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「拙者だけおいてけぼりとは酷いでござる!」
今のパーティーに残ることを決めたミリスと別れを告げ、リリィの移動呪文で始まりの街へと戻った俺らを待ち受けていたのは黒装束で顔を隠した怪しい男だった。
説明するまでもなく正成である。
「え、お前誰?」
「…………」
「ゼノ、お前知ってる?」
「こんな変な奴知らん」
「へ、変な奴じゃ──」
「エリスは?」
「こんな怪しい友人はいませんね」
「怪しいとかひど──」
「リリィ?」
「えっ、えっと、そうですね……私も知りません」
「リリィ殿まででござるか!?」
まさかのリリィまで顔をそむけながらも乗ってしまったせいで、正成がガチで落ち込んでしまった。
さて、この空気どうしようか……
「冗談ですよ! そんなに落ち込まないでください」
「もういいんでござる……」
心優しいリリィがフォローを入れるも正成は本格的に拗ねてしまったようだ。
面倒なので放置するか。
「そういやゼノ、お前って冒険者としての登録なんてしてないんだよな?」
「当たり前だろ。常識的に考えろよ」
「んじゃ今から登録に行かないとな」
「はぁ?」
ゼノは明らかに不満そうな顔をしている。
まあ、魔族であるにも関わらず冒険者にならせようとしているのだから当然と言えば当然なのだが……
まあ、荒業でも使いますか。
「行け!」
「ちっ、どこに行けばいいんだ?」
「エリス、それと正成。ゼノの付き添いを頼む。登録が終わったら例の場所で落ち合わせってことで」
「……わかったでござる」
「ほら、ござるさっさと道案内しろ!」
「拙者の名は正成でござる……」
「良く分からないけど早く行きましょ。ねっ、ね」
唯我独尊のゼノと、ござる呼ばわりされる正成。
そして2人の仲裁的立場を取るエリス。
何というか不揃いな3人組だが、まあ、なんとかなるだろう。
そんな考えでその背中を見送った。
「マスター、私たちはどうするのでしょうか?」
「んー、俺たちはとりあえず王宮に行く……かな?」
「分かりました」
俺とリリィも別行動で動き出す。
この姿のリリィにもようやく慣れてはきたが、やはり二人っきりだとどこか照れくさい。
それでも前のように手を握られていないだけましだろう。
「到着です」
「街の中でも移動呪文って使えるんだな」
「特別な場所でしたらそうみたいです」
移動できる、できないの判断はリリィでも分からないものなのか……
とりあえずこの事は頭に入れておかなければいけないな。
とりあえず王宮まで来たものも、さて、これからどうしようか?
「お前はいつぞやの召喚士じゃないか! 今日はどうしたんだ?」
おお、記憶にはないが俺のことを知っている衛兵が話しかけてきてくれた。
これはありがたい。
「爺さんに会いたいんだが、今いる?」
「老師か。連絡を取ってみるから少し待っていてくれ」
やべぇ、初めて来たときと違って話が早い。
なんかどうでもいいけど感動した。
「玉座の間にいるから入ってきていいとのことだ」
「ありがとな」
警備薄いなとは思うが、俺は王宮内部へと足を進ませる。
その後ろをリリィが着いてきて──なかった。
「申し訳ありませんが、こちらの方はお通しすることができません」
「えっ、なんで?」
「そういう規則ですので」
ふむ、規則か。
規則なら無理に通るわけにはいかないな。
うん。
ま、通らなければ良いだけの話なんだけどな。
「リリィ、少しここで待っていてくれ」
「分かりました」
リリィを待たせて、今度こそ一人で王宮内部へ入る。
後はすれ違う衛兵に道を尋ねながら玉座の間までたどり着いた。
「召喚!」
「あの、マスター。これはいいんでしょうか?」
「あそこの門を通したらいけない規則なんだから門を通ってないしセーフでしょ」
「ですが……」
「ほっほっほ、別に構いはせんよ。無法天に通ずなんて言うくらいじゃからな」
爺さん登場!
やっぱり話の分かる爺さんだわ。
「それで召喚士よ、何の用じゃ?」
「王宮裏にある雪山の情報を知りたい」
「あそこは冒険者も立ち寄らぬような場所じゃ。お主らが行く理由もなかろうて」
「いや、そこに住む黒龍に用があってな」
その言葉に爺さんの顔が青ざめていく。
そのまま死んでしまいそうだからやめてほしい。
「こ、黒龍にじゃと! お主、少しくらいは力の差を考えるのじゃ!」
まあ、普通はそうなりますよね。
実際俺はつい先日まで最弱だった初心者召喚士だし。
「レベル47,000。これでも足りないか?」
「は?」
次は爺さんがフリーズした。
もちろん恩恵はない。
リールロックみたいな派手さもない。
「今の俺のレベルだ。そして姿も変わって分からないだろうが、こっちの女賢者リリィも同等のレベルになってる」
「あ、ありえん……」
「事実だ」
「……準備をするからこっちで少し待っておれ」
爺さんは何の準備かはしらんが、俺らを近くの部屋に案内するとどっかへ行ってしまった。
せめてどれくらい時間がかかるかくらい教えろよな。
「あの、マスター。先ほど黒龍がどうとか言っていましたが」
「うん、魔王城までの移動手段として黒龍を仲間にする」
「本気ですか?」
「めっちゃ本気。真剣と書いてマジ」
「黒龍ってものすごく大きくて、ものすごく強いですよ?」
「今のリリィでも無理そう?」
「戦ってみるまでは分かりません。でもそれではいざという時には手遅れです」
リリィがいうことも最もである。
あまりに無理そうならば他の手段を考えなければならないが、願望を言えばドラゴンに乗って冒険とかしてみてぇ。
「ま、ゼノもいるしなんとかなるんじゃないかな」
「あの、マスター。ところでゼノさんというのは?」
そういえばリリィにも説明してなかったな。
今ちょうど2人だし説明しとくか。
「簡単に言うと魔王の子ども。今は契約スキルで仲間になってる」
「なるほど、だからあそこまで強い魔法を……」
「ちなみにこの事は他の連中には内緒な」
「はい。分かりました」
なぜここでリリィが嬉しそうにしているのかは置いておくにしても、俺と魔王の関わりについてはなるべく隠しておきたい。
「話を戻すが、魔王城までは24万バルユーレ? だっけな。それくらいの距離があるそうだ」
「確かに黒龍クラスのモンスターを仲間にしないことには遠すぎて話が始まりませんね……」
「まあ、その他の詳しい話は5人揃ってからってことで」
「分かりました」
それにしても爺さん遅いな……
リリィと2人でいてもこれと言って喋ることないし、さっさと来てくれないかな……
そんな俺の思いは届くことはなかった。




