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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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俺は現在、非常に困っていた。


第二の島のボスは倒した。

ゴアデビルの杖も取り戻した。

戦果としては申し分ない。


だが、船に帰る手立てがなかった。


旭技巧連が遺した腕時計の人造遺物は、あくまでこの第二の島へ繋がっているだけだ。

片道切符。帰り道には使えない。


灰流鳥で帰還するしかないが以前、島に到着した直後に索敵のために空へ放った灰流鳥は、知覚すらできないまま殺された。

あの時は原因が特定できなかったが、この空域には確実に何かが潜んでいる。

俺が騎乗していれば、何らかの対処は可能だと思うが確証はない。

しかし、それ以外に手立てがない以上、頼らざるを得なかった。


客船で四時間の距離だ。

灰流鳥で飛ばしても、おおよそ一時間はかかるだろう。


俺は灰流鳥を召喚して背に飛び乗り、島を飛び立とうとした。


だが、後ろ髪を引かれる思いで振り返る。


理由はわからない。

急がなければならないのは頭で理解しているのに、体が動かなかった。


骨鹿が死んだ場所。

遺跡の中央の地面に、規格外に大きな赤い魔石が転がっていた。


先ほどは遺物しか取り出していなかった。

この島の道中で倒した魔物の魔石も含めて、急いでいたこともあり特に気にしていなかった。

なのに、何故今更気にしているのだろう。


俺は自分でも首を傾げながら、灰流鳥から降りて魔石へと近づいた。


近づくにつれて、その尋常ではない大きさが実感として迫ってくる。

拳二つ分ではきかない。

頭ほどの大きさはあるだろうか。

赤みを帯びた表面が月光を受けて鈍く脈動するように輝いている。

今まで見たどのボスの魔石よりも、大きかった。


手を伸ばし、触れたようとした瞬間。

黒い薔薇の花びらが、周囲に舞った。


どこから現れたのか、花びらは足元から湧き上がるようにして俺の視界を埋め尽くしていく。

遺跡の月光が遠ざかり、周囲の音が消えた。


頭の中に、映像が流れ込んでくる。

旭技巧連の人造遺物が見せたものとは根本的に異なる、圧倒的な鮮明さと臨場感を伴った記憶。

あちらが他人の目を通した録画映像だとすれば、これは自分自身がその場に立っているのと変わらない。


大昔の、地球とは違うどこかの記憶だった。


地平線まで続く不毛の大地。

乾いた風が砂を巻き上げ、空は灰色に濁って太陽の位置すら判然としない。

その荒野に、黒い薔薇の意匠が施された鎧を纏った者たちが立っていた。


――俺はその鎧をよく知っていた。

数は数十。いや、百を超えているかもしれない。

全員が武器を手にし、前方を見据えていた。


彼らの前に立ちはだかるのは、名前も分類もつけられないような異形の化け物たちだった。

俺が知るどのダンジョンの魔物とも違う、別の時代の、別の世界の脅威だった。


戦いが始まっていた。


先頭の男が大剣を横薙ぎに振るい、化け物の腕を根元から切り落とす。

返す刀で首を刎ね、次の敵へと踏み込んでいく。

その隣では、別の男が化け物の巨大な顎に捕まり、胴から噛み千切られた。

上半身だけになった体が地面に落ちる。それでもなお、その手は剣を離していなかった。


地獄のような戦場だった。

にもかかわらず、誰一人として逃げようとしない。

悲痛な叫びもない。

仲間が死んでも、自分の腕がもげても、誰も足を止めなかった。


そこにあるのは闘志だけだった。

負けを受け入れず、死を恐れず、ただ前だけを向いて戦い続ける者たちの意志。


肩口に薔薇の意匠が刻まれた黒い巨大なゴーレムが、戦場の中央で腕を振るう。

一振りで化け物の群れを薙ぎ払い、地面を深く抉る。

踏み潰された異形の残骸が砂に混じって散らばった。

だが、それでも化け物たちの侵攻は止まらない。

倒しても倒しても、奥から際限なく湧き出してくる。


騎士たちの数が減っていく。

ゴーレムの体にも罅が入り始めている。

劣勢は明らかだった。

それでも、誰も退かない。


黒い薔薇が舞う。

風もないのに花びらが渦を巻き、空へと昇っていく。

灰色の空を黒い花弁が埋め尽くしていく光景は、美しくもあり、禍々しくもあった。


その花びらの奥から、空を裂くようにして降り立つ影があった。


赫い巨大なドラゴン。

黒い鎧を全身に纏い、着地の衝撃だけで周囲の地面が放射状に砕け、化け物の前列が吹き飛ばされた。


気がつくと、俺は元の場所に立っていた。

夜の遺跡。月光。


呼吸が荒くなっている。

額には汗が滲み、心臓が胸を叩いている。

あの戦場の熱が、まだ体の芯に残っているような感覚がある。


あの騎士たちの闘志。

仲間が倒れても、体が壊れても、前を向き続けたあの意志。

それが今も、肌の奥にこびりついて離れない。


足元を見下ろす。

先ほどまで赤い魔石があった場所に、一つの腕輪が転がっていた。


黒石の巨人の腕輪とよく似た造りで、表面には黒い薔薇の意匠が施されている。


俺は拾い上げ、手に取ると触れた瞬間に理解した。


【媒体:腕輪】

効果:黒薔薇の赫竜を召喚する。

666秒間、黒薔薇の簒奪者を召喚する。


――黒薔薇シリーズ。

先ほどの記憶の中で、あの騎士たちと共に戦場に降り立った竜だ。


黒薔薇の遺物は元々、デラボネアが持ち込んだものだった。

指輪と腕輪。騎士団と守護者だ。

それらは全て、護ることに長けた遺物だったがここに来て初めて、奪う者の名を冠した遺物が現れた。


何故あの魔石が過去の映像を見せてきたのかはわからない。

だが、理由はどうあれ、俺にはこれが必要だった。


灰流鳥を回収する。

代わりに、赫竜を召喚した。


黒い薔薇の花びらが夜空に舞い上がる。

虚空から姿を現したのは、先ほどの記憶の中で見たものと同じ赫く黒い巨竜だった。

蝕燐竜とは異なる、重厚で威圧的な存在感がそこにあった。


黒い鎧を纏った赫竜は背中の装具へ俺を乗せると、身の丈の倍以上ある翼を大きく広げた。


一度の羽ばたきで、遺跡の地面が陥没するほどの風圧が叩きつけられる。

ストーンサークルの岩が揺れ、砂が渦を巻いて舞い上がり、次の瞬間にはもう空の上だった。


灰流鳥よりもずっと速い。

それなのに、風は騎乗者である俺には一切襲いかかってこなかった。

絶えず散る黒薔薇の花びらが、俺の周囲に薄い膜のように漂い、風圧を遮断している。


俺は一切の遠慮をせずに全速力で飛ばさせた。

船が向かった方角を見据え、夜の海の上空を真っ直ぐに突き進む。


眼下に広がる黒い海と、頭上に広がる星空。

その間を切り裂くように、赫竜が夜を駆ける。


異変は、飛行を始めてからすぐだった。

頭上の雲が不自然に大きく膨らみ、その中から客船よりも巨大な顔が突き出してきた。

目玉がない。口だけが異様に大きい。

その口を限界まで開き、俺たちを竜ごと噛み砕こうと落ちてくる。


だが、赫竜はそれよりもさらに速かった。

巨大な顎が空を噛む音が背後で響いた時には、すでに遥か先へ飛翔していた。


灰流鳥がこの空域で知覚すらできずに殺されていたのは、こいつの仕業か。

不気味なものを雲の上に飼っているな。


「ぶっちぎるぞ」


俺は赫竜の硬い鱗を撫でつけた。

それに応えるように、赫竜が大きく鳴いた。

その声は夜の海上に響き渡り、雲の中の化け物を威嚇するように轟く。


もう一度、雲の奥から影が迫る気配があったが、赫竜は速度を緩めるどころかさらに加速した。

追いつけるものは、もう何もいない。


先ほどの映像の中で見た騎士たちは、あの赫竜と共に戦っていた。

それでも、あの後敗北したのだろうか。

わからないが騎士団も、あのゴーレムも、あの竜も、遺物として形を変えて残っているということは、持ち主たちはもういないということだ。


あの戦場で感じた闘志。

前を向き続けた騎士たちの意志。

それが今、遺物を通じて俺の手元にある。


「こんどは負けないさ」


俺は右手を強く握り、指輪の感触を確かめた。


最後に勝てば良い。

それは俺が探索者になってから、ずっと大切にしている考えだ。










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お読み頂きありがとうございます。

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ブクマも本当にありがとうございます。更新の励みとなっております。


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― 新着の感想 ―
最後に勝てばいい。 ではなく、最後に勝っていなくてはならない。 が正解かな? お仕事的に。
この竜には主人公の遺物強化が適用されてないのか
赫? 前話では白い竜なのに? もしかして別人?
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