第8話 最後の試合
先鋒戦が始まった。
落ち着いていこう。意識が飛ぶのだけは絶対に抑えなければならない。
冷静に、且つ鋭く隙を突く。
相手の面打ち。
これを防いで、そのまま胴へ攻撃。
「どおっっ!!」
旗が上がる。まずは1本取った。
よし。まあ冷静に。
隙があればもう1本、でなくとも防ぎきれば勝てる。
冷静に‥
バアッン!
取られた。冷静になりすぎて動きが鈍ったか。
くそ、これで1本対1本。
ダメだ。絶対に勝つ。もう1本取るんだ。
仕切りなおして、もう1度再開する。
…気が高ぶっていくのが、感じられる。
打突の応酬。決まらない打突を繰り返すたびに、心が熱くなっていく。
くそ、まずい。ここで意識が飛んだら、間違いなく取られる。
必死に決めようとするが、有効打は入らない。
激化していく。このままじゃ…。
こうなったら、一気に決めるしかない。
「リャアッ!!」
面、面、面。
連続で攻撃して、そして、
「胴ッ!」
バシンと音を立てる。入った。
俺の勝ちだ。意識も飛ばなかった。
・‥‥よかった。
とりあえず、先鋒戦はウチがもらった。あとはみんなに任せるのみだ。
その後、次鋒戦はこっちの勝利。しかし、中堅と副将は敗北した。
2勝2敗。
最後の大将戦ですべてが決まる。
相手は強豪校だ。大将は強いだろう。
しかし、晴馬だって負けちゃいない。あいつは誰よりも努力してきたんだから。
「勝て!晴馬!」
檄を飛ばす、大音声で応援する。お前なら勝てると。
だが向こうの応援も相当だ。必死の形相で応援している。
当然か、この1戦で勝敗が決するのだから。
決着の1戦。
勝て!晴馬!
互いに礼、構えて、
「いけ‥晴馬‥」
「始め!」
バアン
「面あり!」
開始早々、敵の竹刀が晴馬の面を捉えた。
・・・・・・ウソだろ。
早すぎる。
力の差を、見せられた。
「ああ‥マジかよ‥」
「こんな‥」
メンバー達の戦意も喪失してゆく。応援の声も消えてゆく。
負け、という言葉が浮かび上がる。
‥くそ。もう勝敗が決まったみたいじゃないか。
「おい!まだ負けたわけじゃない!晴馬はまだ負けてない!信じようぜ、あいつを。晴馬は、俺たちはまだ終わってない!」
ガラじゃないが、絶望している奴らを叱咤する。
そうだ、力の差を見せられたからって、晴馬は諦めるような奴じゃない。
それがわかったのか、みんなも目に光を取り戻してきた。
「お、おお。そうだよな。悪かった。」
「そうだ、まだ終わってない。最後まで応援しよう!」
「よし、いけえ晴馬。最後まで!」
再び構えて、試合は再開された。
そうだ。絶対に、諦めちゃいけない。
防戦一方。仕切りなおしてから晴馬はひたすら防御に徹している。
いや、攻勢に出ることができない。相手の打突を防ぐので精一杯なのだ。
「うぐぅ‥」
晴馬がうめき声をもらす。間一髪で防いでいるが、このままじゃいずれ取られる。
いや、取られる以前に、
「晴馬!もう時間が無いぞ!」
そう。時間が無くなっていく。
このまま終わったら1本対0本。晴馬の負けで、俺たちの負けだ。
「…ッ!」
もう1本取られて負けるか、時間切れで負けるか。
誰もがそう思いかけた、諦めるなと言った俺さえも。
でも、
「っく‥アアアアアァァァーーーーー!!!」
晴馬は、諦めなかった。戦うことをやめなかった。
だから、あいつの叫びは俺たちにも通じて、
「がんばれ!晴馬ァ!」
攻勢に、少しずつ攻勢に転じている。
互いに竹刀をぶつけあう。
もう時間も無い中、晴馬の最後の一閃が、
「小手ぇ!」
入った。
時間ギリギリで晴馬が取った。これで1本対1本。
「よっしゃあ」
「やったぞ晴馬ぁ!」
そして時間が切れ、延長戦に入る。
延長戦、やはり攻撃の数は向こうが圧倒的に多い。
だが防戦一方というわけじゃない。晴馬も必死に攻撃している。
どちらにも軍配の上がらぬまま、さらに時間が過ぎていく。
同じ展開だ。
このままじゃ、いずれ取られるだろうし、そうでなくとも時間切れになる。
体力をより消耗しているのも晴馬だ。早々に決着を決めるべきだろう。時間が経つほど晴馬のほうが不利になっていく。
と、晴馬の動きが変わる。
やはり、あいつもわかっているんだ。今すぐ決める気だろう。
相手も構えに入る。
次で、決着がつく。
「メエエンッ!!」
「メンッッ!」
交錯する竹刀。激突する2人。
弾けるような面打ちと同時に、2人はぶつかり共に倒れた。
旗は、上がらない。最後の打突は、どちらも入らなかったのだ。
延長戦も終了した。
2勝2敗一分。
そして取った打突本数の合計も同じだった。これはつまり、
もう一戦。互いに1人選出して、もう一度試合をする。
誰を選出するか、それはもちろん晴馬が妥当だろう。しかし、
「晴馬。大丈夫か。」
「あ、はい先生。ぶつかった時に足がちょっと‥」
晴馬は大将戦で戦いきったようだ。連戦は無理だろう。
となると‥
「勝、出れるか?」
・・・・・・・・
まあ、そうなるよな。