01 奄美剣星 著 初雪 『恋太郎白書 雪景色』
クリスマスキャロルが流れていた。
金曜日、恋太郎は学校の帰りにスーパーに入って買い物をしていた。秋刀魚の刺身と少し前に解禁になったフルーティーワインを籠に入れた。刺身にはつきものの、大根を千切りにした、ツマがついていた。子供のとき、恋太郎は、共稼ぎをしていた父母がそうであったので、ツマを食べずに残していた。しかし、同郷の愛矢は残さずに食べた。
恋太郎は朝晩二食付の寮で暮らしていた。昼は学食で食べる。――寮の食事は不味くはない。しかし流し髪をしたこの若者は、先祖が××藩包丁侍だったとのことで、遺伝的に料理しないではいられない。御先祖様DNAがうずくときは、同郷の友人アパートを訪ねたものだった。
店の外は雪が降っていた。
買い物袋を両手にぶら下げ、歩道を歩いてゆく。
スーパーをでていった学生カップルが身体を寄り添いあって先を歩いているのがみえた。
――いいなあ。
恋太郎は背が低いほうではない。しかし愛矢はその恋太郎より頭一つくらい長身だった。すらりとしている。
愛矢は、学校の近くのアパートに住んでいた。二階建ての木造アパートの一階だ。畳六畳部屋にキッチンとバス・トイレがついている。部屋には電子ピアノがポツンと置いてあり、あとは教科書とノートしか置いていない。
窓の外は雪が降っていた。
鍵盤を叩いていた指を停め、窓を開け、雪模様の空を見上げた。日は落ちているのに暗くない。それでいてどんよりとしている。窓明かりに照らされた雪は渦を巻いているようにみえた。両の掌を合わせて祈った。何にお願いしているのでもない、ただ日々みつけた楽しい出来事に感謝しているのだ。
チャイムが鳴ったのでドアを開けた。予想はしていたが来訪者は恋太郎。
「料理をつくらせてくれ」
「――待っていたところだ」
アパート備え付けの食器棚から常滑焼の洋風鉢をだす。そこにさっき買ってきた秋刀魚の刺身を丸ごとパックから入れてしまった。玉葱を刻んで添え、ビネガー系の酢を満たし、胡麻油を加えた。塩はほんの気持ち。――これでツマを無駄に捨てることはない。――手作りケーキは前日のうちに準備していた。
「愛矢、来週は教会でクリスマス・コンサートだったな。準備万端か?」
「まあな」
「なあ、恋太郎、一つ頼みがある」
目の前にいる恋太郎が、恋太郎ではなく、可愛い彼女だったと仮定してみよう。ワイングラスにフルーティーワインを注ぎ乾杯する。それからだ。
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――はい、あーんして。
彼女が小首をかしげて微笑む。――美味しい?
青年は口でモグモグやって満足そう。――うん、とても。
温かな風景がイメージされる。
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恋人のいない男はこれをやってもらいたい。しかしいつかは恋人ができることだと信じる。そのときのために、準備は万端にしておかねばならぬ。
「なあ、愛矢、来年は恋人つくろうな」
「そうだな、お互いがんばろう」
フォークを愛矢の口までもっていってやった恋太郎がいった。
「山下達郎の一人きりの『クリスマス・イブ』でも弾こうか?」
「頼む」
恋太郎が歌った。来週、教会では、恋太郎が歌う。若い女の子はいない。――教会の牧師さん以下、集まってくる人たちは高齢者ばかりだ。あ、若いといえば、出席者のお孫さんはいたか。愛矢の父親が牧師で、友達の牧師が独身。青年二人は何かと重宝される。
一曲終わった。
「来週のコンサートの前祝いだ。景気よく、パーっといこう」
二人は乾杯した。
〝男二人〟で乾杯した。
窓の外では雪が降っていた。
明日の朝は少し積もっているに違いない。
ノート20161201




