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第74話 綺鳴の後を追え その1

 8月6日(土曜日)。

 俺は今日――ストーキングをしていた。

 視線の先にはポーチを肩に掛けた兎系女子が1人。俺の隣にはシャーロックホームズのような恰好をしているクール系後輩が1人。


「なぁ麗歌、やっぱりこれはプライバシーの侵害ってやつだと思うんだが……」


「つべこべ言わないでください。お姉ちゃんがもし変な人に騙されていたらどうするのですか」


「このシスコンが……」

 

 暑い暑いこの夏の日に、まさか帽子とマスクとサングラスをして、電柱の影に隠れる羽目になるとはな。

 恐らく夏休み中最も無駄な1日を俺は過ごしていた。

 朝、コイツのことを無視していればこんなことには……。



 --- 



 土曜の朝、妹とソーメンを食べている時にチャイムが鳴った。


「はーい」


 玄関を開くと、そこに立っていたのは帽子を被りコートを羽織った麗歌だった。正確な名はわからないが、シャーロックホームズが着てたやつだ。探偵と言えばコレ、という恰好だ。ただ下はズボンではなくスカートだがな。


「なにやってんだお前」


「昴先輩、今日はお暇ですか?」


「暇だけど」


「ではついてきてください」


 麗歌は紙袋を渡してくる。紙袋にはサングラスやら帽子やらが詰まっていた。


「なにをする気だ?」


「お姉ちゃんを尾行します」


「綺鳴を? なんで?」


「それは歩きながら話します。早く準備してください」


 事情が気になるのでとりあえず言う通りにする。

 アロハシャツに短パン、帽子とサングラスとマスクを身に着け外に出る。


「ただのヤンキーですね」


 言われなくてもわかっている。


「お前のそれは変装のつもりか?」


「はい。尾行と言えば探偵、探偵と言えばこの恰好でしょう」


 めちゃくちゃ目立ってるけど、麗歌が満足そうだし別にいいか。


 麗歌と一緒にマンションを出て、朝影家に向かう。

 その途中で、俺は麗歌より事情を聞いた。


「綺鳴が謎の外出を続けてる?」


「はい」


 麗歌曰く、毎日昼前に綺鳴が麗歌の目を盗んで外出しているらしい。


「あの外出嫌いのお姉ちゃんがここ数日、毎日1人で出かけているのです。しかも太陽輝く昼前に。日を追うごとに出て行く時間が早くなっていってます」


「そんな変なことか? 夏休みの高校生なら別に珍しくもないと思うが」


「あのインドアの鬼のお姉ちゃんがですよ。奇妙です」


「友達と遊んでるんじゃないか。アオとかその辺と」


「お姉ちゃんの友人全てに確認を取りましたがそのような事実はありませんでした」


「徹底してるな……」


 怖いぐらいに。


「昴先輩、危機感が足りませんね」


 麗歌は足を止め、


「お姉ちゃんは純粋で、騙されやすく、染まりやすい。簡単に言うとちょろいのです」


「それはそうだな」


「私に秘密で、もし誰かと会っているとするなら――それは高確率で彼氏である可能性が高い、ということです」


「綺鳴に彼氏…………………………彼氏ぃ!? ないないない! 絶対ないっ!!!」


 そんなこと天地がひっくり返ってもあっちゃならないことだ!!


「ようやく事態の深刻さを理解しましたか」


「ありえない……そんなこと……」


「ちなみに昴先輩、お姉ちゃんもとい月鐘かるなに彼氏ができたらどうしますか?」


「っ――!!?」


 なんてことを聞くんだコイツは!! 

 想像してみる……かるなちゃまが見知らぬ男と手を繋いでいる所。接吻している所。そしてその先の――


 つい、聞くに堪えない罵詈雑言を口にしそうになるが……それはファン失格だ。ファンならば、推しの幸せは応援するべき……!!


「それでかるなちゃまが幸せなら全っっっ然! いいんじゃないかなぁあああああっっ!!」


 表情筋を全て歪ませながらもなんとか俺は取り繕うことに成功した。


「努力は認めましょう」


「……はぁ。そういうお前はどうなんだ? 綺鳴に彼氏ができたら応援するのか?」


「するわけないじゃないですか。私のお姉ちゃんに手を出そうとする輩は抹殺です」


 麗歌の目がマジで暗殺者のそれになる。真っ暗だ。怖っ。


「というのは冗談で、相手によりますよ。私は嘘偽りなく、お姉ちゃんが幸せならそれでいいんです。お姉ちゃんがどうしてもその相手が好きで、付き合いたいのなら……最悪Vチューバーを辞めてくれてもいいんです」


「本当かよ……」


「はい。昴先輩は私からお姉ちゃんへの愛を舐めてますね。私は――お姉ちゃんには世界一幸せになってほしいんですよ。いつかVチューバ―を引退したら、素敵な人と出会い、結婚して、子供が出来て……順風満帆な人生を歩んでほしい」


「ふーん」


 ふと、俺は頭に浮かんだ疑問をぶつけてみる。


「世界一幸せになってほしい、か。それはお前よりも、ってことか?」


「愚問ですね。当然じゃないですか……お姉ちゃんが幸せになるためなら、私はどうなってもいいです」


「綺鳴はそんなこと、望んでないと思うけどな」


「ええ。だからお姉ちゃんにはこんなこと、絶対言いませんけどね」


 出会ってから今まで、麗歌は綺鳴のために動いている。

 それが決して悪いこととは思えない。だが、妙な引っかかりを感じるのはなぜだろうか。


「家が見えてきましたね。この塀の影に隠れますか」


「ああ」


 俺と麗歌は朝影家から7軒ぐらい隣の家の塀に隠れる。


「……私の予想では、そろそろのはず」


 朝影家から小さな影が飛び出す。

 ポーチを大切そうに握りしめた、銀色の髪の少女――綺鳴だ。肩が出たシャツにミニスカート、夏服だな。


「夏服かわええ……」


「集中してください。遊びじゃないんですよ」


「じゃあ聞くが、お前が手に持ってるそれはなんだ?」


「カメラ起動中のスマホですが何か?」


「開き直るな! ……後で写真くれ」


 綺鳴がこちらに背を向ける。

 俺と麗歌は綺鳴に気づかれないよう後を追いかける。

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