どらごん戦争(7)忌みてーしょん・ゴールド
ズンダ金貨は大暴落した。
発行元であるズンダ王家が完全に消滅して、再興する目も途絶えたからだ。
通貨としての価値は、ゼロどころかマイナス。
金貨は金で出来ているのだから、最低でも金の価値はあるはずが、それすらも割り込んだ。
持ってるだけで、ズンダ共和国から国賊扱いだからね。
ズンダ金貨は、もはや呪われたアイテム。
「お館様は、一体どういうおつもりなんですか」
若頭に説教する番頭みたい。
実際、ナニワ銀行頭取のケンちゃんは、以前はカステーラ家の番頭だった。
丁稚からの叩き上げで、カステーラ家の成長に貢献、その手腕を銀行にヘッドハントされた。
今、ナニワ銀行頭取室で、ズンダ金貨の対策会議中。
大暴落したズンダ金貨は、ナニワ銀行に大量に持ち込まれた。
ナニワ銀行が、ズンダ金貨を無制限に買い取ると宣言していたからだ。
他の銀行は、ズンダ金貨の買取を、凍結したのに。
市内だけでなく、ズンダからも、ワワンサキとヨコヤマ帝国からも、ズンダ金貨が持ち込まれた。
商人も銀行も、ナニワ銀行に殺到した。
買取価格を1枚4万円まで下げても、ズンダ金貨は持ち込まれた。
発行済みのズンダ金貨の、ほぼ全量がナニワ銀行に集まった。
誰のせいでこうなったかといえば、どらごん組なんじゃよなあ。
「えー?300年も経てば希少価値出るんじゃなあい?」
適当ぶっこくクリーム閣下。
300年も経ったら、この場にいる人間はみんな死んでるよ。人間はね。
「300年なんて、すぐでしょ?」
クリームちゃんの感覚では、ターマが連合王国に併呑されたのは、つい最近のこと。
ほんの300年前のことでしょ、とか言ってたよ、確かに。
3000年間代替わりしていない、ターマ市よりも歴史が古い老舗商会。
それがカステーラ家。
カステーラ家当主のクリーム・カステーラは女神級の希少生物だった。
今この場に居るのは、3000歳幼女に、女神幼女、元ゴースト幼女。
人間はケンちゃんだけ。
この場に限れば、人間の方が希少生物。
「で?300年寝かします?私は付き合いきれませんが。子孫に引き継ぐので、結婚相手紹介してもらえます?」
ケンちゃんは50過ぎにして独身なのだ。前世のわしと同じ。
「ズンダの近衛騎士で良ければ、アンに聞きなさい」
いや、ズンダの近衛騎士は、絶滅危惧種じゃん。
何処に逃げたのか、どれだけ生存しているかも不明。
「まじめな話、どんな策があるんですか?」
ナニワ銀行には、買い手不在のズンダ金貨が100万枚もある。
「昨日の約束通り、リーザの口座残高分は、引き取るわ」
わしのオエド銀行の口座にあるのが、だいたい100憶円。
今回は、スプレッド無し、ナニワ銀行の買取価格で買えるので、ズンダ金貨を25万枚購入して、残り75万枚。コルサちゃんも手持ちの資金で全力買いするけど、7千万円分では誤差みたいなもんじゃ。
資金が、全然足りないね。
「カステーラ家の資産からは、出せませんか?」
「うーん、そうねぇ…」
さすがのクリーム閣下も考え込む。
そんなに集めろって言ってないでしょ、とは言えない。
今回の事は、天変地異みたいなもんだ。
王女凱旋を仕込んでいたはずのハナちゃんまでもが、蒼褪めてズンダに飛んで行った。
「カステーラ商会を売りましょうか」
「それは、この国の元首の立場も込みでしょうか?」
「そうね。私、別に要らないしね」
ターマの商人は、国さえも売り買いする。
フリマで不要品を売り買いする感覚で。
「いくらですか?」
「買ってくれるのかしら?300億円でいいわよ」
「随分と破格ですね。条件は何ですか?」
「1枚4枚で買っちゃうと、あんたのとこ大赤字でしょ?条件は、今朝言ってたことよ。どらごん組に干渉しない。それだけ」
「その、どらごん組とは一体なんですか?」
朝食会では、コルサちゃんが意味不明な回答でぶっちぎったからね。
「さあ?私にもよく分かんないわよ。リーザのやる事だもの」
どういう意味かなあ?
「はあ、お館様のなさることは、未だに理解できません」
ケンちゃんは、苦労人なんだね。そういうとこも前世のわしみたい。
「じゃあ頼むわね。元番頭のあなたなら安心だわ」
「私が個人で買い取るわけではありませんよ。あくまでオエド銀行としてやることですから」
「他にも条件は付けたいけど、それはいずれまた」
「好きにしてください…」
せめて、ケンちゃんに配偶者を紹介してあげたら?
わしの口座にある100億円と、カステーラ商会を売った代金300億円で、ズンダ金貨100万枚を購入。
この世のズンダ金貨のほぼ全てが、どらごん組のものになった。
等価交換とは言えそうもないけど、ターマの国の不干渉は獲得。
一歩前進だよ、きっと。おそらく。たぶん。
まあ、ちょっとは覚悟しておこうか。




