第0話 俺の彼女は、みんなの憧れ
今回から始まる第1章「藤宮麗華編」。
第0話では、ごく普通の高校三年生である主人公と、二十歳の人気グラビアアイドル・藤宮麗華の誰にも言えない恋人関係、その始まりを描きました。
学校では、男子生徒たちが雑誌を囲みながら「藤宮麗華、可愛いよな」「彼氏とかいるのかな」と盛り上がっている。
けれど、そのすぐ近くにいる主人公だけは知っています。
雑誌の表紙を飾る彼女も、テレビで笑っている彼女も、仕事を終えて「会いたい」とメッセージを送ってくる彼女も――すべて同じ藤宮麗華なのだということを。
そして誰も知らない最大の秘密。
藤宮麗華の彼氏は、芸能人でも有名人でもない。
ごく普通の十八歳の男子高校生だったのです。
学校では決して口にできない関係。
外では簡単に並んで歩くことさえできない二人。
それでも二人きりになれば、そこにいるのは人気グラビアアイドルと高校生ではなく、ただお互いを大切に想う恋人同士。
そんな二人の秘密の恋愛が、ここから本格的に始まります。
人気が高まっていく麗華と、その一番近くにいる主人公。
二人の関係はこれからどのように変わっていくのでしょうか。
第1章「藤宮麗華編」、ここからスタートです。
「なあ、見たか? 今週の『週刊グラビアスター』」
朝の教室。
ホームルームが始まるまで、まだ二十分ほどある。
教室の後ろでは、数人の男子生徒たちが一冊の雑誌を囲みながら、朝からやけに盛り上がっていた。
「見た見た。今週、藤宮麗華じゃん」
「表紙だけで買ったわ」
「最近、本当にテレビにも出るようになったよな」
「写真集もまた重版だってさ」
「二十歳でこれって、普通にすごくない?」
その名前が聞こえてきた瞬間。
窓際の席に座っていた俺は、思わずシャープペンシルを持つ手を止めた。
――藤宮麗華。
今、若者を中心に人気急上昇中のグラビアアイドル。
年齢は二十歳。
高校卒業後、本格的に芸能活動を始め、十九歳のときにグラビアデビュー。
整った顔立ちと抜群のスタイルだけではなく、テレビ番組で見せる飾らない性格や、少し天然な受け答えも人気を集めている。
最近ではグラビアだけにとどまらず、バラエティ番組やドラマにも出演。
SNSのフォロワーも増え続けている。
そして今日発売された雑誌では、単独で表紙を飾っていた。
学校の男子たちが騒ぐのも無理はない。
「俺、藤宮麗華と付き合えたら人生に何も望まない」
「お前には無理だろ」
「じゃあ、お前ならいけるのかよ!」
「俺だって無理だよ!」
「そもそも一般人が知り合えるわけないって」
教室に笑い声が広がる。
俺は何も言わなかった。
ただ、机の中に入れてあるスマートフォンが気になって仕方なかった。
なぜなら――。
十分ほど前。
その藤宮麗華本人から、メッセージが届いていたからだ。
『おはよう! ちゃんと学校着いた?』
そして、その直後。
『今日お仕事早く終わりそうだから、夜会えるかも!』
さらに。
『会いたいな♡』
俺は周囲から画面が見えないようにスマートフォンを確認すると、小さく息を吐いた。
そして短く返信する。
『おはよう。学校着いたよ。俺も会いたい』
送信。
数秒もしないうちに既読がついた。
『やったー!』
続いて、
『今日も学校頑張ってね!』
最後にはハートマークまでついている。
俺はスマートフォンを伏せた。
「…………」
危ない。
顔が緩みそうになった。
教室の後ろでは、まだ藤宮麗華について盛り上がっている。
「麗華ちゃんって彼氏いるのかな?」
「いないだろ」
「なんで言い切れるんだよ」
「事務所がそんなの許さないんじゃね?」
「でも二十歳だぞ?」
「週刊誌とかに撮られたら大騒ぎだろうな」
「相手が一般人だったらもっとヤバそう」
俺は窓の外へ視線を向けた。
――いる。
藤宮麗華には、彼氏がいる。
しかも芸能人でもなければ、モデルでもない。
スポーツ選手でも、会社経営者でもない。
どこにでもいる普通の男子高校生。
高校三年生。
十八歳。
つまり――俺だった。
◇◇◇
俺と麗華が付き合い始めたのは、半年前。
俺たちの出会いは、ドラマのような華やかなものではなかった。
芸能関係者から紹介されたわけでもない。
イベントで知り合ったわけでもない。
ましてや、俺が彼女の熱狂的なファンだったわけでもない。
本当に偶然だった。
雨の日。
学校から帰る途中、突然の大雨に降られて、俺は駅近くの小さなカフェへ逃げ込んだ。
その店の一番奥。
帽子を深くかぶり、大きなマスクをつけ、一人で座っていた女性。
それが藤宮麗華だった。
もちろん最初は気づかなかった。
ただの女性客だと思っていた。
ところが店を出るとき、麗華が財布を席に忘れていることに俺が気づいた。
慌てて追いかけた。
「すみません! 財布忘れてます!」
その一言から、すべてが始まった。
麗華は何度も頭を下げた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
そのとき初めてマスクを少し下げた彼女を見て、俺はようやく気づいた。
テレビで見たことがある。
雑誌でも見たことがある。
――藤宮麗華。
だが俺は騒がなかった。
サインを求めることもしなかった。
写真も頼まなかった。
ただ財布を渡して、
「じゃあ、気をつけてください」
そう言って帰ろうとした。
それが逆に珍しかったらしい。
後になって麗華は言っていた。
「あのとき、この人なら普通に話してくれるかもしれないって思ったの」
偶然はその一度だけでは終わらなかった。
同じカフェで何度か再会した。
最初は挨拶だけ。
その次は少し会話をした。
さらに次は同じテーブルでコーヒーを飲んだ。
俺が高校生であること。
麗華が二十歳であること。
学校の話。
仕事の話。
好きな食べ物。
苦手なもの。
休日の過ごし方。
少しずつ俺たちは、お互いを知っていった。
俺にとって彼女は、いつしか『人気グラビアアイドルの藤宮麗華』ではなくなっていた。
普通によく笑う女の子。
仕事で失敗すれば落ち込む。
疲れている日は甘いものを食べたがる。
少し方向音痴。
意外と負けず嫌い。
そして寂しがり屋。
そんな一人の女性――麗華になっていた。
俺たちが付き合うことになったのは、それからしばらくしてからだった。
告白したのは麗華だった。
「私ね……たぶん、君のことが好き」
あの日の麗華の顔は、今でも覚えている。
雑誌で見せる完璧な笑顔でもない。
テレビで見せる明るい表情でもない。
頬を赤くして、恥ずかしそうに俺を見つめていた。
俺も同じ気持ちだった。
だから答えた。
「俺も麗華さんが好きです」
こうして――。
十八歳の男子高校生と、二十歳の人気グラビアアイドル。
誰にも言えない二人の交際が始まった。
◇◇◇
昼休み。
「おーい、何見てんだ?」
「別に」
俺は慌ててスマートフォンを伏せた。
危なかった。
麗華から送られてきたメッセージを読んでいたところだった。
『撮影終わったー!』
その下には、
『でも、このあと打ち合わせ……』
さらに、
『早く会いたい』
というメッセージ。
クラスメイトが俺の前の席に座る。
「最近スマホ見る回数増えたよな」
「そうか?」
「彼女でもできた?」
「…………」
心臓が一瞬だけ跳ねた。
「まさか」
俺はできるだけ平然と答える。
「怪しいな」
「いないって」
「じゃあ好きな子は?」
「それも秘密」
「いるじゃねえか!」
「知らん」
そんな会話をしていると、別の男子が例の雑誌を持ってやってきた。
「それより見ろよ」
机の上に置かれる。
表紙には、大きく藤宮麗華。
俺は一瞬、言葉を失った。
昨日。
仕事が終わった麗華から電話がかかってきた。
『明日発売なんだよ』
そう聞いていた。
しかし実際に学校で見ると妙な感覚になる。
「藤宮麗華って知ってるだろ?」
「まあ……」
知っている。
誰よりも知っている。
好きな飲み物も。
苦手な食べ物も。
朝が弱いことも。
眠くなると返信が短くなることも。
仕事で落ち込んだとき、電話をかけてくることも。
そして――。
恋人にだけ見せる笑顔も。
全部知っている。
だが、それを言えるはずがない。
「お前はこういう子、タイプじゃない?」
「どうだろうな」
「なんだよその反応」
「可愛いとは思うよ」
すると友人は大笑いした。
「そりゃそうだろ!」
俺も苦笑する。
その瞬間だった。
スマートフォンが震えた。
画面には、
『藤宮麗華』
……とは登録していない。
万が一、誰かに見られたときのためだ。
表示された名前を確認して、俺は立ち上がった。
「ちょっと行ってくる」
「どこ?」
「飲み物」
教室を出る。
人気の少ない階段まで移動してから電話に出た。
「もしもし」
『もしもーし』
聞き慣れた声。
さっきまで雑誌の表紙にいた女性とは思えないほど、柔らかい声だった。
「仕事は?」
『今、休憩』
「大丈夫なのか、電話して」
『大丈夫。マネージャーさんもいるし』
「そうか」
『ねえ』
「ん?」
『雑誌見た?』
俺は少し笑った。
「見た」
『本当に!?』
「学校のやつが持ってきた」
『どうだった?』
「どうって……」
『感想』
「学校で言えるわけないだろ」
『今誰もいないんでしょ?』
「いないけど」
『じゃあ言って』
俺は周囲を確認する。
誰もいない。
「……可愛かった」
数秒の沈黙。
『もう一回』
「嫌だ」
『なんで!?』
「恥ずかしいから」
『私は聞きたい』
「……可愛かったよ」
電話の向こうで麗華が笑った。
『ありがとう』
俺まで嬉しくなる。
そのとき。
遠くから足音が聞こえた。
「悪い、誰か来る」
『うん』
「また後で」
『待って』
「何?」
麗華は少し声を小さくした。
『大好き』
俺は一瞬、返事に困った。
「……俺も」
『ふふっ。じゃあね』
電話が切れる。
俺はスマートフォンをポケットへしまった。
直後。
クラスメイトが階段から現れた。
「こんなところにいたのか」
「自販機行こうと思って」
「誰かと電話してなかった?」
「家族」
「ふーん?」
怪しまれている。
俺は何食わぬ顔で歩き出した。
絶対に知られるわけにはいかない。
学校の誰も知らない。
俺の彼女が、藤宮麗華だということを。
◇◇◇
午後六時半。
学校を終えた俺は、一度家へ帰った。
制服から私服に着替える。
麗華と会う日は、できるだけ制服のまま行動しないようにしている。
彼女の所属事務所から言われたわけではない。
俺たち自身で決めたことだ。
高校生と芸能人。
ただでさえ目立つ組み合わせ。
さらに麗華は現在人気が急上昇している。
写真を撮られれば、彼女の仕事に影響が出る可能性もある。
だから外で会う場所も慎重に選んでいた。
スマートフォンを見る。
『終わった!』
数分前に麗華から届いている。
続けて、
『いつものところで待ってるね』
俺は、
『今から行く』
と返信した。
◇◇◇
午後七時過ぎ。
俺は駅から少し離れた住宅街を歩いていた。
大通りではなく、裏道を選ぶ。
やがて一棟のマンションが見えてきた。
麗華が暮らしているマンション。
当然ながら、俺がここへ来ることを知っている人間はほとんどいない。
エントランスへ入り、慣れた手順で中へ進む。
エレベーターで上階へ。
目的の階に着く。
廊下を歩く。
そして、一つの部屋の前で立ち止まった。
インターホンを押す。
数秒後。
扉が開いた。
「おかえり!」
そこにいたのは――。
藤宮麗華。
朝、学校で男子たちが雑誌を囲んで騒いでいた、その本人。
しかし今は、雑誌で見た華やかな衣装でもない。
テレビ出演用の衣装でもない。
ゆったりとした部屋着。
髪も自然に下ろしている。
化粧もかなり薄い。
仕事中とはまったく違う姿だった。
「おかえりって、ここ俺の家じゃないけど」
「いいの。言ってみたかったから」
「ただいま」
「ふふっ」
麗華が嬉しそうに笑う。
「入って」
部屋へ入る。
扉が閉まる。
そして鍵がかかった瞬間――。
「会いたかった!」
麗華が俺の腕を取った。
「朝からメッセージしてただろ」
「メッセージと会うのは違うの」
「昨日も電話したじゃん」
「電話と会うのも違います」
「はいはい」
「適当!」
仕事中には絶対に見せない表情。
俺だけが知っている藤宮麗華だった。
リビングへ行くと、テーブルには夕食が用意されていた。
「これ、麗華が作った?」
「うん!」
「仕事だったのに?」
「簡単なのだけ」
「疲れてるなら無理しなくていいのに」
「一緒に食べたかったから」
俺は少し黙った。
こういうことを自然に言う。
それがずるい。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
向かい合って座る。
「いただきます」
「いただきます」
二人だけの夕食が始まった。
テレビをつける。
ニュース番組。
しばらくすると芸能ニュースが流れ始めた。
『人気グラビアアイドル・藤宮麗華さんが――』
「出た」
俺が言う。
「消して!」
麗華が慌ててリモコンを取った。
「なんで?」
「恥ずかしい!」
「本人がいるのに」
「本人がいるから恥ずかしいの!」
テレビが消える。
俺は笑った。
「学校でも今日ずっと麗華の話だったぞ」
「え?」
麗華が箸を止める。
「男子が雑誌持ってきてた」
「本当に?」
「藤宮麗華と付き合えたら人生何も望まないって言ってるやつもいた」
「へえー」
麗華がニヤニヤする。
「何?」
「じゃあ、君は人生何も望まない?」
「なんでそうなるんだよ」
「だって」
麗華は頬杖をついた。
「藤宮麗華と付き合ってるじゃん」
「自分で言うな」
「事実です」
「はいはい」
「でも……」
麗華の表情が少しだけ変わった。
「やっぱり不思議」
「何が?」
「学校では、みんな私のことをグラビアアイドルとして見てるんだよね」
「そりゃそうだろ」
「でも君は違う」
俺は麗華を見る。
「俺にとっては麗華だから」
「……そういうこと普通に言うよね」
「何が?」
「なんでもない」
麗華は照れたように笑った。
少しだけ沈黙。
それから麗華が尋ねる。
「ねえ」
「ん?」
「学校で私のこと話してて、言いたくならない?」
俺は意味を理解した。
――俺の彼女なんだ。
そう言いたくならないのか。
「ならないって言ったら嘘になる」
「やっぱり?」
「でも言わないよ」
「……うん」
「麗華との約束だから」
付き合い始めたとき。
二人で決めた。
少なくとも今は、交際を公表しない。
俺の学校生活を守るため。
麗華の芸能活動を守るため。
そして何より、二人の関係を大切にするため。
「ごめんね」
突然、麗華が言った。
「何が?」
「普通の恋人みたいにできなくて」
「別にいいよ」
「でも、普通なら一緒に映画行ったり、買い物したり、遊園地行ったりできるじゃん」
「いつか行けばいい」
「いつか?」
「麗華の仕事が落ち着いたときとか、変装してでも」
麗華が笑った。
「変装して?」
「帽子とマスク」
「それ、いつもの私」
「じゃあ完璧じゃん」
「ふふっ」
麗華はしばらく笑っていた。
そして――。
「ありがとう」
小さく呟いた。
◇◇◇
食事を終え、二人でソファに座る。
麗華は俺の隣。
肩が触れるほど近い。
「明日は?」
俺が尋ねる。
「朝から撮影」
「早い?」
「五時半起き」
「もう寝たほうがいいんじゃない?」
「まだ八時半だよ」
「でも五時半だろ?」
「もう少し一緒にいたい」
麗華は俺の肩にもたれかかった。
俺は何も言わなかった。
テレビもついていない。
部屋は静かだった。
「学校楽しい?」
「普通」
「受験は?」
「それ聞く?」
「彼女として心配してます」
「ちゃんとやってる」
「本当に?」
「本当に」
「じゃあ今度勉強見てあげる」
「麗華、勉強できるの?」
「失礼!」
「冗談」
「もう!」
麗華が俺の肩を軽く叩く。
そして二人で笑った。
こんな時間が好きだった。
雑誌の表紙も。
テレビ出演も。
SNSのフォロワー数も。
人気ランキングも。
ここには何も関係ない。
ここにいるのは――。
高校三年生の俺と。
二十歳の麗華。
ただの恋人同士だった。
「ねえ」
「ん?」
「これからも……こうして会える?」
「もちろん」
「私、もっと忙しくなるかもしれないよ」
「知ってる」
「連絡できない日もあるかもしれない」
「うん」
「週刊誌とか……いろいろ気をつけなきゃいけないし」
「それも分かってる」
麗華は俺を見る。
「それでも?」
「それでも」
俺は答えた。
「俺は麗華の彼氏だから」
麗華の目が少し潤んだように見えた。
「……ずるい」
「何が?」
「そういうこと言われたら、もっと好きになるじゃん」
「知らないよ」
「責任取って」
「何の責任だよ」
「ずっと私の彼氏でいて」
その言葉に。
俺は笑った。
「分かった」
「約束?」
「約束」
麗華も笑う。
雑誌の表紙では決して見ることのできない、小さくて幸せそうな笑顔だった。
◇◇◇
午後十時。
「じゃあ帰る」
玄関で靴を履く。
「もう?」
「麗華、明日五時半起きだろ」
「そうだけど……」
「ちゃんと寝ろ」
「はーい」
明らかに不満そうだった。
俺が扉へ手を伸ばす。
すると。
「待って」
麗華が俺の服の袖をつかんだ。
振り返る。
「何?」
「明日も連絡していい?」
「なんで聞くんだよ」
「仕事忙しいかもしれないから」
「いつでもいいよ。学校中はすぐ返せないけど」
「うん」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
扉を開ける。
その直前。
「大好き」
麗華が言った。
俺は振り返った。
「俺も」
麗華は嬉しそうに笑った。
扉が静かに閉まった。
◇◇◇
翌朝。
学校へ行くと、教室の後ろではまた藤宮麗華の話で盛り上がっていた。
「昨日のテレビ見た?」
「見た!」
「やっぱ麗華ちゃん可愛いよな」
「彼氏とか絶対いないでほしい」
「分かる!」
俺は自分の席へ座る。
机の中へ鞄を入れる。
そしてスマートフォンを見る。
一件のメッセージ。
送信時刻は午前五時四十二分。
『おはよう! 今から撮影行ってきます!』
続いて。
『昨日会えて嬉しかった♡』
そして最後に。
『学校頑張ってね、彼氏くん』
俺は画面を見ながら、小さく笑った。
「何ニヤニヤしてんの?」
「してない」
「絶対してた」
「気のせい」
スマートフォンをポケットへしまう。
教室では今日もみんなが藤宮麗華の話をしている。
誰も知らない。
テレビの向こう側にいる人気グラビアアイドル。
雑誌の表紙を飾る、みんなの憧れ。
藤宮麗華。
その彼女が――。
俺にとっては、世界でたった一人の恋人だということを。
そして、このときの俺はまだ知らなかった。
人気が上がれば上がるほど、二人きりの秘密を守ることが難しくなっていくことを。
学校。
芸能界。
撮影現場。
ファン。
マネージャー。
そして週刊誌。
俺と麗華の周囲は、少しずつ変わり始める。
それでも。
俺たちはまだ信じていた。
どれだけ多くの人が彼女を知るようになっても。
藤宮麗華が『みんなの憧れ』になっても。
二人きりになれば――。
俺たちは、どこにでもいる普通の恋人同士でいられるのだと。
俺の彼女は、グラビアアイドル。
これは――。
誰にも言えない秘密を抱えた俺と、みんなの憧れである彼女の恋物語、その始まりだった。
第0話「俺の彼女は、みんなの憧れ」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、物語のスタートとして主人公と藤宮麗華の現在の関係、二人の出会い、そして学校と二人きりの時間でまったく異なる世界を描きました。
学校では「藤宮麗華と付き合えたら人生に何も望まない」と友人たちが盛り上がっている。
その横で何も言わずに話を聞いている主人公。
しかし実際には、その藤宮麗華本人から、
「会いたい」
「大好き」
と連絡が届いている――。
この「学校のみんなが知っている藤宮麗華」と「主人公だけが知っている藤宮麗華」の違いが、この物語の大きなポイントになります。
グラビアアイドルとして活動しているときの麗華は、多くの人から憧れられる存在。
一方、主人公の前では、仕事終わりに会えることを喜んだり、一緒に夕食を食べたり、学校で自分がどんなふうに話題になっていたのか気にしたりする、ごく普通の二十歳の女性です。
しかし、二人には大きな問題があります。
麗華の人気が高くなればなるほど、二人の交際を秘密にすることは難しくなっていきます。
学校の友人たち。
芸能界の関係者。
麗華を応援するファン。
そして、芸能人の私生活を追いかける週刊誌。
今は二人だけの穏やかな時間を過ごせていますが、その日常がいつまでも続くとは限りません。
それでも主人公は「俺は麗華の彼氏だから」と彼女のそばにいることを選びました。
そして麗華も「ずっと私の彼氏でいて」と願います。
二人が交わしたその約束が、これからどんな意味を持っていくのか。
第1章「藤宮麗華編」は、まだ始まったばかりです。
次回からは、主人公の学校生活と麗華の芸能活動、それぞれの世界が少しずつ近づいていきます。
誰にも言えない、
「俺の彼女はグラビアアイドル」
という秘密を抱えた二人の恋。
次回もよろしくお願いいたします。




