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休暇ですか?

「休暇?」

「はい、みなさんダンジョンでずっと働きづめですからたまには、と思いまして」

「いえ、私は必要ありません」


 即答でイリアが答えるが、高山に言われ無理やり全員休暇をとることになる。


「本当は週に1日は休暇にしたいんですが、そういう訳にもいきませんので」


 申し訳なさそうにいう高山だが休暇なんて言い出すダンジョンマスターなどアイリにとって初めてであり、呆れ半分嬉しさ半分といったところだ。

 いまだにイリアは私にとってご主人様の傍にいることを光栄に思うことはあっても苦になることなどひとつもなくてうんぬんかんぬんと食い下がっており、長引きそうだと思ったアイリは


「……本当にいいの? それだったら1度ナビ仲間のところに顔を出しにいくけど?」

「ええ、構いませんよ。お気をつけて」


 感謝の言葉が喉まででかけたが恥ずかしさからか顔をそらしたアイリはそそくさとその場を後にするのだった。




 そうして戻ってきたアイリはナビの仲間達と久しぶりの会話を楽しむのだった。



「おぉー、アイリ! 今回は結構長かったね」


 アイリの姿を見た同僚の第一声はこれだった。

 ここに戻ってくる=ダンジョンマスターが死んだが普通なのだ。

 そしてここには次のダンジョンマスターが決まるまでの待機場所となっているのだ。




「へぇー、休みとかくれるんだ」

「まぁ変わったおっさんよ」

「おっさんって」


 ここでの話しは主にダンジョンマスターについてだ。というよりダンジョンマスターについてしか話題がないのだ。


「聞いてよ、前回の私のところのマスターと来たらさ。召喚してすぐに私に襲い掛かってきたんだよ。それから毎日毎日!」

「あぁーよくいるよねそういうやつ。でもあんたの所はまだましだよー。私のところなんて暴力振るうんだって! 足で頭踏みつけたりさ」


 どうしてだろうか。彼女達の話しがぜんぜん面白く感じない。ついこの前までは同じように笑っていたのに。


「結局さー、あっさりコアを壊されちゃって。悪いけど少しすっきりしたよ」

「ちょっと酷いよそれ。 私だってマスターが死んだときはちょっとは悲しかったのに」

「えー、でも暴力振るう男はちょっとねー」


 相変わらずあのダンジョンマスターはあーだったこーだった楽しそう話す彼女達をアイリは黙って聞いていた。


「アイリのとこのマスターはどんなやつなの? それなりに長くやってるみたいだし割りと優秀なんじゃない?」

「んー、どうかな少し初期ポイントが多かったおかげかな」


 なぜかはわからないがアイリはあまり高山のことは話したくなかった。


「おっさんなんでしょ? それでもやっぱがつがつ求めてきちゃうわけ?」

「ううん、そういうのはしてないかな」


 どうしてだろうか。胸がむかむかする。


「えー、してないんだ。若い子とか喜びそうなのにね」

「あれじゃない? もうできなくなってんじゃない?」


 そういうことかーなんて笑う彼女達。

 アイリは思わずテーブルを力いっぱい叩いていた。


「きゃ! ちょ、ちょっとアイリどうしたの!?」

「もしかして怒ったの?」


「ご、ごめんね、アイリがその人のこと気に入ってるとは思わなくて」


 気に入ってる? そうなのだろうか?


「でもアイリが怒るなんて珍しいね。もしかして好きなの?」


 私が好き? 高山のことを? ありえない。


「ごめんね。急にテーブル叩いちゃって。悪いけどもうダンジョン戻らないといけないから」


 席を立ち足早にその場を離れていく。


 高山のことが好きだなんて馬鹿げている。確かに出会った当初ほど嫌っているわけではない。

 でも高山はいつも自由すぎる。温泉作ったり、いきなり塔を作成したり、好き勝手に釣りにいく釣り馬鹿だし。

 私がいないと絶対になにもできないやつなのよ。


 しかし彼女は気付いていた。高山に対していままでのダンジョンマスター達とは違う感情を抱いていることに。

 部屋を作ってくれて、料理を作ってくれて、こうして休暇すら与えてくれた。

 しかし彼女は心のどこかで高山を受け入れきれずにいた。




「でも驚いたねー。アイリが怒るなんて」

「そうだね。アイリもてっきりマスター達にもう期待していないって思ってたんだけどね」


 アイリが出ていき取り残された2人のナビは自身の過去を振り返りながらポツリポツリと会話を交わす。


「うん、彼女も諦めてたよはずだよ、この前までは」

「だよね。そうだったはず。じゃあ今度のマスターにはアイリを期待させるようなすごい人なのかな?」

「そうなのかもね。でもそれって悲しいだけだよね」


 どうあがいたって無駄なんだってわかってるはずなんだけどね。どれだけこの世界が理不尽で残酷なのかアイリも知ってるはずなのに。









 突然ですが、休暇をいただきました。

 ご主人様の傍にいることが最大の喜びである私にとって休暇と言われてもすることがなく困ってしまいました。


 部屋の掃除にと理由をつけてご主人様に近づこうとしましたが、


「休暇中はお掃除禁止です」


 と追い出されてしまいました。

 途方にくれた私はダンジョンをうろうろ落ち着きなく歩き回っていました。

 気付けばフェンリルのいるフロアにやってきていました。

 フェンリルは私を見つけると近寄り地に伏せます。

 きっと構ってもらいたいのでしょう。私はご主人様の真似をし頭をゆっくりと撫でてあげます。

 こうして大人しくしているとダンジョンでボスとして君臨しているとはとても思えないほど愛らしいです。ご主人様が可愛がるのもわかります。


「あなたはいいですね。そうやって寄り添えばご主人様に頭を撫でてもらったり、抱きしめてもらったり」



 そうか! 私もご主人様の前でこうして地に伏せれば良いのですね!

 いいことに気付きました。ありがとうフェンリルさん。


 さぁいざご主人様の元へと歩き出した私は嫌な人物に出会います。

 サキュバスです。露出が多く、悔しいですが私よりも魅力的な体を持つ彼女はご主人様にとって毒にしかなりません。


「イーリーアー。休暇の日ぐらい私もご主人様と交わりたいよー」


 ほら見てください。毒でしかありません。


「駄目です。あなたはご主人様の視界に入ることさえ許しません」

「えー! 酷いよー! イリアばっかりずるいよ! イリアは毎晩相手してるんでしょ?」

「あ、あいてにしてもらってなどいません。いままで一度だって……」


 しくじりました。彼女に余計な情報を与えてしまいました。

 見てください。彼女が意地の悪そうな顔しています。



「いい? もっとこう体を密着させて!」

「密着なんてできるはずありません!」


 サキュバスによる男性を誘惑する方法についての講習が始まってしまいました。


「何甘いこと言ってるの! これはイリアのピンチでもあるのよ!」

「ピンチ?」

「そうよ! 今まで1度も相手にされていないってことはもしかしたら捨てられるのかもしれないのよ!」

「す、すてられる!? そ、そんはずは!?」

「だってお風呂まで一緒に入ることもあるんでしょ? それなのに求められないなんて大問題よ!」


 あの優しいご主人様が捨てるはずがありませんと思うのですが、サキュバスの言葉に不安を隠せませんでした。


「大丈夫。私に任せて!」

「は、はい」


 ここは男性を知り尽くしているサキュバスに頼るしかありません。





「ふぅ、いいお湯ですね」


 私はご主人様が温泉に向かったことを確認しこっそり後をつけ偶然を装いつつ近づきます。


「隣よろしいですか?」

「ええ、いいですよ」


 私はご主人様の傍に座ります。いつもよりさらに近くに座ります。

 サキュバスは言っていました。こうしてお互い裸でいるのに触れもしないのはおかしいと。

 ご主人様の様子を確認するといつものようにあまり私の体をじろじろ見ないようにしているのがわかります。

 そうするのはご主人様が紳士な方とだからだと思っていたのですが、サキュバスは言いました。それはイリアが避けられてるんじゃないのかと。

 もしかして本当に私は捨てられてしまうのでしょうか。不安でおかしくなりそうです。

 まずは少し触れて様子を確認して見るのとサキュバスは言いました。

 私はご主人様の手にそっと自分の手を重ねました。

 不思議そうにご主人様がこちらを見ています。緊張して心臓の鼓動が早くなります。

 そのままじっとご主人様の目を熱く見るのです! とサキュバスは言いました。


 私はじっとご主人様の目を見つめます。それでもご主人様は何もしてきません。

 サキュバスは言いました。それでなにもしてこなかった時はもうきっと手遅れねと。


 涙を目に浮かべた私をご主人様が心配そうにしています。


「ご、ご主人様ぁ」


 私は我慢できずご主人様の体にしがみついてしました。


「そのご主人様、、、」

「ど、どうしたんですか?」


「す、捨てないでくださいぃ」


 私はついに泣いてしまいました。そしてご主人様に必死に縋り付いていました。

 ご主人様は私がどうして急にこのようなことを言い出したか聞かず、


「大丈夫ですよ。私がイリアさんを捨てたりするはずがありません」


 そういってゆっくりと背中をさすってくれました。



 しばらくして落ち着いた私はご主人様に抱きしめられている現状に固まってしまい身動きが取れなくなり、


「あんたたちそういうことは部屋でやってくれる!?」


 と帰ってきたアイリさんに言われるまでそのままでいました。


 私にとっていままで1番幸せな時間だったということは言うまでもありません。




「やれやれ、抱きしめられるだけで満足しちゃうなんて」


 こっそりと2人の様子を見ていたサキュバスは結ばれるのにはまだまだ時間がかかりそうねと溜息をつくのだった。








 意味はよくわかってはいなかったが休暇をもらった水の精霊ナイアスは、好きに遊んでいいと言われフェンリル達、狼と水浴びをして楽しんでいた。

 フェンリル達と遊ぶのも好きだがナイアスにとって一番大好きなのは彼女にとってのおとうさんである高山だ。

 フェンリル達と遊び終わるととことこと高山の部屋へ向かうのだった。


 高山は椅子に座り、ウィンドウの説明を読んでいた。


「ひざにすわっていい?」

「いいですよ」


 ナイアスは高山に許しをもらうと膝の上にちょこんと座る。

 小柄なナイアスは彼の間に座ってもウィンドウの文字を読むのには邪魔にならない。

 ナイアスは高山の指をにぎにぎと握って楽しんでいた。


「おとーさん、ぎゅってして」

「こうですか?」


 高山は下から見上げるナイアスをリクエスト通り抱きしめてあげる。


「ナイアスちゃんは体がひんやりして気持ちいいですね」


 ナイアスはしばらく高山の腕のなかにいると心地よかったのだろういつしか寝息を立てて眠ってしまった。


(こうしてると本当に小さいころの娘のようですね)


 ナイアスをベットにそっと寝かせた高山は風呂場へと向かう。

 あまりにも簡単に抱きしめてもらっているナイアスのことなど露知らずのイリアの待つ風呂場へと。

 






 ラウルは思う。こうして生きているのは本当に運が良かったのだろうと。

 今までダンジョンに侵入してきたものの中でこうして高山の仲間になったのは私1人だけなのだ。

 生かしてくれたご主人様とイリア様にはもちろん感謝している。人並みの生活にこうして休暇までもらえるのだ。

 しかしもう元の生活には戻れないのだろう。

 いや、ご主人様に言えば戻してくれるかもしれない。


 ただラウルには帰る場所がない。両親の反対を押し切って冒険者などになり、そしてこうして捕まってしまった。

 どれだけ自分が世間知らずだったのか思い知らされる。

 冒険者としても素人。メイドとしてもイリアには遠く及ばない。

 どこにいっても必要とされていないのではないと不安がよぎる。


 両親は私がもう死んだと思ってるかな? それとも私のこと探してくれてるのかな? それとも使えないやつが死んだ喜んでいるのかな?

 このままでいいのかな?


(はぁ、せっかく休暇をもらったのに嫌なことばっかり考えている)



「ラウルさん? 夕食の準備ぐらいは私達でしようと思うのですが」

「あ、イリア様! はい、すぐに行きます!」


 彼女は自分の気持ちがわからないまま、ただ誰かに依存することで自分を保とうとしていた。

 今はこれでいいのかもしれない。

 いつか自分自身で何を為すべきかがわかる日が来るのであろう。





「高山? そ、その今日はありがとね」

「いえいえ、リフレッシュできたならなによりですよ」


 周りに誰もいないことを確認したアイリは恥ずかしそうにしながらも、休暇をくれた高山にお礼を言っていた。

 いっそのこと『らしくないですね』ぐらい言ってくれればいいのに、自然に返事をされると余計に恥ずかしくなるとアイリはもじもじしていた。


「あ、明日は高山も息抜きに釣りにでも行ったらいいんじゃない!?」


 初めてアイリから出たその言葉に高山は嬉しそうに頷くのだった。

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