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「まずは人選だな。最悪の場合を考えて最高の布陣で臨みたいところなんだが……」
「何か問題でもあるのか?」
「ちょっとな」
リリィの方を見る。
見事に視線をそらされた。
やっぱり前回のことがあってか、ライドラに乗ることに抵抗があるらしい。
「それなら三厳とリリィとゼノの3人ってことになるのかな? 私たちじゃレベルが違いすぎて足を引っ張りそうだし」
「何よりライドラ殿に乗ることすら叶わないでござるからな」
「そうしたいのは山々なんだが……」
もう一度リリィを見る。
やはり見事に視線をそらされた。
「リリィはなんだか行きたくないみたいね」
「おい召喚士、何かしたのか?」
「俺は何もしてないんだけどな」
「やった方は自覚がないものなのよね……これだから男は」
「なんでそうなるんだよ……さっきまで普通に話してたじゃないか」
「それはそうね」
なら、とミリスがリリィを見る。
リリィは観念したのか真相を語り始めた。
「ライドラさんにはもう乗りたくないです」
「え?」
「だってすごく高いんですよ! その上マスターは平然と乗ってますけど、気を抜いたら振り落とされそうになりますし」
「俺が乗った時はそんなことなかったけどな」
「ゼノが乗った時はスピードを出してなかったからな」
「──またあれに乗るくらいなら死んだ方がましです!」
そこまで言うか。
てかそこまで言うくらいだから無理にリリィを連れていくわけにはいかないんだろうな。
「……なんか俺も嫌になってきたぞ」
「どうした? ゼノ、怖いのか?」
「んなわけあるか!」
「ならゼノは参加な」
「望むところだ!」
今日に限ってはゼノがチョロい。
本当は怖いんだろうと思うが、2人ともに欠けられてしまってはそれこそ俺が死んでしまう。
「2人で大丈夫でござるか?」
「そうだな……」
そう考えたところでローブを引っ張られる。
もちろんこういう風に引っ張ってくるのはあいつしかいない。
「サシャ、今度はどうした?」
「…………行く……」
「サシャがついてくるのか?」
「…………」
コクコクといつものように頷く。
リリィが来ない以上防御力に不安が残るところだからサシャがいてくれると助かるのは事実だ。
しかし、問題が2つ。
肝心のサシャを守る役割を俺たち2人ではできないことと、そもそもライドラがサシャを乗せてくれるかどうか。
さて、これはどうするか……
「このチビッ子でもいないよりはましかもしれないな。俺はともかく召喚士は守備力が脆い。ローブに頼りきりだと俺がまともに戦えなさそうだ」
「…………お兄さん……守る……」
「ホント三厳って──」
「エリス、それ以上言うな」
「はーい」
「まあ、そうと決まれば後はライドラ次第だな」
「そうでござるな。サシャ殿も無事に乗れるといいのでござるが……」
「それは確認してみないと分かりませんね。──まあ、このままここにいても話は進みませんから移動しましょうか」
そしてとうとう移動の時が来る。
着いた場所は雨の降るツヴァイスの町。
さすがに室内に移動するわけにもいかないのか、すぐに濡れ鼠になってしまった。
「寒いな……」
「これくらい我慢しろ」
はい。
ごめんなさい。
でもここまで濡れてしまったら後はどれだけ濡れたとしても同じだな。
風邪をひいてしまわないようにさっさと町の外に出よう。
「目的を果たしたらまた連絡する」
「はい、分かりました。私は先に戻らせてもらいますね」
リリィはそう言いながらエスシュリー(仮)を操作する。
恐らく残ったミリエリのどちらかに風呂場に行くように指示を出しているのだろう。
まあ、濡れたままで宿に移動したら店主から怒られてしまうからな。
「じゃあ俺たちもさっさと行くか」
「そうだな」
「…………」
考えてみれば初めての組み合わせだな。
というかそもそもリリィかゼノとしか一緒に行動してないのか。
端から見たら俺だけハブられてるみたいだな……
なんか悲しい。
そんなことを考えていたら町の外へ辿り着いた。
それじゃあいつを呼ぶとしますか。
「召喚!」
「はっ!? ──召喚士か。こんな雨の中どうしたんだ?」
「この雨を降らしているモンスターを討伐しに行きたい」
「ふむ。それでそのモンスターがいるのはどこだ?」
あっ……
リリィにエクシュルードの場所を聞くの忘れてた……
「…………あっち……」
リリィを召喚しないといけないなと思っていたところでサシャが方角を指差す。
降りしきる雨のせいでその方向に山らしきものは確認できないが、サシャが言うのであれば正しいだろう。
「あっちみたいだ。目的地は山の頂上部分で、申し訳ないが雲の上なんだが頼めるか?」
「モンスターを討伐しない限りは先に進めないのだろ? それなら多少辛くてもやるしかない」
「それと今回はゼノとサシャを乗せて欲しい」
「3人か……結構辛いな」
「…………乗りたい……」
「命の恩人がそういうならがんばらないといけないな」
サシャの懇願にあっさりとライドラは背中に乗せることを認めてくれた。
命の恩人とはいうが、ほっといても死ぬような怪我ではなかったんだよなあれ。
「それなら俺は地上で待機しておく。よく考えたら頂上に着いてから呼び出してもらえば良いだけだからな」
あっ、それは盲点だった……
ならいざという時でも、余裕さえ作れればリリィも呼び出せるんじゃね?
「分かった。それならライドラに乗るのは俺ら2人ってことで」
「うむ、それならば問題はない」
そういい濡れきった大地に身を伏せるライドラにまずはサシャを抱えて乗せる。
そして俺が飛び乗ったところでライドラがゆっくり飛び立っていった。
てか、うまくゼノに逃げられてしまったな……




