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自作小説倶楽部 第13冊/2016年下半期(第73-78集)  作者: 自作小説倶楽部
第77集(2016年11月)/「文化」&「樹木」
31/43

04 E.Grey 著  樹木 『源平館主人6 公設秘書・少佐』

   //粗筋//

.

 衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。夏のある日、空き時間で、婚約者・三輪明菜と混浴温泉デートをした。訪れた温泉宿は、源平館だ。二人が湯から上がったところで銃声がして、駆けつけてみると、宿の主人が密室になった一階書斎で、拳銃を握っているのが分かった。被害者の身内三人が容疑者として浮上した。

    06 樹木


 鉱山のレールはだいぶ錆びてはいたがまだ残っていた。戦時中はここで生産された硫黄が、銃砲の火薬原料として使われていた。建物はレンガ造りで、まだ、けっこうしっかり残っていた。貯蔵タンクのようなものがみえた。――ここにたむろしている子たちの仕業なのだろう、壁や鉄扉、窓ガラスのいたる所に、落書きがあった。不良どもの目線はいやらしく、私の身体の線をなめ回すといった感じだ。―― 私的に、そのあたり、佐伯が無頓着なのは不満。

 源平館主人・津下吉秋氏殺害の犯行現場・被害者私室からフランス窓の敷居。窓直下の庭ににあった、寸法二十六センチの足跡から推定すると、身長は百七十センチくらいということになる。津下明の足跡そのものという感じだ。靴底の形状とも一致していた。――これでもかというほどの証拠。当然、容疑者三人、妻の女将、弟の番頭、養子の中で、体格が一致する津下明が逮捕された。

 鉱山施設正門に、立ち入り禁止板があった。その横に監視員小屋と、裏に樹木があった。たぶん山桜だろう。もちろん季節柄花はない。風がふくと枝がサワサワ鳴った。それから呼子みたにピィーと音がした。――佐伯は、少し立ちどまって、その様を興味深そうに眺めていた。

 リーダー格の青年は二十歳を過ぎたばかりというところだろう。百九十センチを超す巨体で、猪首、猫背、腹がでていた。ジーンズ姿で頭にはバンダナを巻いていた。煙草をくわえていて、口を開くとヤニで黄ばんだ歯がみえた。喋り方はぶっきらぼうだ。

「明君はどのくらい負けていた?」佐伯がデブにきいた。

「明が負けていた? おい、みんなどうなんだ?」

 デブの取り巻きは五、六人いた。

「奴は天性のギャンブラーだよ。俺たち全員、負けっぱなしだった。ケツの毛まで抜かれかけていた」皆で、アメリカ映画の登場人物みたいに首をすくめてみせた。

「女の子とか付き合っていなかったか?」

「そういえば義理のお袋が親爺の目を盗んで布団に入ってきたっていっていたな――」

 佐伯は、「ほお」といって少しずれた眼鏡の位置を正した。すると、デブは、「嘘だよ」といってから大笑。取り巻き連中が続いた。下品な、とてもイヤらしい笑い方だった。

「まあ、奴がムショにぶち込まれれば、俺たちのツケもチャラになる。――旅館の女将と番頭とができているって話じゃないか。旅館の親爺が殺され、義理の息子は養子解消。万事めでたしめでたしさ」

 なるほど、ウィンウィンってわけだ。

 佐伯は、十分に情報を収集した様子だ。

「じゃあ、明菜君、帰ろうか」といった。

 途端、不良どもは、私たちを取り囲んだ。

「今日はマッポがいないんだな。綺麗なお姉さんだ。よお、おまえら、まわすぞ。〝少佐〟には腹に蹴りでもくれてやれ」

 なんて奴らだ。足下に転がっていた角材やら板やらを拾い上げた。

 佐伯といえば、ニコニコしながら、「いまはこれの時代」と、坂本竜馬を気取って、懐中から拳銃をだしてみせた。

「ど、どうせ玩具だろう」ビビりながらもデブが怒鳴った。

「よく分かったな。褒めてつかわす」

「やっぱりそうか」デブがニヤリと笑う。取り巻きどもに佐伯を半殺しにさせたうえで、私をなぶりものにしようとしている腹だ。

 佐伯はまったく動じない。

 火のついた煙草を口にくわえていて、玩具の拳銃を顔に近づけた。銃口から導線がでていて、煙草の火をつけてやると、それを連中のほうに放り投げた。――爆竹だ。ド派手な音をたてて導線が跳ねまわりだす。

 連中が度胆を抜かれている間に、佐伯は私の手をとって、敷地外に待たせていたタクシーに飛び込んだ。運転手は心得たもので、やってきた不良どもを引き殺す勢いでバックすると、思い切りアクセルを踏んで、来た道を引き返した。

「畜生、覚えてやがれ!」後方でわめいている声がした。

「ああ、覚えておいてやるわよ。強姦未遂で訴えをだしておく。――アンタたちの親子さんからたっぷり頂くもの頂いてやるからね」

「女はつくづく怖い」佐伯がいった。

     つづく (※第6/9話まで了)


  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

●津下吉秋……源平館主人。被害者。

●津下夫人……吉秋夫人、源平館の女将。容疑者。

●津下次郎……吉秋の弟、番頭。容疑者。

●津下明……吉秋夫妻の養子。容疑者。

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