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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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「……すいません。とどめは貰っちゃいました」


土煙が晴れ、静寂が戻ったクレーターの縁で俺は言った。

振り返りミルへ向き直る。

彼女はまだ両手に魔法の残滓を纏ったまま、呆然と俺と、そして何もなくなった大穴を見下ろしていた。

やがて肩の力が抜け、長いため息を吐き出す。


「もうそろそろタメ口でいいわよ。……恩人に敬語を使われるのは居心地が悪いわ」

そう言うと、彼女は糸が切れたようにその場へ座り込んだ。

極度の緊張からの解放。

第五階位に至った肉体でも、精神的な摩耗までは支えきれないのだろう。


「殺せば寄生される魔物ね……」

タメ口の許可をもらった俺は、咳払いを一つして話し出した。

「本当にそうだったかはわからないけどね。ただ、近しい条件だったのは間違いない。最後のレンの必死さを見れば答え合わせはできたと思う」


第五階位のパーティー、紅蓮人の全滅。

第四階位の翡翠、メルトアの森の壊滅。

その元凶となった魔物は、単体の戦闘能力は決して高くなかったはずだ。

だがその「寄生し、宿主を乗り換える」という狡猾な生態が、個々の武力では最強だったはずの彼らを内部から食い破り、全滅へと追いやった。


「あっ」

どちらが発した声かはわからない。

空間が歪み、近くに半透明の膜のようなゲートが出現した。

最奥のボス、あるいはそれに準ずる魔物の排除という条件を果たしたのだろう。

そして、ゲートが出現したという事実が、俺もミルも寄生されていないことの何よりの証明だった。

もしどちらかに寄生していれば、ダンジョンはまだ「終わっていない」と判定していただろうから。


「――今回の、報告はどうすればいいかな。ねぇみんな……」

ポツリと呟いたミルに目線を向ければ、彼女は膝に顔を埋めていた。

震える肩。

彼女は初めて俺の前で泣いていた。

気丈に振る舞い、冷徹な判断を下し続けてきた彼女の、それが年相応の素顔なのだろう。

今回の指名依頼では多くの死が訪れた。


俺は言葉をかけず、彼女が落ち着くまでただ隣に立っていた。


しばらくして涙を拭ったミルと共に、俺たちはゲートを潜り抜けた。

光に包まれる感覚。

目を開けると、そこは数日前に俺たちが踏み入ったダンジョン入り口の広場だった。

時間は夜明けか。

白み始めた空の下、多くの報道陣や管理車両が辺りを囲み騒然としていた。


「生存者だ!」

「誰だ!? 紅蓮人か!?」


近くにいたダンジョン管理員が俺たちに気づき、すぐに駆け寄ってくる。

遠くからフラッシュが焚かれ、紅蓮人の安否を尋ねる報道陣の怒号のような質問が飛んでくる。

だが俺たちは全てを無視した。

答える義務も、気力も残っていない。


ミルはふらりと振り返り、今出てきたばかりのゲートの基部に歩み寄った。

そして、第五階位の膂力でゲートの入り口を殴りつけた。


ゲートが砕け散る。


ダンジョンの閉鎖。

最奥のボスを倒したダンジョンは、入り口を破壊すると跡形もなく消え去るという特性がある。

二度と誰も入れない。


「ああ……」

報道陣たちはその行為の意味を理解したのだろう。

シャッター音が止み、静寂が広がる。

帰ってこない人たちが確定した瞬間。

惜しむような、あるいは絶望するような声を背に、俺たちは用意された管理所の車に乗り込んだ。

シートに深く体を預け、ようやく俺は泥のような眠りに落ちた。


――――


後日。

俺はダンジョン管理所の特別応接室に呼び出されていた。

やけにふかふかの高級そうな革張りの椅子に座り、目の前の男と対峙する。

スキンヘッドに仕立ての良いスーツ。

あの時、俺をこの依頼にねじ込んだ張本人だ。


「――待って下さい。まずは、自分は春花と申します。あなたは?」

俺は今まで聞く機会のなかった問いを投げかける。

男は驚いたように眉を上げた。


「おや、名乗っていなかったかね。これは大変失礼しました」

男は柔和な、しかし底知れない光を宿した瞳で俺を見た。

「家長と言います。今後とも宜しくお願いします」


家長。彼は名刺を差し出すことなく話を本題へ移した。


「さて、春花君」


「ミルさんは第五階位になったゆえに忙しくてね。各方面への説明やら、紅蓮人の後始末やらでてんてこ舞いだ。なので私が伝言と預かり物を代わりに渡しに来た」


事後処理のほとんどはミルが中心に行なってくれていたらしい。

報告書の作成も、あの凄惨な事件の証言も、全て彼女が引き受けてくれた。

俺がソロのイレギュラーとして余計な嫌疑をかけられないよう、上手く立ち回ってくれたのだろう。


ちなみにダンジョンの踏破記録も俺の実績として正式に登録された。

あのダンジョンはミルの報告と、紅蓮人全滅という事実を鑑みて「Aランクダンジョン」として認定された。

事実上の最高ランク。

第三階位にしてAランクダンジョンの踏破実績持ち。

業界がひっくり返るような肩書きだが、実情は運が良かっただけだ。


家長はテーブルに二つの品を置いた。

ゴトリ、と重い音がする。


一つは、ダンジョンの最奥で最後に残った巨大な結晶体。

ルカとレン、そして寄生体を養分として育った異形の魔石だ。

そしてもう一つは、見たことのない装飾が施された指輪。


「これは?」


「ミルさんから預かった。遺物です。今回のお礼にと」

家長はニヤリと笑う。


お礼をするのは俺の方だろう。

しかし遺物であるならそれはそれとして貰い受ける。


俺は指輪を手に取った。

冷やりとした金属の感触と共に、脳内に情報が流れ込んでくる。


【媒体:指輪】

【効果】

 300秒間、蝕燐竜の召喚


「え!」

思わず素っ頓狂な声が出た。

俺は椅子から立ち上がり、まじまじと指輪を見つめる。

ドラゴン。

オークションなどにも滅多に出回らない、レア遺物だ。

ゴブリンやスケルトンとは次元が違う。

第五階位の彼女が、これを俺に譲ったという意味。

それは単なる礼以上の、信頼と挑戦状のように感じられた。


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お読み頂きありがとうございます。

お気に召しましたらブクマなど大変嬉しいです。


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