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RPG~召喚から始まる魔王討伐~  作者: 柊雪葵
第3章 魔王城への道
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13

「やっと起きたか馬鹿召喚士……」



 目を覚ますなり待ち受けていたのはゼノの憎まれ口だった。

 しかしその声にいつものような元気はない。

 それどころか疲弊しきっているように見える。



 なぜだ?

 その答えは周りを見て答えが出た。



 周囲は一面が焼け野原。

 そして隣に倒れているリリィの姿。

 そうか、俺はリリィと戦った後に気絶して──



「わりぃなゼノ。少し待っててくれ」



 俺は背中の痛みを堪えてエスシュリー(仮)を操作する。

 そして「召喚」と呟きミリス、サシャ、アークを呼び出し、もう一度「召喚」と声出した。



「おいチビッ子、傷を治してくれ。──それと残りの4人は周囲の警戒を頼む」



 ゼノも地面へ倒れ込む。

 俺がどれだけの時間気絶していたのかは分からないが、その間1人で俺とリリィを守っていた。

 それだけははっきりと分かる。



 なぜゼノが移動魔法を使わなかったのかは謎のままだが、もしかしたら自分以外を移動させることができないのかもしれないし、移動魔法が使えることを知られたくないのかもしれない。

 気になりはするが、それは今確認すべきことではないのだろう。



「…………光よ。神職の加護の元に傷を癒し賜え──」



 サシャは回復呪文を唱えてまずはゼノの傷を癒す。

 そしてもう一度詠唱すると俺の傷を治してくれた。



「──それで何があったらこうなるのよ!?」



「今はそれよりも町へ返ることが先決だ」



 ミリスの当然の疑問をゼノが1度飲み込ませる。



「…………光よ。神職の加護の元に傷を癒し賜え──」



 そして最後にサシャがリリィの傷を癒した。



「──私は……マスター! 大丈夫ですか!?」



「話は後だ。今は町へ戻りたい」



「分かりました。それではミュナーへ戻りましょう。──我の記憶の欠片よ。時を紡ぎ我をかの地に誘い賜え──ワーティ!」



 ロリリリィの魔力では詠唱なしでは8人を同時に移動させることができないのか、珍しく詠唱を唱えた。



 そして舞台は移動しミュナーの町。

 贔屓にしている宿へ戻ってこれた。



「──それで何があってこうなったのよ?」



「そうだよ。三厳(みつよし)が急に召喚を解除するからみんな心配してたんだからね!」



「それは……」



 すごい剣幕で聞いてくるミリエリ姉妹に、リリィが泣きそうな顔をして説明をしようとする。

 しかしそれ以上の言葉は出てこない。



「そこのエルフは召喚士を庇ったせいで精神支配を受けてしまった。それで俺が術士を追って、召喚士がエルフの暴走を止めていたんだ」



「その後の事は話せば長くなるから端的に話すが、俺1人の方がいいと判断したから5人の召喚を解除した。その後はリリィと戦って相討ちになって気絶してたわ」



 ゼノの言葉を引き継ぐように簡単な説明をする。

 それでもミリスは納得していないようだった。



「それでどうしてリリィは元の姿に戻っているの? それにあんたはなんで私たちに頼らないで無茶をするのよ」



「リリィの魔法をまともに受けきれるのが俺しかいなかったからだ。リリィが俺に攻撃をしたなら忠誠の効果が切れて小さくなる可能性があったが、お前らがいて先にそっちに攻撃がいってしまったら犠牲が増えるだけだろ?」



 あの時の俺はリリィの忠誠のことなんて正直言って忘れていた。

 ただゼノを信じて全滅することだけを防ぐための手段があれだっただけだ。



 あのあいつらの連携した戦い方を見ていたら、俺がいなくなったとしても問題ないのではないか。

 そういう思いがあったのは否めない。



「あの、マスター。──いえ、三厳さん」



「どうした、リリィ?」



 なぜそこで言い直したのだろうか?

 それの意味する事を考えると嫌な答えしか出てこない。



「私はパーティーから抜けさせて貰います」



「ちょっと!? リリィ、急にどうしたのよ!?」



 その言葉はリリィらしい一言だった。

 そう思うと同時に怒りと悲しみが沸き上がってくる。



「いくら精神支配を受けていたとはいえ、マスターである三厳さんを攻撃してしまったことに代わりはありません。──なので、私には、もう、一緒に冒険する資格なんて──」



 涙ながらにそう言うリリィを見て身体が自然と動いていた。

 もうそれ以上の言葉を言わせたくなかったし、聞きたくもなかった。



 だから今度は俺からリリィの唇を奪った。



「…………マスター?」



「大丈夫だって言っただろ? リリィにまだ少しでも俺たちと冒険したい気持ちがあるならそんな悲しいことはもう言わないでくれ」



「…………はいっ!」



 リリィの身体が俺の腕の中で再び大きくなっていく。



「──まったく……イチャつくなら2人の時にしてくれ」



 空気をよまないゼノの一言で俺は正気に戻る。



 ああ、ヤバい。

 なんて恥ずかしいことをしてたんだろう。



「どうしてゼノは空気がよめないかな……」



「まったくでござる。2人の愛が結ばれた感動の場面だったでござる」



「…………」



 こくこくとサシャまでもに同意されている。

 いや、俺は忠誠の儀式をやり直しただけのつもりだったんだが……



「──私とマスターはそのような関係ではありません!」



 いや、リリィさん。

 そうもはっきりと断言されるとそれはそれで傷つきます。



 前に同じような展開があった気がするけど、たとえ2度目であろうと傷つくことにかわりはないんです。



「…………んっ……」



「ちょっと!? サシャまで何をしてるのよ!?」



 なぜか分からないがサシャにまで唇を奪われました。

 不意打ち過ぎて心臓がバクバクいってる……

 断じてロリコンではないけどな!



「えい!」



「──きゃっ!」



 次はミリスですか……

 あの媚薬の一件があって俺に気があるのは知っているが、まさか妹に背中を押される形でキスをしてくるとは……



 いや、物理的にだから事故みたいなものなんだけどな。



「そして最後に私もっと──」



 挙げ句の果てにはノリノリのエリスに押し倒されてゲームセット。

 完全試合達成ですわ。



「こんなやつのどこがいいんだか……」



 おい、ゼノ。

 さらっと酷いことを言っているが、聞こえているからな!



 てかお前らは見てないで助けろよ!



「ああ、もうお前ら部屋から出てけ! ──あっ、ゼノだけは残れよ」



「やっぱり三厳はそっちの気が……」



「それはそれでありです」



「…………」



 ミリス以外の女どもは不名誉な誤解を口にして部屋を出ていく。

 なんでこれで同性愛者的な扱いを受けないといけないんだ。

 それとお前たちは腐るんじゃない!



 なんて言っても聞こえるわけもなく「はぁ……」と1つ溜め息を漏らす。



「色男は大変だな」



「そう思うなら早く止めてくれ」



「あれだけ嬉しそうにしててそう言われてもな」



 だって嬉しいじゃないか。

 美女に囲まれたハーレム展開なんて男の夢だろ。

 かといって手を出すわけにいかない状況だから理性を全面に出していかないといけないのが余計に辛いが……



「──それで俺だけ残して何の用だよ」



「あの術士の正体について」



「知らんな」



 ゼノがしらばっくれる。

 これ以上踏みいるべきかどうか迷ったが、仲間の命を危険にさらされてまでお人好しを続けるつもりはない。



「嘘だ」



「なぜそう言いきれる」



「お前は状況が分からないはずのあの状況で精神支配の術だと言い切ったからな。あそこは既に魔王軍の領域だ。──それなら知らない方が不自然じゃないか」



 ゼノは観念したのか「はぁ」と溜め息を漏らした。



 そして真相を語り出す。



「あれは親父に支える貴族の1人が得意とする術式だよ。俺が追ったやつのローブにもその紋章が刻まれていたから間違いないだろう。──まあ、その貴族様がこの一件に関わっているとは思えんのだがな……」



 ゼノが貴族様なんて言うと嫌味にしか聞こえないな……

 てか、多分嫌味だろう。



「──それでそのポーズはなんだよ……」



「嫌味を身体で現してみたんだが……」



 俺の渾身の嫌味ポーズはやっぱりゼノには通じなかった。

 そんなことは置いといて話を戻そう。



「その貴族とやらの情報を寄越せ」



「ちっ……仕方ねぇな。バルハクルト卿はさっきも言った通りに精神支配の術式を得意とする魔族だ。穏健派の魔族で親父からの信頼も厚い。第2魔王城なんて呼ばれる立派な城を魔王城のすぐ近くに建てれるくらいだからな」



 ふむふむ。

 穏健派というのが本当なのであれば、あの術士はそのバルハクルトとやらを通さずに行動したのだろう。

 しかしそんなことはどうでもいい。



 俺はあることを考えてニヤリと笑った。



「なんだよ……その不気味な笑みは」



「俺は決めた。──そのバルハクルトの第2魔王城を占拠する!」



 ちょうど魔王城近くに宿が欲しいと思っていたところだ。

 それに魔王直近の城を攻めるとなれば現状把握にはもってこい。



 そうして俺たちは現在の居城であるその城に攻め入ることを決めたのであった。

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