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「ミリス! やりますよ」
「分かってる。援護は任せたわよ」
敵の気配の方向へリリィとミリスが駆け出していく。
長年パーティーを組んでいただけあってかその息はピッタリ──
「──援護するのはミリスの方です。私が殲滅するので引き付けてください!」
「何言ってるのよ。このくらいの数なら私にだって倒せるわよ!」
──というわけでもないようだ。
喧嘩するほどなんて言うくらいだし大丈夫だとは思うがな。
「既に疲弊してるミリスが楽な立ち回りになるのは当然です」
「私全然疲れてないから!」
「力量の差を考えてください」
「あー、もう分かったわよ。どれくらい稼げばいいの?」
「時間はいいです。敵を一ヶ所にまとめてください」
ようやく喧嘩が終わったようだ。
何の生き物なのかも分からないモンスター5体に向かってミリスが飛び込んでいく。
それに対応するようにモンスターがミリスに集中した。
「ミリス! 避けてください!」
リリィはそう叫ぶと、詠唱もなしに右手から炎系の呪文を放つ。
間一髪のところでミリスがそれを避け、モンスターの群れは消し炭になった。
「ちょ! リリィ危ないじゃない!」
「ミリスならあれくらいは避けられて当然です」
「まったく……そういうところは昔から変わらないわね。でも威力が上がってるから本気で死ぬかと思ったわよ」
二人の言い合いはまだまだ続く。
もちろん俺はノータッチだ。
「──お主、少し尋ねても良いか?」
そんなこと考えてたらミリスの仲間の1人。
左目に刀傷がある厳つい男に渋い声で話しかけられた。
「何?」
「術士の間ではそういう曲刀が流行っているのだろうか?」
厳つい男の質問の意味が分かるようで分からない。
曲刀というのは俺が挿している日本刀擬きのこれのことだろうと思うが、直刀が主流なこの世界では使っているやつなんてそんなにいないだろう。
つまりこいつは何が聞きたいんだ……
「……流行ってはないだろうな。これはなんというか元いた世界で使い慣れたものなんだよ」
「ふむ、特殊な文化というわけか。──ああ、申し遅れた。某アクルセイドと申す。職業は闘剣士。剣の道を極めんと欲するものだ」
「俺は召喚士。まあリリィに連れてこられただけだから気にしないでくれ」
「リリィというのはあのシュリーンギアのことだろうか?」
もうなんというか定番の展開になってるなこれ。
気持ちは分かるけど、その説明を俺に求めないでくれ。
「ああ。詳しいことは本人に聞いてくれ」
「うむ。それで主ら2人は何用でここに?」
「ミリスを迎えに来たらしい」
「そうか。シュレイザーも脱退か。寂しくなるな……」
「──マスター。それでは行きましょう!」
悲しみの余韻。
それを打ち消すようにリリィが戻ってくる。
「ああ──」
「──シュリーンギア殿、申し訳ないが本隊に合流までは某と共に来ては貰えぬか? ここでシュレイザーに抜けられてしまうと……」
「さすがにそうですよね。マスター、もう少し予定を伸ばしてもいいですか?」
「俺が何もしなくていいならな」
「分かりました」
「こいつはクズのままなのね……クズは死んでも治らないから覚悟はしてたけど」
ミリスさん辛辣です。
それに死んでも治らないのは馬鹿です。
「それでは1度本隊に合流しましょう」
ミリスとアクルセイドが先頭。
殿にリリィを配置して、既に疲弊仕切った3人と戦う気のない俺を守るように移動を開始する。
20分ほど歩いたところでようやく薄暗い森を抜け、見渡しのいい平地で本隊に合流した。
「本隊と言ってもそんなに多くないんだな」
「……そうですね。開拓隊の半分はミュナーに残っているとしても少なく感じますね」
「こっち方面の敵は強いからまともに戦える人員がそこまで集まらないのよ」
「だからミリスは逃げ出したくなったわけか……」
「勝手に負け犬認定しないでくれるかしら? 私はあなたと違って戦ってるじゃない!」
「まったく……冗談が通じないな」
「今のはマスターが悪いです」
はい。
反省します。
反省──と、かの猿の真似をしようとしたところで、挙げようとした左手の裾を掴まれた。
「…………」
「サシャどうしたのよ? こいつに何かされたの?」
なぜ俺はそんな鬼畜みたいな扱いを受けないといけないのだろうか?
ほら、サシャ。
何か話して誤解を解いてくれ。
というかなんでこんなことをしているのかの理由を教えてくれ。
「…………お兄さん……ドラゴン」
ん?
舌足らずなのは知っていたが、単語2つで話されてもすっとは伝わらないぞ。
お兄さんは俺のこととして、ドラゴン……はライドラのことか。
ということはきっとこう答えればいいだろう。
「おかげで今は元気になってるよ」
「…………」
目線を合わせてそう言ってはみたが、それに対するレスポンスはない。
ただほんの少し笑ったような気がするから、恐らく正解だったのだろうと思う。
「ねぇリリィ。やっぱりあいつ少女趣味があるんじゃないの?」
「それは……否定できませんね」
いや、否定してください。
俺は胸の大きい綺麗なお姉さんが好きです。
「でもあのサシャがここまでなつくなんてそれはそれで驚きなんだけどね」
「それは私も思いました。でもなんと言えばいいのかは分かりませんが、一緒にいると安心感みたいなものがあるんですよね」
「そんなよく分からないものにリリィも引っ掛かったわけね……私には理解できないわ」
「お前ら好き勝手言ってるんじゃない! てか送り届けたんだからさっさと帰るぞ」
「それもそうですね」
今度こそ任務完了と思ったが、そうでもなかったようだ。
一向にサシャがその手を離そうとはしない。
「サシャ、私たちはもう帰るのでその手を話してもらえますか?」
「…………」
リリィの問いかけにそっぽを向いて答える。
もしかしたら俺たちについてきたいのだろうか?
「サシャ、一緒に来る?」
案の定そう聞くとコクコクと首を振る。
正直なことを言うと回復役が仲間にいると助かる。
これぞ棚から牡丹餅だな。
「リリィ、サシャも連れていくぞ」
「──そうはさせないぞ七助!」
今度の今度こそ帰れる。
そう思った俺の耳に聞こえてきたのはどこかで聞き覚えのある──
というよりも確実に知り合いの声だった。




