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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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33

ミルが去り俺たちはすぐに荷物をまとめた。

冷え切った空気の中出発の準備を整える。

俺はミルを追わなかった。

確認しなければならないことがある。

このダンジョンの最奥。

出口が消滅した原因と紅蓮人の全滅の真実。

それを自分の目で見極めるまでは引き返せない。


再開された行軍は一方的な蹂躙だった。

出てくる魔物は全てレンが斬り伏せる。

裂帛の気合と共に銀閃が走る。

第四階位の魔物ラディアントさえも彼の前ではただの肉塊だ。

相変わらずレンの戦闘能力は異常なほど高い。

迷いがないというよりは何かに追われるような焦燥が剣速を上げているように見える。


ルカはその背中に張り付くように追従する。

戦闘中は怯えたように身を縮めているがレンが敵を倒すたびに安堵の吐息を漏らす。

その吐息がレンの使命感を煽りさらなる殺戮へと駆り立てているようだった。

俺はその後ろをゴアデビルと共に無言で歩く。

赤土と石畳の回廊を進む。


最奥に進むにつれて濃密だった魔物の気配が薄くなっていく。

あれほど頻繁に襲撃してきた蟲や巨人が姿を消した。

静寂が満ちる。

自分たちの足音だけが響く死の世界。

嵐の前の静けさかあるいは「何か」が全ての魔物を食らい尽くした後の静寂か。

悪寒を感じながら俺たちは巨大な石造りの扉をくぐった。


空間が開ける。

ドーム状の巨大な広場。

天井は見えないほど高い、ここが最奥だ。


――紅蓮人が同士討ちを行い翡翠やメルトアの森のメンバーが虐殺された現場。

俺たちはその中心部へと足を踏み入れた。


異臭が鼻をつく。

錆びた鉄の臭い。大量の血の臭いだ。

広場の床には至る所に赤黒いシミが広がっている。

激しい戦闘の痕跡。破壊された石柱。

ここで凄惨な殺し合いがあったことは疑いようがない。


だが。


「居ない! 誰も!」


静寂を切り裂いてレンの絶叫が響く。

彼は広場の中央で狂ったように周囲を見回していた。

「嘘だろ……みんな……どこに行ったんだ!」


血痕はある。

飛び散った肉片のような痕跡もある。

だが肝心の「死体」が存在しない。

紅蓮人の死体も翡翠のメンバーの遺体も一つとして残っていなかった。


頭を抱えてしゃがみ込むレン。

その背中をルカが「レンさん……」と涙声で撫でている。

俺はその二人を無視し冷静に現場検証を開始した。

「探せ」

白い巨狼を召喚し付近の調査を行わせる。


俺自身も地面に膝をつき血痕に触れる。

完全に乾いており新しいものではない。

数日は経過しているだろう。


通常ダンジョンでの死体は魔物も人間もダンジョンに吸収され消滅する。

だがそれには相応の時間がかかるはずだ。

骨や装備品まで綺麗さっぱり消えるには早すぎる。

衣服の切れ端すら落ちていないのは異常だ。


「どうだ? 魔物か?」

俺の問いに森林狼は鼻を鳴らすだけだ。

付近の臭いを執拗に嗅いでいるが敵性存在に対する警戒反応を示さない。

魔物が潜んでいる気配はない。

あるいは匂いそのものが消されているのか。


「何かが……このダンジョンにいるんだよ」

震える声。

振り向くとしゃがみ込むレンを抱きしめるルカと目が合った。

彼女は怯えた瞳で周囲を見つめている。

「死体を持ち去るような……恐ろしい何かが」


『徘徊型』のボス。

死体をコレクションするタイプの魔物。

新たな可能性はゼロではないが俺の召喚獣はその可能性を否定している。


そもそも不可解だ。

数十人分の死体が装備品ごと忽然と消えた。

まるで最初から誰もいなかったかのように。


その時だった。

傍らのルカを無視してレンがゆらりと立ち上がった。

その顔色は青白く瞳には危うい光が宿っていた。


俺は一つの可能性を探るために彼に声をかけた。

「……レンさん。ここに至る道は僕達が辿った道しかないんですか?」


レンは虚ろな目を俺に向ける。

質問の意味を理解するのに数秒を要したようだった。

「……道?」


レンは少し驚いたように考え込む。

記憶の糸を手繰り寄せるように視線を彷徨わせる。

「……僕達は紅蓮人が突っ切った道を辿っただけだ。脇道の探索はしていない。地図もない以上細部に至るまで調査できていないのは事実だ」

ブツブツと独り言のように呟く。

「別の道。抜け道……」

そして何かに思い当たったようにハッと顔を上げた。


「――そうか。だとしたら」


彼の思考が急速に一つの結論へと収束していくのが分かった。


「――ミルの仕業か」


レンの声に憎悪が滲む。

「彼女はこの広場に俺達よりも早く辿り着いていた可能性がある。彼女は元々斥候だ。隠密行動に長けている」

レンは自分の推論に確信を深めるように早口になる。

「死体を持ち去ったんだ。遺物があれば可能だ」


この広場には沢山の死体が転がっていたはずだ。

それが消えた。

魔物ではないとしたら人間だ。

そしてこの場にいない人間は一人しかいない。


「俺達の仲間を奪った」

レンの拳が震える。

ギリギリと歯ぎしりをする音が聞こえた。

「あいつが……あいつが証拠隠滅のためにやったんだ」


ポツリと呟いたレンが俺に顔を向ける。

「まだ、そうと決まったわけでは――……」

俺の言う事には耳を貸さずに、その表情は能面のように固く張り詰めていた。


「ミルは……魔物だ」


断言した。

彼はミルを「擬態した魔物」であり「仲間を冒涜した犯人」であると定義した。


そして、レンを見上げるルカ。


「そうですねレンさん……許せませんね……」

甘い毒のような声がレンの耳に注がれた。


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