景色はどうですか?
「どういうこと!」
「いやー、やはり上から見てみたいなと」
「馬鹿じゃないの!」
アイリたちは現在高山の作った塔の最上階のさらに上、屋上にいる。
「で、あんた途中で階層を増やしたでしょう!」
そうなのだ。初めは10階層だったはずがアイリが急ぎ高山を探している最中に再度大きな振動が起こる。
そして確認すると『現在位置13階』となっていたのだ。
「いえ、屋上に出てきてみたらあと少し高さが足りないと思いまして、追加で少しだけ」
「何が少しよ! 昨日話したでしょ! 10階からは10万ポイント使うって!」
「ですから、5階増やそうとしたところを3階に抑えて……」
「本当に馬鹿! っていうかイリアも見てたなら止めなさいよ!」
「私がご主人様に意見など出来るはずが……」
「何よ、この使えないダメイド!」
しばらくアイリに怒りは収まりそうになかったが
「それよりもアイリさん、見てください。もうすぐ朝日が昇りますよ」
高山の指差す先にはまさにその瞬間、地平線の向こう側からゆっくりと日が昇りはじめていた。
「綺麗ですね。あれは太陽なのでしょうか。それともまた違う星なんでしょうか……。何にしてもここから見える景色は幻想的なまでに美しいですね」
その光景に目を輝かして眺める高山。アイリはどうしてこいつはいつもこうなんだと嘆かずに入られなかった。
「今日は1日中作戦会議だからね!」
「すみませんねー、お願いします」
謝るくらいなら始めからしないでよと思いながらもしばらくは塔の最上階からの眺めを堪能するのだった。
「聞いたか? 塔が出現したんだってよ?」
森を抜けた先にある町ではすぐに高山が作ったダンジョンが大きな話題になっていた。
これまで徐々にその知名度上げていたダンジョンが塔の出現により一気にその注目度は増したのだ。
今まで出来たばかりのダンジョンなどはレベルが低いからと見向きもしなかった中堅の冒険者達や冒険者達の組合である『ギルド』も塔の噂を聞き興味を持ち始めていた。
「なんだかおもしろそうなこと話してんじゃねぇか? 俺にも聞かせろよ」
とある酒場の一角でギルド『赤い牙』のリーダーである男が塔の話を興味を持つ。
『赤い牙』
この森付近で活動するいくつものギルドの中では上位に位置する強豪ギルドだ。
「攻略に向かうんですかい?」
「いや、まだだ。もう少し様子を見る。もっとうまそうになったところをおいしくいただく」
「そんなのんびりしてたら他のやつらに食い尽くされちまいませんかね?」
「それならそれで構いやしねぇ。簡単に食われるようなダンジョンになんて興味はねぇよ」
「そうゆうもんですかねー」
「変なところでこだわりがある困った人です」
談笑する部下達の言葉を聞きながら、リーダーである男はにやりと笑う。
(早く牙を剥いてやりてぇぜ)
塔を作成してからは訪れる冒険者の数は飛躍的に増えた。
塔の1階部分には入り口はなく、まず以前よりある地下への入り口を突破しそれから塔の1階部分にいくことになる。
直接塔を破壊しようとするものもいたが何をやっても傷ひとつ付くことはなかった。
高山は地下1階のダンジョン部分をそのままに彼らの部屋や温泉などを現在の最上階である13階に移動させていた。
現在地下1階のボスモンスターはゴーレムと呼ばれるモンスターを配置しいる。
なぜかというとゴーレムは侵入者達に撃破されても時間が立てば自動で修復することができるのだ。
侵入者が増え、必然的にボスの部屋へ辿り着くものが多くなりフェンリルの負担が大きくなる。
フェンリルがやられれば新しく召喚するために多くのポイントを消費することになるのでフェンリルを上の階に移動させている。
……ペットのように可愛がるフェンリルに対して感情移入している部分が少なからずあったとは思うがアイリは黙っていた。
地下1階のボスの部屋を突破すると上へ登る階段がある。
1階部分は地下1階と違い水路や砂地などではなく、通常の通路となっている。
一気にポイントを消費し台所事情がやや厳しくなったというのが大きかったりする。
1階は訪れた侵入者に言わせればオーソドックスにして、1番実力が試される場所という話だ。
確かに作りはどこにでもあるダンジョンと言えるが、それは誰に対してもそれなりの効果をそれなりに発揮すると言える
特別に誰かを得意とすることもなければ、特別に誰かを苦手とすることもない。そんな作りだ。
しかしそんなオーソドックスと言えるダンジョンの作りやモンスターの配置をほとんど独学で編み出した高山はもしかしたら才能があるかもしれない。
アイリはその作りを見て割りと普通に作ったんだと、特に気に留めてはいなかったのだが、その『普通』を高山が知らないということを失念していた。
そんな訳で塔の1階部分は至って普通の作りになっている。
ゴブリンやオークなどというダンジョンとしては有名なモンスター達を配置し随所に落とし穴などの罠を設置している。
1階のボスモンスターはガーディアンと呼ばれる全身鎧で出来ているモンスターだ。
体長が3メートルを近くあるこのモンスターの採用理由はもちろん能力の高さもあるがゴーレムと同じく自己修復機能があるからだ。
ボスモンスターが倒されるのはそれだけダンジョンにとって痛手となるのだ。
さて、13階あるこのダンジョンだが実はまだ2階部分まで中身がない。
1階から10階までで50万。11階から13階で30万ものポイントを消費しているのだ。
全ての階層の設備を完全に整えるにはポイントが足りない。
高山としても中途半端な強さの階層をだらだらと10階も続けるよりも、1階と2階部分を強力な物にするという考えだ。
それなら初めからこんなに一気に階層を作るなとアイリは言いたかったがなんだか高山に言ってももはや無駄な気がして言っていない。
そんなダンジョンの3階から11階はただの通路。13階は居住区。
12階は1面すべて森となっており、そこにフェンリルと狼達。そして水の精霊ナイアスが住居兼ダンジョンとしているだけだ。
いまのところはガーディアンを倒した者がわずかにいるが、被害が大きいので撤退していくものが多くまだ2階まで上がられてはいない。
しかし2階の攻略も徐々に始まるだろうと高山は13階に設置してある温泉に浸かりながら考える。
温泉の壁はガラス張りになっておりそこから眺める景色は壮大だ。(もちろん外からは見えない)
「熱い……」
高山の足の間には水の精霊ナイアスがちょこんと座り彼に背を預けている。
以前熱いのを我慢できず一気に冷却してしまいイリアに怒られて以降はおとなしく湯に浸かっている。
イリアはそんなナイアスを羨ましそうに見つめつつこっそり高山に肩を触れさせる作戦を決行中だ。
しかしあと少しで触れるというところで、躊躇してしまう。
「イリアさん少し顔が赤いようですが、またのぼせてしまいましたか? 先に上がってもらっても大丈夫ですよ?」
せっかくのご主人様との入浴タイム。そう簡単に離れるわけにいきません! とイリアはまだ浸かっていますと高山に答えるのだが、
「おとーさん、もう上がろう」
と高山の手を引くナイアス。
「すみません。それでは私はお先に失礼しますね」
と高山はナイアスに連れ去られてしまう。
2人を見送ったイリアは鼻まで湯に浸かるとどうしてこうなったのとぶくぶくと泡を吹き出すのだった。
「調子はどうですか?」
「どうですかじゃないわよ! あんたがマスターでしょ!」
ナイアスを引きつれ居間を訪れるとそこではアイリがダンジョンの様子をモニターを使い見ていた。
最近居間には壁に掛けれるモニターを導入しダンジョン内部を確認できるようにしている。
割りと高い買い物だったのだが、それまではダンジョンの詳細は高山の開くウィンドウのみでしか見ることが出来なかった。
ただ普段ダンジョンの様子を見ていない高山を見かね、こうして居間にモニターを設置することとなった。
「『おばけ屋敷』に侵入者が入ったみたいね」
おばけ屋敷。塔の2階部分をアイリはこう呼ぶ。2階は通路は通常だがフロア全体が真っ暗なのである。(通常のフロアは通路全体が薄暗く発光しているので真っ暗なわけではない)
そして内部のモンスターは霊的なものばかりだ。
それを見たアイリがまるでおばけ屋敷とこう呼び始めた。
この暗闇は1階のボスモンスターであるガーディアンを倒した冒険者が引き返す理由の1つでもあった。
多少の明かりの用意は当然してきているが、完全な暗闇だ。
それなりの準備が必要だ。
今回『おばけ屋敷』に到達したのは今までも何度か塔の攻略と撤退を繰り返していた冒険者達だ。
現在の攻略の最前線に立っている彼らの実力は高い。
「少しでも3階にモンスターを召喚しておく?」
2階のフロアを彼らが1度で突破できるとは思えないが、何が起こるかはわからない。
心配そうに尋ねるアイリ。
「いえ、このまましばらく様子を見ておきましょう」
2階フロアに到達した冒険者達は周囲を照らすことのできる魔法使いを中心に慎重に進んでいく。
この暗闇では明かりが生命線といえることを重々わかっている冒険者達。
執拗に魔法使いを狙ってくるモンスターの攻撃から守りつつ前進をする。
(やはり魔法使いさんに直接攻撃は難しいですかねー)
モンスターに大まかな指示を出す高山だが、
(誰を狙うかわかってるなら守るのは苦じゃないぜ)
と今回は冒険者達の方が1枚上手だった。
だが高山も何も考えていないわけではなかった。
明かりの前後左右からの攻撃を繰り返すことで彼らの意識を外へ向けさせていたのだ。
彼らはまだ気付いていなかった。魔法使いの影に潜むモンスターの存在に。
「ちっ! 後ろだ!」
突如として魔法使いの影から現れた『シャドウ』と呼ばれるモンスター。
人の影を実体化した姿のシャドウは鋭い攻撃を繰り出すが魔法使いは声を掛けられたことで咄嗟に横へと転がる。
魔法使いの背に傷を負わせたものの致命傷とはいかなかったようだ。
シャドウは攻撃が失敗したことがわかるとまたすぐに影へと姿を消していった。
「今回はここまでにしよう」
シャドウが現れたと同時に何匹かのモンスターが攻撃を受け、何人か負傷者が出ている。
(マッピングもそれなりにできたし、シャドウの情報も入手できたんだ。十分だろう)
そして彼らはそのまま慎重に来た道を引き返していったのだ。
「あーあ。いつもあいつらはいいところで帰るんだよね」
「困りましたねー。ああいった方が一番厄介です」
現在のダンジョンの一番の痛手となるのは彼らのようにモンスターを倒すだけ倒し、そして被害をほとんど出さない冒険者だ。
いたずらにポイントだけを消費させられることになる。
(ただ彼らを倒しきることができれば、きっとたくさんのポイントが手に入るのでしょうね)
そこまで考えた高山はふと思う。自分がいつしか人を倒すことに慣れてしまっていることに。
当たり前のように彼らを敵とみなし、彼らをどうやって倒すかを考え、彼らを倒した際に手に入るポイントを想像する。
「本当に困りましたねー」
「ん? そうね、困るわよね」
アイリは高山が珍しく表情を曇らせていることに気付いたが彼の真意を測り知ることはできなかった。
「大丈夫だって! フェンリル達だっているんだし!」
徐々に攻略されていくダンジョンを見て不安になっているんだろうと思った彼女はこれまた珍しく励ましの言葉を掛ける。
「おとーさん?」
「ご主人様、ただいま戻りました」
「お茶の準備ができましたよ。いかがですか?」
それぞれ声を掛けてくるこの世界で出会って者達を見て、高山は思う。
もしダンジョンが攻略されれば彼女達はどうなってしまうのかと。
(人殺しを正当化するつもりは決してありませんが。それでもこうやって出会い、親しくする彼女達のためにももっと頑張らないといけませんね)
「それではみんなでお茶にしましょうか」
いつも通り微笑みながら彼女達にそう声を掛けるのだった。




