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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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「――そもそもお前も怪しいんだ」


広場に冷たい声が響く。

レンの視線が虚空から俺へと突き刺さる。

そこには先ほどまでの仲間としての温情はない。

あるのは敵対者を見る昏い眼差しと制御を失いかけた殺気だけだ。


「大牙さんが俺達を守って死んだ時にいなかった。――後から合流した()()()だろう?」


違う。そんなわけはない。

喉まで出かかった否定の言葉を飲み込む。

証拠がない。

俺が人間であるという証明。

俺がこのダンジョンに正当な手続きで入ったという証明。

今の俺には何ひとつ提示できない。


「違います。自分は……」

「その態度が証拠さ」

俺の弁明を遮りレンが一歩踏み出す。

「同じパーティーの仲間が死んでいる状況で落ち着いて野営? 何も取り乱していない。今の今まで平然と飯を食い眠っていた。正常な人間の神経じゃない」


レンの糾弾は続く。

「俺はソロで参加して――」

「――そんな奴はいない! 今回の指名依頼はパーティー単位での参加者しか居ない! ソロなんて人間が第三階位にいるわけがない!」


絶叫に近い否定。

それが決定打だった。


俺はこの指名依頼に直前で参加した。

事前の作戦会議には出席しておらず前日に突然ねじ込まれた乱入者だ。

同じ第三階位の青龍たちさえ知らなかったイレギュラー。

正規のルートで選抜されたレンたちから見れば俺は明らかな異分子だ。

存在しないはずのソロ探索者。

ミルの「現場にいなかったから怪しくない」という理屈とは真逆。

「現場にいなかったからこそ怪しい」という疑惑。


殺気が肌を刺す。

背筋が凍るような悪寒。

俺は無意識に手元に握っていたゴアデビルの杖を両手で強く握り直した。

防衛本能による反射的な行動だった。


ただ、第四階位であるレンがそれを見逃すはずはなかった。


硬質な音が鳴る。

瞬きする間にレンの腰から長剣が抜き放たれていた。

切っ先が俺へ向けられる。

死の感触が明確な形を持って突きつけられる。


「……待ってくれ。本当だ。自分は前日に管理所の偉い人に参加を打診されて受けたんだ」


必死に言葉を紡ぐ。

嘘ではない。事実だ。

だがその事実はあまりにも脆い。


「その偉い人とやらの名前は?」

レンの瞳が揺らぐことなく俺を射抜く。


「……わからない」


俺はあの男の名前を知らない。

ただ「管理所の偉い人」としか認識していなかった。


沈黙。

遺跡の冷たい空気が重くのしかかる。

レンが小さく息を吐き剣の柄を握る手に力を込めた。


「決まりだな。お前はクロ(魔物)だった」


問答無用。

殺意が形を成して俺に襲いかかる。


時間が圧縮されるような錯覚。

視界の端でレンの輪郭がブレた刹那、十メートルの距離が消失していた。


俺の喉元へ突き出された切っ先は、寸でのところで顕現したゴアデビルの剛腕によって弾かれる。

金属音と火花。

だがレンの踏み込みは止まらない。

流れるような動作で放たれた返し刃が、悪魔の首を刎ねようと横薙ぎに閃く。


それよりも早く回収によりゴアデビルの巨体が光の粒子となって霧散した。


レンの長剣が空を切る。

実体のない空間を斬り裂いた一撃の威力は計り知れない。

もし直撃していれば防御ごと両断されていただろう。



ゴアデビルが消える直前に俺を後方へ突き飛ばしていた。

その衝撃で吹き飛び床を滑る。

圧縮された時間が正常な流れを取り戻す。


付近を警戒していた白き巨狼が滑り込み、俺はその背にしがみつくように飛び乗った。


同時に黒薔薇の指輪を発動する。


光と共に五体の骸骨兵が召喚される。

すぐにレンの進路を塞ぐ障害物として展開させる。


「走れ!」

森林狼が床を蹴る。

爆発的な加速に振り落とされそうになりながら俺は背後の闇を見据えた。


「逃げても意味はないぞ」

感情の抜け落ちたようなレンの声が、物理的な距離を無視して鼓膜に届く。

直後。

パァン、と乾いた破砕音。

振り返るまでもない。

時間稼ぎの黒兵士たちが、一合の手合わせすら許されず粉砕された音だ。


俺は前を向き狼の毛皮を強く掴む。

真正面から戦ってはいけない。

第四階位の身体能力を持つレン相手に、俺の貧弱な身体能力では勝ち目はない。


生き残るための最適解。

この狂った状況を打破できる可能性は一つしかない。


ミル。

彼女を探すんだ。

レンとルカが犯人と断定し排除した彼女こそが、この盤面をひっくり返す唯一の鍵だ。



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