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「おい、ゼノ起きろ! 起きないならキスするぞ」
「やめろ! 気色悪いわ!」
「酷い……俺はこんなにゼノのこと愛しているのに」
「はいはい。もうそういう冗談はいい」
「それにしてもゼノって可愛い寝顔してるよな」
「は!? おま、何言って──」
ゼノが慌てる姿ってなんかレアな気がする。
もう少しそういう姿を見てみたい気もするが、これ以上あんな発言していたらそっちの気があると思われてしまうのでやめておこう。
「はあ……最悪の目覚めだ」
ゼノは肩まで伸びた銀色の髪を手櫛で解とかしながらそう悪態をつく。
寝顔もそうだったが目付きと態度の悪さを除けば、女装映えしそうだよな。
髪も綺麗だし、背もそこまで高くない。
ホントに15歳なのかは不明だが、変声期前の少し高めの声をしてる。
「俺はホモじゃないぞ」
「は? 何急に意味わかんないこと言ってるんだ?」
「なんか言わないといけないような気がしたんだ」
「はいはい、お前が頭おかしいのは分かってるから人前では少しまともなフリをしとけよ。一緒にいる俺たちまで恥ずかしい思いするから」
俺ほどまともな人間はいないだろ。
まったく……
ああ、なんか虚しいな。
「よし、準備完了だ。さっさと行くぞ」
「おう。──てか意外とやる気なんだな」
「まあ親父がお前らと戦うことを楽しみにしているからな。せめてもの親孝行だ」
アカン、魔族のイメージが粉々に崩れてしまう。
ほら、もうちょっと悪役を演じててもらわないとさ、なんか魔王討伐をする意味がなくなりはしないだろうか。
「マスターおはようございます。こちらも準備はできていますので出発しましょう」
「そうだな。──あっ、リリィ。防寒具を受け取りに行っといてくれるか」
「そうですね。今から行ってきます!」
「──あっ」
別に今からじゃなくても良かったんだが……
そういう暇もなく、リリィはミュナーへ行ってしまった。
まあ、回収し次第コンタクトなりなんなり入るだろうから先に宿を出とくとするか。
「2部屋分チェックアウトで」
「かしこまりました。またのお越しをお待ちしています」
残念、おそらくここに泊まることはもうないよ。
そう思いながらエスシュリー(仮)で支払いを済ませる。
「俺はござるを探してくるわ」
「おう、頼んだ」
「──ねぇねぇ、召喚士」
「エリス、どうした?」
「召喚士とゼノってそういう関係なの?」
「は?」
「ほら、さっきキスするぞとか言ってたし、そういう関係なのかなって思うじゃん?」
うわ、あれ聞かれてたのか……
そういう勘違いをされてしまうのは仕方ないのかもしれないが、問題はそこじゃない。
その質問をしているエリスがやたらと嬉しそうにしていることだ。
確認したいとは思わないが、もしかしてこいつ腐ってね?
「全部冗談に決まってるだろ……」
「そっか……そうだよね。やっぱり召喚士の本命はリリィだもんね」
思わず吹き出してしまった。
次はそうくるか……
てかこいつあっち系が好きなんじゃなくてそういう話が好きな質か。
「違うな。リリィとの関係もそういうのじゃない」
「そっか……なら本命は私だね」
「ちげぇよ……」
「なら姉さんか」
「だからどうしてそうなる!」
「んー、なんというか、召喚士ってそういうの表に出さないからどうなのかなって思って」
「今はそんなことを気にしているような余裕がないからな。考えるとしても魔王を倒した後だろうな」
半分嘘。
本当は気になっている女の子はいる。
それでもそんなことにうつつを抜かしている暇はない。
今はこの感情は抑えていないといけない。
「そうだよね。機嫌悪くしちゃった?」
「全然。てか俺が言い出しててなんだが、エリスだいぶ印象変わるな」
「そう? ま、こっちの方が魅力的でしょ?」
エリスは照れながら短い黒髪を触る。
照れるくらいならそういうこと言うなよ。
そう思うが言葉にはしないでおこう。
「そうだな」
「返事がおざなりじゃない?」
「──ただいま戻りました。無事に防寒具ができていたのでこれで雪山へ入っていけますね。──ってあれ? もしかしてタイミング悪かったですか?」
タイミングは悪くないよ。
むしろグッドタイミング!
まさかこんなところにまで移動呪文のポイントがあったとは……
「そんなことはない」
「そうですか。それならいいのですが」
「──お待たせしたでござる」
「──さ、腹が減っては戦はできぬ。とりあえず飯食いに行くぞ」
「……あんまりでござる」
正成の出番?
そんな美味しくないものは無視。
今日も1日張り切っていこう!




