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RPG~召喚から始まる魔王討伐~  作者: 柊雪葵
第一章 始まりの街
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 始まりの街の遥か西方。

 冒険者の進路とは反対側にそびえる連山の稜線へと斜陽はおもむろに沈んでいく。



 次第に色合いを濃くしていく街並み。

 人気も徐々に少なくなっていく路地の中央。

 それはまるで彼の心象を表しているようで……



 まあ要するに正成(まさなり)が落ち込んでいるだけなんだがな。



「召喚士殿、申し訳ないでござる……」



「謝んないでいい──それに元々骨折り損だったみたいだしな」



「どういうことでござるか?」



 結局のところ脚が棒になるくらいに仲間を探し回ったが収穫はなかった。



 しかしそれとは別の収穫がたった今あったわけで。

 何と言うか……

 もうこの世界も何でもありだなとほとほと呆れたくなってくる。



「そろそろ分かるよ──」



 状況を理解できない正成は首を傾げるのみ。



 そして10秒程の間が空き、端末にコンタクトが入った。



「──マスター、合流したいのですが今どちらにいますか!?」



 焦りの色がはっきりと浮かんだ声が閑散とした街に響く。



 つくづく今日は他人の視線を集める日だなとくだらない感想を抱きながら、



「召喚!」



 いつものように左手を宙に振りかざしリリィを呼び出した。



「──あっ、マスター! 大変なんです!」



「大変なのは分かってる。ただそれ以上に俺は飯が食いたい」



「マスター! 今回ばかりは──」



 言葉の途中リリィのお腹の虫が鳴く。

 紅潮した頬を隠すように俯きはするが、それで恥ずかしさが消えるわけではない。



「いろいろと確認しないといけないこともあるから飯食ってからゆっくり時間取ろうな」



「…………はい」



「じゃあ店は昨日と同じでいいか? あそこなら情報が外に漏れる心配はないんだろ?」



 リリィが静かに首を縦に振る。



 その動作を皮切りに俺たちは言葉もなく目的地へと歩いていくのだった。






 あれから小一時間後。

 全員が食事で英気を養ったところで話は本題へと戻る。



「それで召喚士殿と女賢者殿。一体何が大変なのでござるか?」



「「それは──」」



 俺とリリィの声は見事にかぶり、両方が言葉を飲み込む。

 ここはテンプレ上等お互いに譲るところまで声を合わせるべきなのかもしれないが、まあ、もうそんな元気もない。



 ジェスチャーでリリィに発言を促すことにした。



「はい。にわかに信じがたいことなのですが、私のレベルが1,800から48,000まで急上昇しました」



「にわかに信じがたいことだが、俺のレベルが1から47,000まで急上昇したしな」



 正確に言えば47,684レベル。

 これはバグでない限り考えられる可能性は1つである。



「おそらく要因はリリィの封印が解けたことなんだろうが、まさか俺のレベルまで上がるとは思ってなかったわ」



「どうして召喚士殿のレベルまで上がったのでござるか?」



「そりゃ、俺がリリィを召喚していたからだろうな。多分」



「多分とは……そこ辺りは適当でござるな」



「適当だ適当。そこ辺りはこのシステムを組み立てた奴に聞いてくれ」



「でもこれで魔王討伐に相当近づきましたね」



 正しくその通りである。



 棚から牡丹餅どころではないこの状況は魔王討伐に向けての大きな一歩になった。

 それは間違いない事実だ。



「ところでリリィ。何かスキルに変化はあったか?」



「スキルは今まで使えなかったより高度な魔法が使えるようになったくらいですね。それ以上にステータスの魔力数値がおかしなほど上昇していますが」



 魔力の封印を解いたのだから魔力の数値が上がるのは至極当然なこと。

 むしろ言い換えると上がったステータスは魔力のみで、白兵戦における技量は一切変わっていないということになる。



 それは俺にとっても同じことで、レベルが上がったといっても別に強くなったわけではない。

 召喚士としての能力のみが成長しただけだ。



「俺の方はスキルの解放があっただけだった。だけだったというには余りあるほどのものだけどな」



「拙者には(むつか)しすぎて理解ができないでござる……」



 正直なことを言えば俺もよく理解はできていない。

 ただ状況から仮定をしているだけの状態。

 まあ、それも今はと言うべきなのだろうが。



「マスター、どのようなスキルが解放されたのですか?」



「それの説明は明日に回してもいいか?」



「……? はい、構いませんけど」



「それよりも今気にするべきは今晩の宿をどうするかだな」



 すっかり失念していた事を思い出す。

 陽が暮れてしまった今から宿を探すとなると中々見つからないんだろうなと溜め息を吐きたくなる。



 だからといって後回しにしてしまうと、それは最悪野宿をしないといけなくなるわけで。



「──そのことならば問題はありませんよ。ここの空いた部屋をお使いください」



 音もなく現れた(くだん)の爺さんが問題を一瞬にして解決してくれた。



 ただ、心臓に悪いからその登場のしかたはいい加減止めて欲しい。



「そういうことならば、拙者が案内するでござる」



 善は急げと正成は俺とリリィをそれぞれ空き部屋に案内した。



 そして一人っきりになった室内で力なく床に倒れ込んだ。



「……あっ」



 ようやくここで大事なことに気付く。



 そういえばリリィに正成のこと紹介するの忘れていた……



 今から説明しにいくかとも思ったが、身体は言うことを聞かない。

 聞かないんだから仕方ないよな。



 俺はそう言い聞かせて思考を放棄する。



 その後は至極単純。

 蓄積した疲労を回復するためにと意識は遠い彼方へ沈んでいき、ただただ泥のように眠りに落ちていくだけだった。

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