ハナちゃんは黙ってない(2)
「ズンダ財宝の目録は、まだここにあるかい!?」
カードを職人に預けてすぐに、別棟にある企画七課の部屋へ飛び込んだ。
「まだ、こちらで押さえてありますが、何か?」
「現物が無いやつを、目録からリストアップしておくれ」
「いつまでに?」
「昼までに」
「…夕方までに、なりませんか?」
「分かったよ、日が暮れるまでに頼むよ!」
「承知しました」
企画七課の課長が、しょうがねぇなあ、って感じを出しているけど。ほんとは、もう用意してあるんだろ?有能だから、好きにさせておくけどさ。
「おーい、また頭取の、無茶ぶりがきたぞー」
「またっすかあ?」「断って下さいよー」
企画七課の連中は、ほんと遠慮が無い。頭取なんて一番の下っ端だからね、仕方ないけど。こいつらは、特にひどい。目の前で、堂々と文句を言ってる。陰口よりはいいかな?
この国は上に行くほど、立場が弱くなる。孤児院の巫女さんは、「貴族は庶民の下僕なのよ」なんて言っていた。もっと話を聞いておけば良かったかな?
「無茶ぶりはこれだけじゃないんだよ。悪かったね」
「はあ…、なんでしょうか」
「100億円の小切手を切るから。ズンダ案件で稟議上げて」
「残りの予算ぎりぎりですが?」
「いいんだよ。頭取決済で上げてくれればいいから」
「こっちは、いつまでで?」
「なるはやだよ!」
なるはや、なんて嫌な言葉。曖昧なくせに、圧力だけはかけて来る。
でも、そんな呪詛の言葉を吐いてでも、この件は急がないといけないんだ。一日遅れただけでも、国の歴史が変わってしまう。
もうひとつ、保険を打っておこう。
100億で済めばいいけども、準備は必要だろうね。
「100億円の小切手切るから、稟議上げてくれないかい」
さっきと同じセリフを言う私。
今度は、公安九課だ。一番近寄りたく無い部署だけど、背に腹は代えられない。
「頭取。お久しぶりですね。ズンダの視察依頼でしょうか」
「挨拶は抜きでいいよ。急ぎなんだ」
「そうは言っても、100億も動かせる案件のあてがありません」
「ズンダ王女の生存を確認した、と言ってもダメかい?」
「…。空手形でよければ」
「五か月待たせるから、小切手にならないかい?」
「承知しました。危ない橋を渡るだけの価値はありますからね」
貴族相手に、空手形なんて切れるもんか。五か月先延ばしだって危ない。
五か月に明確な根拠はない。のじゃ姉が、私と同じ6歳なら、五か月後には学校に通い始める。それまでは、ワワンサキに居るんじゃないかな、っていう、それだけ。
それまでは、あいつのもとを日参して、身柄を押さえる。同じ学校に通うのもいい。しばらく、あいつとは一蓮托生だ。正直言うと、同じ年代の友達が欲しいってのもある。むしろ、そっちのが大きい。
まだ足りない気がする。私は用意周到なのだ。
「うちの株を5パーセント分、譲ってくれないかい」
今度は、渉外課だ。
「それは構いません。頭取決済ですか?」
「ああ、私の交際費で落とす」
「かしこまりました。すぐに用意できます。120億円で請求を上げますね」
「リーザの件は、これで勘弁して欲しい」
「ああ、その件でしたら。おつりが出ますね。差し上げませんけど」
「すまないね。夕方取りにくるよ」
ハンの奴が、のじゃロリをうちに持って来ちゃった件の手打ちも、一緒に片付いた。
行内でお金を動かしたところで、経費が消えるだけなのにね。銀行は、不思議なところだ。
今期の交際費が全額飛んじゃった。最悪、頭取辞めて逃げようかな。
のじゃの家で、メイドでも募集してないだろうか。
「いつも仕事が、はやいね」
私は、カード発行室に戻って来た。ここの職人達は、いつも私のわがままを文句も言わず聞いてくれる。孫みたいなもんだから、と。私が、小さい子供であることも、たまにはこうして役に立つのだ。
「ブロンズカードは、装飾も無いですから。楽なもんですよ」
そうは言うけど、短時間でこの仕上がりは見事だ。熟練の技だよ。
あー、しまった。私は、一つミスをしてしまった。にこにこ笑うおじいちゃん職人に、おずおずと頼んでみる。
「プラチナカードすぐできる?」
320億も所有している貴族が、ブロンズでいいわけがない。リーザの分はプラチナカードが必要だ。
「すぐ出来ますよ」
ありがとう、おじいちゃん。
私は、孤児だから、おじいちゃんがどんなものか知らないけれど。
打てる手は、この辺が限界だろうか。
今頃は、のじゃも財宝を搔き集めるのに、奔走していることだろう。どこに、隠しているのか、預けているのか知らないけれど。




