12
「いざ行かん! カジノの街オリベー」
「なんでカジノなの?」
「そこで取り扱っている魔石を入手するのが今回の目的です」
「それで俺らはいつも通りレベルを上げとけばいいのか?」
「ゼノは俺たちと一緒に来てもらう。正成とエリスはオリベーの郊外で戦っててもらおうかな」
「確かに今の2人の力量であればオリベー近郊なら戦えるとは思いますが、さすがに私とゼノさんがどちらもつかないのは……」
「それなら大丈夫だ。こいつら2人にはライドラをつけるから。てかどっちかと言えば街に入れないし、王宮に閉じ込めておくわけにもいかないライドラの見張りを2人にやらせる感じなんだがな」
「なるほどな。それならいいんだが、俺がついていく理由はあるのか?」
「俺とリリィだけでは近接戦に向かないからな。何かあったときのための保険だよ。リリィの話じゃイカサマ上等らしい。柄の悪いやつに絡まれでもしたら大変だろ?」
「それくらい近接戦に持ち込まれるまでもなくエルフがどうにかできるだろ……」
「もし魔法を封じられてしまったら? 相手が単純な魔物ならいいが、そういう荒事をしてる連中っていうのは確実に魔法に対する対策くらいは取ってるだろ。逆の立場になってみろ。魔法でイカサマされ放題の状況を放置するわけがないだろ?」
「そう言われると返す言葉もないが……」
というわけで今日の予定は決定。
後はどれくらい時間をかけれるかだな。
さすがに長時間ライドラをあの2人に任せておくわけにもいかない。
命令しとけば心配はない気がするが、いざというときにあの2人じゃ抑えきれないからな。
「それでは移動しますね」
「あ、リリィ。街の位置を教えてくれ」
「はい、こちらの方角に4バルユーレ進んだところです。でもそれがどうかしたんですか?」
「ああ、ライドラの散歩も兼ねて俺は背中に乗せてもらおうと思ってな」
「そういうことでしたか。それならば私たちは先に移動しますね。到着したらエスシュリーに私の座標を送りますのでそれを頼りにしてください」
「了解。それじゃ俺たちも行くぞ」
「ああ。狭い部屋にいて身体が凝っていたからな。3分程度だが、飛べるだけでもだいぶ違うだろう」
そして一旦リリィたちと別れ、ライドラと広い空の旅に出る。
そのスピードは時速120キロくらい。
それだけのスピードが出ていても何故振り落とされないのかは謎。
バイクでそれくらいのスピードを出したときほど風を感じないし、ホントこれどうなってるんだろうな……
昨日雪山で乗った時は俺たちを落とさないようにと慎重に飛んでいた気がしたが、1日経って急にこれだからな。
ファンタジーの世界は本当に不思議だわ。
まあ、考えられるとしたらアレが要因なんだとは思うが……
「召喚士、このままの方向でいいのか?」
「ああ、えっと……もう少しこっち。──いや違うそっちだそっち」
「説明が下手だな……おっ、街みたいなのが見えてきたからあれだな」
俺の目からは街らしきものは確認できない。
ドラゴンって視力いいんだな。
ランドルト環あったら視力測ってみたいな。
って2.0までしか測れないから意味ないじゃん……
「召喚士、急下降するぞ。しっかり捕まっておけよ」
「おう」
ようやく俺にも街が見えてきた頃、ライドラから指示が入る。
急下降により地面が近付いてくる光景は、普段見ることができないこともあってかすごく楽しい。
そして重力を感じるその瞬間は本当に空を飛んでいることを実感できた。
まあ、その後に待っていたのは後悔だけどな。
「はあ……やっと解放された……」
「自業自得だろ……」
「そうですね。さすがに街に近づきすぎです」
「今度からは注意しよう」
「ああ、頼む。──それじゃ気を取り直してオリベーの街へ入るぞ!」
「どれくらいで戻ってくるでござるか?」
「何もなければ1時間くらいかな。それを過ぎるようなら誰か1人はこっちに戻すから」
「分かった。それじゃいってらっしゃい」
ここから別行動となる正成、エリス、ライドラに見送られ、俺らはオリベーへ足を踏み入れる。
目的地は迷うまでもなくカジノ──
と言いたいところだが、その前に1つ寄るべきところがあった。
「リリィ。アイテムの買い取りをしてる店に連れてってくれ」
「はい。ナルガシークの角を売りに出すんですね」
「ああ、それが今回の軍資金だ」
「さすがにヒモ召喚士でも人の金でギャンブルはしないか」
「そりゃそうだろ」
「人の金でやると取り分とかで揉めるからな」
「そうそう──って違うわ!」
そんな他愛もないやり取りをしているうちに目的地に到着する。
買い取り屋では魔法による審査が行われ、ものの2分程度で買い取り金額を提示された。
「1本1,500キール……相場的にはどうなんだ?」
「良心的な方だと思います」
「そうか。ならこれで同意だな」
取り引きの契約書にサインをして24,000キールを受け取る。
あれだけ大変な思いをしたのにこれだけかとは思わなくもないが、それでも4日は生活していけるだけの金額と思えばそう悪いものでもない。
第一俺の金銭感覚がおかしいんだよな。
冒険冒頭からリリィに甘やかされてきたからまともな感覚など分かるはずもない。
「それじゃカジノに入るか」
「そうですね。まずは景品交換を行っているカウンターまで行きましょう」
「まずは魔石が残っているか確認しないといけないからな」
そして俺たちはカジノの中へ入っていく。
思っていたよりも大きいそのカジノは入り口すぐにカウンターがあり、その奥にはスロットやルーレット、カードに賽子など元の世界でも馴染みのあるギャンブルが軒を連ねていた。
「あれですね。交換枚数は52万枚。今のレートがコイン1枚で100キールですので、5,200万キールが必要です」
ナルガシークの角3万本以上分の高額賞品。
途方もないその金額にあまり実感はわかない。
「とりあえず一回りするのか?」
「その前にコインを買わないとだな。──えっとあまりにかさばっても面倒だから50コインチップを4枚、10コインチップを4枚だな」
エスシュリー(仮)で支払いを済ませ24,000キールが8枚のコインに変わる。
かさばらないのはいいが、カジノというだけはあってレートが高いよな。
1コインチップ1枚でスロットができたとしても1回転100キールだからな……
もう金銭感覚なんて考えていたら何もできなくなりそうだわ。
「それでは説明も兼ねて1周してみましょうか。まずはこのカジノの目玉、巨人賭博です」
リリィが連れてきたのは大きな闘技場。
そこでは今、巨人と冒険者であろう人間の戦いが繰り広げられていた。
「デカいな……」
小並感。
そんな感想しか出てこないが、巨人というだけはあって相当デカい。
魔王と同じくらいだから5メートルといったところか。
挑戦者は普通に負けてるけど、こんなのに勝てるのそうそういないだろ……
「これは倒したらいいのか? それとも客は賭けるだけか?」
「どちらもできますが、基本は賭ける方が多数派ですね。ちなみに勝利できたら1万コインが賞金ですが、魔法の使用は禁止なので私は参加したことはありません」
「1万コインか……やってみてもいいな」
「しかしそれはダメなんだよな」
「なんでだよ!?」
「年齢制限。実を言うと連れてきててなんだけど、ここ20歳未満は立ち入り禁止みたいだ」
「ちっ、年齢確認されたら面倒だから静かにしとけってことかよ」
「すまんな」
「それなら巨人賭博はパスということで次に行きましょう」
それからはポーカーやブラックジャックなどのカードや、チンチロリンに似たルールの賽子、ルーレットなどを見学していく。
見学した中ではブラックジャックが簡単に攻略できそうだが、俺の目にとまったのは他の物だった。
「リリィ、これは?」
「それは回胴ですね。ボタンを押して七を揃えるゲームで、5つの七を1列に揃えることができたら100万倍の配当となっていますが止めた方がいいと思いますよ」
5リールで縦に3列。
見た限りは元の世界のスロットと間隔が変わらない事を見ると図柄は21だろう。
つまり七が1列に止まる確率は21の5乗分の1──
単純計算で400万分の1か。
まあ、機械で抽選されていない場合はだけどな。
「これやりたい」
「まあ、少しくらいなら構いませんが……」
「50コインチップの台あるのか。これ当たったら一気に5,000万コインになるな」
「お前はアホか……そんなの1回で当たるわけないだろ」
「1ベットで中段のみ有効にすれば4回できるから!」
「そんなの余計当たらないわ!」
「やってみるまで分からないだろ!」
「はあ、好きにしろ……」
言われなくても好きにする。
まあ、こんな不毛なやり取りをしている間に他人が回しているのを見てある程度情報は集まったしな。
結論から言おう。
機械による抽選はされていない。
リールが滑っていないことをみればガチの目押し勝負だということが分かる。
それでも何故店が勝てるかと言えば、普通なら目押しすらできないほどにリールの回転速度が早く、狙うべき七が見えないからだ。
そんなこと俺の前には関係ないけどな。
「よし、回すぞ」
50コインチップを入れた1回転目。
5つのボタンをゆっくり適当に押していく。
「ほら、まったく当たらないじゃねぇか」
「まだ3回あるから」
そして2回転目。
またゆっくり適当に押していく。
七が左から中段、上、中、下、中に止まる。
「惜しいですが、やっぱりそう簡単には当たりませんよ」
「そうだ。もう諦めろよ」
「いや、もう1回!」
3回転目。
1、2回目とは違い早くボタンを押す。
今度は無、中、無、中、無。
第3リールが止まっていれば。
「さっきよりもダメだな」
「これは無理だな。ラストいくぞ」
最後の回転。
今度は3回目よりももっと早くボタンを押した。
そしてファンファーレが鳴り響いた。
画面には七が中段できっちり揃っている。
つまり5,000万枚の大当りだった。
「ホントに当てやがったよ……」
「マスターすごいです!」
「いや、冒険2日目からリリィと出会うとか運だけで生きてきてるからな」
「──お客様」
そんなやり取りをしているところにボーイがやってくる。
「当選おめでとうございます。高額配当の当選者は安全確保のため店の奥での受け取りとなりますのでお連れさせていただきます」
「仲間も一緒についていって大丈夫か?」
「はい、もちろんでございます」
そして俺たちは裏へ連れていかれる。
そこで待っていた展開は、何というか定番のそれだった。
「アンちゃん、イカサマはいただけないな。そんなことするやつは殺されても文句言えないから覚悟しろよ」
通された部屋で武装したチンピラ数十人に囲まれる。
この完全防備を見るに魔法を使えない部屋であるのは明白だろう。
「はあ……ゼノ、正当防衛だ。殺さない程度にリーダー以外倒してくれ」
「はあ……面倒だな」
「ガキどもが調子のってんじゃ──」
「耳障りだ」
これはさすがというべきかゼノは人数の差など気にするまでもなく、即座にチンピラたちを気絶させていく。
そして残るは1人となった。
「まだやるか?」
「い、命だけは……」
まあ、あんなの見せられたら腰も抜けるわな。
てか、これじゃどっちが悪だかホント分かんねぇわ。
「んじゃ聞くぞ? 俺がイカサマをした証拠はあるか?」
「ありません……すべてデマカセで、普段からこういう手段を使ってました」
「じゃあ俺は5,000万枚のコインを手にできるんだよな?」
「はい。で、ですか50億キールなんて大金支払いできないので……」
そりゃそうだろうな。
店を潰してでも──なんて脅してでもいいんだが、そこまでの大金必要ないしいいか。
「別に50億キールもいらん。賞品で扱ってる魔石と500万キール。これで勘弁してやるよ」
「あっ、ありがとうございます。すぐ用意させますので少々お待ちを」
リーダーのチンピラは逃げるように部屋を後にした。
さすがにもう何もしてこないとは思うが、魔法が使えない状態ではいざというときに困るので俺たちも部屋は出る。
数分後、息を切らしたチンピラが戻ってきた。
「こ、こちらでよろしかったでしょうか?」
持ってきたのは6種類12個の魔石と現金。
もちろんその中には目当ての氷属性の魔石2つも含まれている。
「ああ。もうこういうことはしないようにな」
「は、はい」
「そこで倒れてるやつらは気絶してるだけだからそのうち目を覚ます」
「は、はい」
「それじゃ俺らは帰るわ」
「ありがとうございました──」
泣きながら頭を下げるチンピラに見送られ俺らはカジノを出る。
というよりもリリィのワーティで街自体を出た。
本作品中に法律的に相応しくない描写が存在しましたが、あくまでもこれは異世界での話であり、また本作品はフィクションです。
決して真似はしないでください。




