後片付け(4)Messiah's Blessing
キナコ村に帰ってくると、60人の女共が熊の丸焼きパーティをしておった。
わしらが不在の間に、元学園事務の巫女達30人が、やって来たのだ。
元事務員という非戦闘員だけで、よくドラゴン山に登ったものだ。
近衛騎士が発見した時には、山の獣に囲まれ瀕死だったそうだ。
瀕死の巫女達は、まず露天風呂に沈められた。
悪魔の湯の効能で復活した彼女達は、熊の丸焼きを堪能中というわけだ。
相変わらずやかましいが、今は頼もしく力強い声に聞こえる。
彼女達は、「ドラゴン山に初代巫女様が降臨されている」という噂を聞いたそうだ。
噂を聞いてすぐに、ニャンブー線の貨物列車に、自ら家畜であると申請して積んで貰ったそうだ。
尊厳さえも捨てて遥かな道のりを越え、危険な獣が跋扈するドラゴン山を登り、瀕死の状態となりながらも、ここまで辿り着くとは。狂信者おそるべし。
初代巫女降臨の噂の出所は、ハナちゃんだった。
さすが、天使の幼体。こうなると分かっててやってるんだろうな。
女神のわしが非難できることではないけどね。
翌日、幼女隊にも新メンバーがやって来た。
例の空き地に全裸で転がっていた魔女見習いを、ミーが拾ってきた。
魔女の幼体だね。
神話の中では、魔女は救世主で、人を騙し唆す天使や、人類を滅ぼす女神とは相反する存在なのだが。中身が幼女の幼体同士には関係がない。
実際には、種族を越えて派閥争いをしているようだしね。
「やー、いいヒトに拾てもろたわー」
インチキ関西弁だ。むう、まだその枠が空いていたか。
黒髪ショートカットで、ちょっと座敷童っぽい。わしは女児の髪型を知らんので、説明できぬが「わたしにはかわりがいるもの」とか言いそうなやつね。
その見た目で、インチキ関西弁かあ。
わしの方が、見た目だけは「せやなー」とか言ってそうな感じだ。
説明になってないな。
「天使のおっちゃんが、メイドさんが拾ってくれるから、世話になれゆうとった」
「僕は、その天使とやらに会った記憶がないんだけど。天使の幼体なのになあ」
「わしも、会ってないんじゃ」
「天使は、いい加減ですので。気にする必要はないかと」
この魔女見習い、おもしろいことを言い出したな。
「うちは、他の世界の知識があるんや。役に立てると思うで」
何やら、プリインストール済みらしい。
「へー?僕にも、生れた時から知識があったけど、この世界のものだったね」
「なるほど。生まれたてで言葉を話すのは、そういうことなのね?」
猫型シリーズはどうなんだろうか。ドラちゃんは、幼女型の時に、ほとんど喋らなかったし、最初は服を着る習慣すら理解していなかった。
「リーザの頭の中にも、ちゃんと何か入っているの?」
どうにも聞き方にひっかかるものがあるが。
「わしは、ちょっと違う。ミーに近いかな。前世の記憶がある、あったと思う」
「なんだか曖昧ね?」
「うーん…。前世の記憶なのか、単なる知識なのか、自分でも分からぬのじゃ」
最初は確かに、前世は50過ぎのおっさんだった、という実感があった気がする。
でも、違和感も最初からあった。
はじめて女湯に入った時は慌てたが、ファントムちんちんは、ぴくりともしなかった。そもそもファントムちんちんが無かった。
なお、ファントムちんちんとは、ファントムペインみたいなものじゃ。
今も、クリームがぺったり隣に寄り添っているが、ぬくいなー、としか思わない。
知識をインストールする時に、おっさんの記憶を人格ごとライブマイグレーションしたんじゃないだろうか。
天使は、いい加減だというからね。
手順書はちゃんと守って欲しいのだが。
まあ、どうでもいいや。
前世のあるなしで、今のわしは別に変らぬのじゃ。
魔女見習いのプリインストール辞書はなんじゃ?
「内燃機関と集積回路の構造」
今一番欲しいものが来た。ハイブリッドカーが開発出来るのでは?
この世界の技術レベルはおかしい。
リニアモーターカーが実運用されているのに、主な移動手段は馬車だ。
LEDを照明に使っているのに、ラジオは真空管。LEDは半導体なのに、トランジスタは無いのだ。
テレビも無いし、電話も無い。航空機も無い。ダイナマイトはあるらしい。
そこにハイブリッドカーが忽然とリリースされてもいいのだろうか?…いいような気がするね。
誰かが、異世界知識で、発明無双した結果のような気がするのじゃが。
そのカオスの中に参入するのは、どうにも抵抗感がある。
女神の本能的に、人類が進化し過ぎるのは困る、と感じている。
などと思い悩んだが、杞憂であった。
「知識があっても、経験はないんや。モノを作るのは無理やで?」
アルコールの醸し方の知識はあっても、酒を作るには匠の技が必要。
知識だけで、モノは作れぬ。
どらごん組としては、妥当なところじゃろ。




