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喫茶店の奥。
俺たち以外の客などいないそのバーは修羅場の様相を醸し出していた。
「──それでその女はなんなわけ? 家族を放置して異世界で彼女作りました──なんて腑抜けたこというつもりなの?」
「いえ、私はそんな恋人なんかでは──」
「──いいから部外者は黙ってて!」
「あの……はい」
リリィを連れてきたのは間違いだったかもしれないな……
ホント申し訳ないわ。
「ねぇ三厳。何か言ったらどうなの?」
「はぁ……そもそも話があるのは俺じゃなくてお前だろ? 言いたいことがあるなら吐き出してしまえよ。聞いてやるから」
「聞いてやるって何よ! 誰のせいで私が大変な目にあってると思ってるの!?」
売り言葉に買い言葉ではどうしようもないのは分かっている。
高々数時間とは言え俺の方が兄なのだから冷静に話を聞いてやらないとな。
「はい。何が大変なのか説明してみ」
「三厳が仕事を辞めたせいで母さんの機嫌が悪くて大変! その上連絡も取れなくなったせいで余計に大変! あんたに何かあったんじゃないかって家まで行ったらよく分からない世界に連れてこられて大変! そして元の世界に戻れなくて大変! もうなんもかんも大変!」
「そうか。悪かったな」
「なんであんたはそんな悪びれなく謝ってんの? 自分がしてること分かってる?」
「別に俺の人生なんだから何をしようと俺の勝手だろ……確かに連絡がつかなくなったのは俺の落ち度だが、その他のことをとやかく言われる筋合いはねぇだろ……」
「いっつもそう! 自分だけ大学行って、自分だけ好きな仕事について、自分だけ好きな生き方をして! 私の気持ち考えたことある!?」
美月の気持ちか……
考えるも何も大半は八つ当たりなんだよな。
言ったら余計キレるだろうから言わないが、大学に行けなかったのはあいつが勉強をしなかったからだし、その先のことは言うまでもないだろう。
別に俺があいつに今の生活を押し付けているわけではない。
「なら美月は俺の気持ちを考えたことあるか?」
「そんなの──ないけど……」
「俺も好きであの仕事をしてたわけじゃねぇよ。その結果5年も持たずに辞めてしまったしな。今はようやく自分のやりたいことが見つかったが、お前はそれすら認めてくれないのか?」
「だってそんなの不平等じゃん!」
「なら美月もやりたいことをすればいいじゃないか」
「簡単に言ってるけどそんなのできるわけない! 馬鹿兄貴にはそんなことも分からないの!?」
ホントこいつは頭が固いんだよな。
俺は俺で柔らかすぎるのが問題なんだが……
もう少しバランスよく生まれて来てればよかったんだろうけどな。
「何が障害だ?」
「まずは資金。三厳がいない中、母さんにお金を入れながらやりたいことなんてできるはずがない」
「やる前から決めつけるなよ。それにやりたいことがあるなら金くらい俺が出してやるし、母さんの説得もやってやる。それでもまだ何か問題があるか?」
「ない……ないけどどうやってお金を工面するの? それにこっちの世界から帰れないんだから意味ないじゃん!」
「リリィ──羽根はまだあるか?」
「えっ、あ、はい。──4枚あります」
急に話しかけられたリリィは戸惑いながらエスシュリー(仮)を確認する。
ほぼほぼこのためだけにリリィについてきて貰ったようなものだが、背に腹は変えられない。
埋め合わせは後ですることにしよう。
「資金をどうするかと母さんの説得は元の世界に戻ってからするか。とりあえずこのアイテムがあれば元の世界には戻れるからな」
「えっ?」
「あのAIのユリアとかいうやつに聞かなかったか? アイテムがあれば元の世界に戻れるんだぞ」
「聞いてなかった……帰せないって言われた時から頭が真っ白で……」
そんなことだろうとは思っていた。
そもそもこの事を知っていたとしてもグリフィスの羽根を手に入れれるかどうかは定かじゃないがな。
「──あの、マスターは戻ってきますよね?」
「多分な」
「言い方を変えます。マスター、戻ってきてくださいね」
「分かったよ」
そしてリリィからグリフィスの羽根を3枚受け取る。
その1枚を美月に渡し、1枚をエスシュリー(仮)にしまった。
「それじゃ帰るか」
「うん」
帰れることがそんなに嬉しかったのか、半泣き状態の美月の手を握るとグリフィスの羽根を使用した──
光がはれるとそこは懐かしの我が家だった。
日付は前戻った時から3日が過ぎている。
時間の進み方が違うのは知っていたが、ここまで違うと何か違和感めいたものを覚える。
「それで美月は何がしたいんだ?」
「決まってないけど……とりあえず三厳みたいに都会に出たい」
「漠然としすぎだな……お前独り暮らしとか大丈夫なのか?」
「多分」
多分って……
こういうところなんだよな。
やりたいことがあるならやればいいのに、そもそものやりたいことがない。
だからスキルアップもできないし、自ら行動に移せない。
兄妹ながらどうしてこうも違うのか……
「ならこの部屋を好きに使えばいい。どうせ俺はしばらく帰ってこないからな。──まあそれに俺が一緒と言っておけば母さんも少しは安心するだろ」
「うん。でも……」
「金は贅沢さえしなければどうにかなる。レートを調べないと額は分からないが、ここに金が1,200gある。──売れば500万くらいにはなるだろう」
机の引き出しの奥から小さな金塊を取り出す。
前までは株で運用していたものを金塊に変えておいた。
貯金も合わせればそれなりに暮らしていけるだろう。
「なんでそんなに……」
「美月がやりたいことを見つけた時に少しでも手助けできればって貯めといたんだよ。ああ、でも無駄遣いはするなよ」
「……うん」
「それじゃ母さんに電話かけるか──」
そんなこんなで妹との邂逅を終えた。
この先美月がどうなったのかは俺には分からないが、まああいつなら何だかんだうまくやっていけるだろう。




