どらごん戦争(15)Fire and Ice
「やなものに辿り着いたね」
学園の解体工事の発注元は、オエド銀行の企画七課だった。
ハナちゃんの古巣かな?しかめっ面をしているね。
工事現場で監督のおっちゃんから聞き出した発注元は5次請けだった。現場は6次請け。辿るのに時間がかかったよ。
多重下請け構造も富の再分配の一環なんだそうだ。
「リーザちゃんの言う、ナカヌキ?ってのは無いよ。商流が長いのは、責任を分散するためだよ。この規模の工事だと、どうしても商流は深くなるね」
そうはいっても、指揮命令系統は、ぐちゃぐちゃになるじゃろ?デスマーチ必至じゃん。前世のことを思い出して、お腹痛いわ。
「指揮権は現場にあるから。参加している会社も、役割がしっかり分担されてるから。資材調達、瓦礫の廃棄、地質調査、付近への対策、進捗管理、とかね。まとまりはいいんだよ」
へー、案外よくできているなあ。
わしは働きたくないので知らん。
「どうするの?あなたの古巣なんでしょう?乗り込む?」
「うーん…、企画七課なら、お金を集めて提供しただけだろうね。単なる貴族の義務だろうね」
付近住民が陳情したんじゃろな。黒焦げの塊が近所にあったら迷惑じゃ。洗濯物に煤が飛んできそうじゃし。
「裏の意図があった場合は、もっと面倒だよ。多分誰も知らない。だって、私が知らないんだから」
「解体工事を邪魔するわけにもいかないし…。この線は、これ以上追えないわね」
「そういうことだね。現場百篇というし、今度はエタナル教総本山跡地に行ってみようか」
エタナル教総本山は学園と同じ敷地内にあるが、間に森を挟んでいるので、ぐっと迂回して移動する。
こちらは、再建工事をしている。
ナマタ村でお参りした小さい神社くらいの規模で稼働もしている。参拝客も居るし、境内を掃除する巫女さんまで居る。
「おみくじひいてみる?」
「えー…、わしもう帰って風呂入りたいんじゃけど…」
もうよくない?触らぬ神に祟りなしって言うじゃろ?
「ふやけるわよ?あんた、どんだけお風呂入りたいの」
「風呂なら、ここにもあるよ。露天の、おっきいのが」
まじか!?エタナル神社、エクセレント過ぎる!
露天風呂も営業再開していた。
受付の巫女さんによると、露天風呂は最優先で再建したとか。そもそも、ここだけはテロの被害を受けていないそうだ。
「入浴は、エタナル教の神事だから。テロリストも、さすがに躊躇したのかしら?」
「だとすると、テロリストもエタナル教の信者ってことかい?総本山を焼き討ちするなんて、とんだ狂信者だね」
脱衣所には、巫女さんの服が大量にある。
今、露天風呂には、大量の巫女さんが全裸でひしめき合っているのだな。
ああ、やかましそうだなあ。
露天風呂だけでなく、サウナもあるし、冷水風呂まである。
「ひやいー、のよー」
なんで、いきなり水風呂入ってるんだ、コルサちゃんは。
「いやー、まじ良かったわー。もう、代表交代決まりでしょー」
「だねー。神父のやつ、ほんとにくたばってればいいのに」
「それな。あいつまじごみかす」
「不在の七日間ルールってやつ?作ったやつマジすごくない?」
「それなー。初代巫女様が書き残してたんでしょー?」
「捏造だって噂あるけどな」
「まじでー?やばくないのー、それ?」
「だって都合よく、あんなの出てくるわけないだろうが」
「噂と言えば、初代巫女様が御光臨遊ばれたって、まじ?」
「まじまじ。私見たもん」
「えー、何歳よ?はんぱねーっすわー初代様ー」
「学園は、もうやんないできまり?」
「きまりでしょ」
「ガキ共の相手から解放されるわー、やったー」
うるさいし、口悪いな、この巫女共。
コルサちゃんが、最初こんな言葉遣いしてたけど、内偵中に毒されたんじゃろか?
学園の事務員達は、ここで巫女をやっておったのか。というより、巫女が学園の経営に参加していたのじゃろうな。
「とんでもなく、うるさかったわね…。最近の巫女は、あんななの?」
巫女共が上がって行ったので、やっと会話出来るわ。
「なのよー」
コルサちゃんは、巫女共が上がるのと入れ替わりで水風呂から移動してきた。
さすがのズンダ最強生物も、唇がちょっと色変わってるぞ。
こいつ、さては内偵中に何かやらかしてるな?
「いろいろと、面白いこと言ってたけど」
「エタナル神社は、代表が変わって継続されるけど、学園はおしまい、ってことね」
「そういうことだね。テロリストの目的は神父の粛清だったのかな?」
「あんさつすれば、すんだのです?」
「そうだね。なんで、焼き討ちまでしたんだろうか?」
「国王の家も焼いたのは何故かしら?」
「ああ、あいつ神父と組んで、学園から利益を抜いてたからな。学費が高過ぎるとは思わなかったかい?」
「そういうこと?なんとも単純な内幕だったわね」
「国王ちゃんが消されてないのは、なんでじゃろ?」
「この国では、トップのお飾りは無能なほど都合がいいだろ?学園を切り離されたアイツは、国民の下僕でしかない。死ぬよりつらい人生しか残ってない」
「えげつないのう…」
恐ろしきは、この国の仕組み。ちょっと?わし、この国のドラゴン爵じゃなかった?
どらごん組の独立を急がねば。
「でも、ほんと誰なんだ?このテロの首謀者。何が収穫だったんだ?」
「そうね。一円にもならない事するなんて信じられないわ。私怨にしても、やり過ぎな感じだし」
ターマの商人的には理解できないだろうが、私怨で大量破壊するのは、あり得るんじゃないかな。rm -rf/をスクリプトにこっそり仕込んでから、現場から逃げて行くエンジニアは実在するんだ。受け入れ試験直前で見つけた時は、見なかった事にしたくなったよ。
「ま、ワワンサキは、こんな状況だ。様子見でいいと思う」
「そうね。膿が出て、平和になりそうね」
うーん、その膿にはマンションを焼け出されたわしらも入りますかね。
自主的に出て行くわけじゃけども。
「おやぶーん、これからどうするのー?」
そうだね、どうしようか。




