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翌日も雨が止むことはなかった。
「また雨ですね……」
「──そうでござるな」
「きゃっ!? 正成さんいたんですか!?」
「正成殿は最初から──」
「きゃっ!? アクルセイドさんまで!?」
なんというか、リリィは気配を察知する能力が欠如しているようだ。
昨日ゼノから教えてもらってはいたが、そんな一朝一夕で身に付くものでもない。
現に俺は2人の存在に気づいていたしな……
「ござるの人はともかく、アークさんは普通にいたじゃん」
「ふむ……まだまだ修練が足らんか……」
「もう何がなんだか分からなくなるのでやめてください」
「おいゼノ、苦情が出てるぞ」
「──はぁ……なんで召喚士は俺の気配まで読み取れるようになってるんだよ」
別に気配を感じていたわけではない。
ただ昨日のようにどうせいるんだろうなとやまをかけただけだ。
「もう意味が分からないわよ……」
「まったくです」
気配を消す素質がなかったミリスとリリィは現状が不満なようだった。
元から気配の消し方を知っていたゼノと正成はともかくとして、昨日初めて挑戦したエリスやアークには才能の欠片があったから取り残されているように感じているのだろう。
しかしそれ以上に化ける可能性を秘めたやつがいるんだよな……
「──それでサシャはさっきから何をしようとしてるんだ?」
「…………お兄さん……」
声をかけられて意を決したのかサシャが抱きついてきた。
うん、意味が分からないな……
「サシャさん、マスターが困っているので離れましょうね」
「…………嫌……」
サシャは抵抗するように俺の身体を掴んでいたが、呆気なくリリィに引き離されてしまった。
そんなリリィを見ていて大人げないなと思いはしたが、ずっとくっつかれていてもあれだからそれは気にしないことにしよう。
「それにしても召喚士殿は気配にすごく敏感でござるな。拙者はサシャ殿に気付かなかったでござる……」
「確かにそうね。何かコツでもあるのかしら?」
「それは某も気になるな」
「コツねぇ……」
正直いうとコツなんて自分でも分からない。
言うなれば幼少期から染み付いていた感覚。
抜刀術を使う際に相手の動きを読み取る感覚に近いものだ。
「──特にないな」
「何よそれ……」
「三厳は謎が多いね。ホントにすごいんだかすごくないんだか……」
「まあ、感覚的にできていることを人に教えるのは難しいからな」
ゼノがフォローを入れてくれたが、それでもミリスは納得をしてないような顔をしている。
そんなに仲間外れみたいな状況が嫌なのだろうか?
なんてことを考えていたら全員のエスシュリー(仮)が、一斉に起動した。
「何事でござるか!?」
「冒険者全員に送られた緊急クエストみたいですね」
とりあえず送られてきた緊急クエストの内容を確認する。
達成目標はこの降り続いている大雨を止めること。
プロセスはエクシュルードに巣くうモンスター『クセフィロ』の討伐。
「つまりこの雨はそのクセフィロとかいうのが引き起こしているということか……」
「そうみたいですね」
「ところでそのエクシュルードっていうのはどこにあるの?」
「場所的にはツヴァイスの近くね。今いるミュナーから結構遠いけれど、リリィがいるから移動は問題ないわ」
ツヴァイスといえばミリスたちがパーティーに加わった時に泊まっていたあの町か。
まあ、それが分かったところで実際に自分の足で移動をしていたわけじゃない俺にはどこ辺りなのか分からないがな。
「しかしこの雨の中エクシュルードへ登るとなれば相当苦戦を強いられるだろう」
「そんなに大変なところなのか?」
「地形に問題があるのでな。モンスターは構わんとしても土砂崩れなどの天災との戦いになる」
「リリィ殿の魔法で移動はできないのでござるか?」
「私はエクシュルードには登ったことがありませんので無理ですね」
さて、話が面倒なことになってきたぞ。
察しのいい俺には分かるが、ミリスあたりが召喚士がライドラに乗って行けばいいと言い出す展開だ。
「わざわざ登らなくてもあのドラゴンに乗っていけばいいのよ」
「──ほら」
あっ、声に出てた。
「三厳、急にどうしたの?」
「なんでもない。でも敵が何処にいるのか分からない以上はどうしようもないぞ」
「それなら問題はないだろう。恐らくクセフィロが棲息しているのはエクシュルードの頂上だ」
「なぜそんなことが分かる」
「あの山は頂上部分だけが雲よりも高い位置にある。雨を降らせているのであればそこしか考えられないであろう」
ああ、そろそろヤバい。
クセフィロだのエクシュルードだの初めて聞く言葉が連発しすぎて意味が分からなくなってきた。
「なるほどな。そういうわけだから召喚士殿はがんばってくれ」
「敵の強さも分からない状態で俺1人は無理があるな」
「エクシュルード付近ならそんなに強いモンスターではないわよ」
「そうですね。あそこ辺りならばレベル500程度ですし問題はないと思います」
冒険者としてのキャリアを考えるとミリスやリリィが言っていることが恐らく正しいのだろう。
しかし──これが杞憂であればいいのだが、今回の敵はそんなに弱いものではないと思う。
「レベル500でRPG全域に雨を降らせているのか」
「…………それは……無理……」
「どういうことだ?」
「……………………」
ゼノの問いかけに対し、サシャは怖かったのか無言でリリィの背後に隠れた。
もう3ヶ月経つというのに、サシャはゼノを怖がり過ぎだろ……
「サシャ、どうして無理なんだ?」
「…………魔力……釣り合わない……」
「レベル500程度のモンスターの魔力ではこの雨を広範囲に降らせることは無理ということか」
「…………」
サシャはコクコクと頷く。
「マスターはよくあれだけで言いたいことが分かりますね」
「まあ、なんとなくだけどな。──それで問題はこれからどうするかを考え直さないといけないことだな」
俺たちは安易に突撃せず、今後の展望を立て直すことにした。




