第十三話 新月でピンチな宝石ヒーローたちが大奮闘する話
やあ、こんにちは。
僕はツキモリジェムズのイエローダイヤモンド。
今日もいつもの亜空間で出動待機している所なんだけど、何だか体がとても静かに感じるんだ。エネルギーの源が薄いっていうか、心許ない気がするんだよね。
「今は新月に近い頃だからな。月の加護が弱いせいだろう」
僕が伝えた感覚に対し、ジェダイトが月齢付き腕時計型通信機を確認しながら応える。相変わらずの落ち着いた声は、小さな不安をそっと宥めてくれるようだ。
「ああ、そっか。だから俺も、何となくぞわぞわするのかも」
「ジェレさんは負のモノに敏感ですもんね。大丈夫ですか?」
ジェレメジェバイトが首をすくめると、ハックマナイトが心配そうに声をかける。
「大丈夫だよ。ありがとう、ハックマンくん」
「ふっ、安心したまえ。ツキジェムにはこの僕、レッドベリルが居るのだからな」
そしてレッドベリルは、いつも通りに自信満々だ。変わらない調子の彼に、僕は思わず笑みがこぼれる。
――そんな折。
くつろぐ僕らの真ん中に、突然お月様のマークが浮かび上がった。
こうしたマークが現れる時は、お月様から何らかの指令があるか、プレゼントが贈られることが多い。
《ツキモリジェムズよ、緊急指令だ》
今回は任務のようだ。
その聞こえた声の固さに、僕らの空気はピンと張りつめる。
《街外れにある月見神社に、瘴気が集まってきている。瘴気は大きな塊となって発達しており、非常に危険だ。新月期ゆえ、私からそなたらへのエネルギー供給が不安定になっているが、全員の力を合わせて駆除にあたって欲しい》
言葉の端に申し訳なさそうな様子を感じた僕らは、顔を見合わせて立ち上がった。
「了解しました、お月様!」
僕は拳を握って返事をする。
「俺たちのヒーローパワーは、宝石としての力だって含まれてるからね」
「その通りだ。だから俺たちを選んだのだろう?」
穏やかなジェレの言葉に続いてジェダイトが尋ねれば、お月様が微笑んだように感じられた。
「それじゃ、行きましょうか!」
「たまには揃い踏みなのも、悪くない」
ハックマンは元気な声で言い、レッドは口角を上げる。
そうして僕らは亜空間の扉を開き、月見神社へと飛び出した。
瞬間移動の如く現場に到着した僕らの前には、いつにも増してどす黒い瘴気が渦を巻いている。炎が火の粉を散らすように、巨大な瘴気の渦は幾つもの細かな瘴気を舞わせていた。
「うわ、気持ち悪……」
「……ふん、こけおどしだ」
清浄を好むジェレが真っ先に眉をひそめ、レッドは言葉の割に顔が引きつっている。
「なるほど、これはヤバイですねえ」
どちらかと言えば怖がりなほうのハックマンは、意外にも落ち着いて感想を述べた。ジェダイトは静かに瘴気を見据えている。
僕はと言えば、瘴気の規模よりも、やっぱり体を巡るエネルギーの弱さが気になっていた。
でも――
「皆、行くよ!!」
僕が声を上げると、ジェレ、ジェダイト、ハックマン、レッドが頷いてくれる。
「うん!」
「ああ」
「了解です!」
「いいだろう」
そして全員が一斉に、それぞれの色を宿した光線を放つ。普段は一人の光線でもあっという間に瘴気は消滅するんだけど、今日は誰の光線も色味が淡く、明らかに威力が不足していた。
「くっ……しつこいぞ、貴様ら」
渦から飛び出た小ぶりな瘴気たちに追われたレッドが、光線で駆除しながら悪態を吐いている。ネガティブエネルギーの塊である瘴気に意思はないけれど、何故か人間や僕らに寄ってくるんだ。それだけならまだしも、触れるとダメージを与えてくるから危ないんだよね。
「キリがないですね。一体、どこから集まってくるんだか」
「仲間意識でもあるんじゃない?」
息を整えるハックマンに、げんなりした表情のジェレが珍しく投げやりに応える。
「満月期の力が出せない以上、闇雲に攻撃していては駄目だ。四方から瘴気を狙うか、全員の光線を一つにするか……」
迫りくる瘴気を避けつつ、ジェダイトは思案しているようだ。
彼の言葉を聞いた僕は、あることをひらめく。
「ジェダイト! 光線の形を変えられる?」
「光線の形を?」
怪訝な顔をするジェダイトが動きを止めたせいか、他の皆もこちらに注目する。
「ジェダイトは頑丈な宝石だから、光線の質もそれに沿ってると思うんだ。だからジェダイトが光の壁を作って、あの大きい瘴気を隔離する。そうすれば他の瘴気がもうくっ付けないはずだから、そのうちに僕らで中の瘴気を一気に叩くんだ」
僕が思いついたことを説明すると、レッドが眉をひそめた。
「いい作戦だが、ジェダイト一人でそんな壁を作れるのか? 作れたとしても、僕たちが瘴気を消し切るまでもたないだろう。今は新月期なんだぞ」
「うん。だからレッドとハックマンには、ジェダイトにエネルギーを送っていて欲しいんだ」
「何?」
ますます顔をしかめるレッドに、ハックマンが割って入る。
「多分、その選抜で正解ですよ。ダイヤさんは硬度が高くて丈夫ですから、ジェダイトさんが壁作りに回る以上、攻撃の要になります。ジェレさんは浄化力が高いので、瘴気相手には最も効くでしょうしね」
「レッドくんは生命力を司る赤い宝石でしょ? ジェダイトくんが燃え尽きないように支えられるのは、レッドくんしか居ないよ」
流石ジェレ、僕の考えを見事に代弁してくれた。お陰でレッドが徐々に、『仕方ないな』という緩い表情になってきている。
「そして私は色が変わる宝石なので、つまり状態変化に強い訳です。だからジェダイトさんの核が揺らがないよう、安定させることが可能なんですねー」
「その通り!!」
ハックマンの自己分析力は、いつでも素晴らしい。
僕は思わず、ガッツポーズをしてしまった。
「了解した。全力を尽くそう」
ここまで黙っていたジェダイトが、静かながらも力強い声を発する。
その瞳は、硬玉の名に相応しい強靭さを宿していた。
かくして僕らはそれぞれの位置につき、巨大な瘴気を見据える。
「硬玉剣!」
ジェダイトが口にする技名は、いつもと同じ。
ただ、その光は剣のような一直線ではなく、瘴気を覆うドームみたいに広がった。レッドとハックマンからエネルギー供給を受ける彼の光の壁は、美しく深い緑色をしている。
「クリア・セレニティ・ジェレメジェバイト!」
「シャイニング・イエローダイヤモンド!!」
隔離されて増幅が止まった瘴気に、僕とジェレは息を合わせて渾身の攻撃を放った。光線の色は黄色と青が並び、続いて緑、赤、紫が加わる。
一気に太い帯となったそれは、彷徨う瘴気を余すところなく飲み込んで消滅させた。
やがて僕らのエネルギーの輝きが収まると、周囲には穏やかな風が流れてくる。そばに漂っていた小さな瘴気たちは、先程の攻撃の余波で霧散したようだった。
「やった……!」
「良かったあ」
「今日は骨が折れたな」
「大成功ですよ!」
「当然の結果だ」
息を吐きながら安堵する僕らがふと顔を上げれば、空はいつの間にか陽が落ちていて。
細いお月様が、こちらを見守ってくれていた。
月見神社の瘴気駆除を終え、戻った亜空間にて。
僕が皆にお茶を淹れようとしたところ、テーブルの上には既に温かいお茶とお菓子が並んでいた。中央にはメッセージカードまで置いてある。
――此度は、よく頑張ってくれた。そなたらは真のヒーローである。
「お月様……!」
元々ヒーローに憧れていた僕は、その労いの言葉に感動して泣きそうになってしまう。
「ふふ、褒められちゃったね」
「本当、頑張りましたもん。私たち」
ジェレとハックマンも、嬉しそうだ。
「皆が無事で良かった」
大役を果たして気が緩んだのか、ジェダイトは薄く笑みを浮かべている。
「月も、僕たちを選んだことを誇りに思っているだろう」
レッドも疲労が滲んでいるものの、相変わらずの態度で得意げに頷いた。
「ジェレ、ジェダイト、レッド、ハックマン。皆、これからも宜しくね」
僕が全員に目を移してそう言うと、ツキジェムの仲間たちはそれぞれ、彼ららしい微笑みを返してくれる。
皆に出会えて、心から幸せだと思った。
僕は、ツキモリジェムズのイエローダイヤモンド。
月の加護によってヒーローとなった、五種の宝石の中の一つさ。
―第十三話 おわり―




