるだろう。
「──あの、万が一の時のあれとは何のことですか?」
「恐らく煙幕のことだ。ござるは面妖な手段を使うことに関してだけなら優れた才能を持っている」
「姿を煙で隠している間にその合図を受けた召喚士殿が解除を行う算段と言うわけだな」
「なるほど……マスターはそんなことまで考えていたのですね」
普段から特訓に付き合ってもらっているだけあってか、アークやゼノはそれぞれの戦術に関する理解力が高い。
なるべく正成から目を離したくない今は代わりに説明をしてくれているし頼もしい仲間だわ。
「今のところはバレていないみたいだな」
「ああ」
城門到達まで残り10ユーレ。
身を隠す場所もなく確実に視界に入る位置まで近づいても気付かれている素振りはない。
ここまでくれば音で気付かれるようなへまでもしでかさない限り見つかることはない。
しかし問題はそこではなかった。
「ねぇ、姿を消した状態でどうやってあの門を開けるの?」
「あっ……」
「まさかそこは何も考えてなかったなんて言わないわよね?」
何も考えてなかった……
門がひとりでに開くわけもないし、何かのきっかけがない限り近付けたところで意味がなくね?
「作戦の練り直しだな……」
「三厳しっかりしてよ!」
「いや、俺だけじゃなくてお前らも気付いてなかったじゃないか!」
「それはそうだけど……」
「──今はそんなことで争っている場合ではありませんし落ち着いてください」
「…………喧嘩……ダメ……」
「分かってるよ。それじゃ1度態勢を立て直そうか」
俺は「解除」と力なく声を出し、こちらと同じことに気付いたのか門の前で右往左往する正成を回収する。
そしてリリィの移動呪文で1度町へ引き上げることにした。




