第二十七話 死姫と前夜祭1
月日は、飛ぶように過ぎ去る。
ぶっちゃけ、飲み会から後の数日、私が何をしていたかほとんど思い出せない。とりあえず毎日ダンスの練習をして、数日間顔を出さなかったデューイの報告をジリジリ待っていた。それぐらいである。
気がつくと、「いよいよ明日だな」などとアルバードに声をかけられる日になっており、私は三拍おいてとぼけた答えを返した。
「……何が?」
「何がって……お前、日にち勘定は出来てるのか?」
「勘定はそこそこ得意ですよ。誰が近衛隊の書類を片付けていたと思って……、…………、…………」
……待て。えぇと、クソ親……お父様からの招待状が届いたのが新月の夜の数日前で、それから誘拐事件があって、飲み会があって、それから……。
「……今出来ました」
「そうか。午前中には荷物をまとめておいてくれよ。昼頃には王宮に向かうつもりだ」
ここ最近多忙だったアルバードは、今回の賓客ということで五日間の休暇をもらっている。そういやそのための休みだったな。ただ単純に働きすぎだから無理やり休まされた、と脳内変換されていた。危ない危ない。
テーブルの上に並べられたディナーは、すでにほとんど片付いていた。食後のデザートを平らげて、落ち着いた所作で立ち上がる。すると、同じように席を立ったアルバードがふと思い出したように言った。
「そういえば、屋根裏に鼠がいたぞ。あれも君が飼っていたのか?」
「……、……さすが隊長、よく見つけますね」
デューイ、バレてるバレてるッ!
やや引きつった笑みを浮かべれば、「職業柄な」とアルバードは笑う。
「一応、屋敷に人を入れる場合は一度俺に話を通せ。こそこそしていると、変に勘ぐるぞ?」
こそこそ、という言葉に、ついぎくりと固まってしまう。その反応を見たアルバードは、怪訝そうに眉をひそめた。
「……そうですねー。あはは、気をつけなくちゃ」
「奥さん、ちょっと二人で話でもしようか?主に夫婦の在り方について。何をごまかそうとしたんだ?ん?」
「いや違っ、大丈夫だから!なんでもないから!」
必死にごまかそうとした私を、アルバードは笑顔で捕獲するとそのまま抱き上げた。まるで綿の塊でも持ち上げるかのように、軽々と。
「ちょ、ちょ、ちょ」
「朝までたっぷりと時間があるからな。言い訳は部屋で聞こう」
「嫌な予感しかしないのはなんでかなぁ。なんでかなぁ!」
「お前はたまには素直になってもいいと思うぞ」
すっと、頬に掠めるようなキス。それだけで、抗う気も失せてしまう。
今だけは心に蓋をしよう。何の迷いもなく、この幸せに浸ることができるように。
◇◆◇◆◇
「……てな感じで、昨日は部屋にいませんでした。報告受け取れなくてごめんね☆」
「姫様、それはノロケですか?それとも独り身の俺への嫌味ですか?」
いろいろあって部屋に朝帰りした私は、一時間ほど惰眠を貪った後、眠い目をこすりつつ改めて出直してくれたらしいデューイの報告を受け取った。
ここ数日、少々別方向の調査に回していたため、デューイの報告は多い。
軽く姿勢を正すと、デューイは私に手渡した資料の説明を始める。
「そのリストが、ここ二週間ほどの間に隊長が出向いた場所ですね。王都守護隊に騎士団本部まで、自分から『不穏分子の鎮圧』を申し出たそうです。最近動きのある組織を片っ端から叩き潰せばまぁ、傷も負いますし疲れますね」
二枚目はその対象です、という声に沿って紙をめくれば、両手では足りないほどの数が並べられている。
一回限りでかたのつく問題でもないだろう。下手すれば、残党の奇襲などもあったかもしれない。
なのに、そんなことおくびにも出さず、彼は一人で突き進んでいる。
もし、あの男が彼に目をつけてしまったら。そう思うと、言いようのない恐怖が足元から這い上がってくる。
「……姫様。ご安心ください。もう二度と、あんなことは起こしません。その為に、俺達近衛士は鍛錬してきたんですから。貴方は貴方の部下を信じてください」
私の変化に気づいたのか、デューイは励ますような笑みを浮かべた。
「……うん、信じてるよ」
僅かに目を伏せてから、強い意志を持って、笑い返す。
立ち止まるな。前を向け。
けして後悔することのないように。
この一話をひねり出すのに三日かかった。
本気だすって言ったのに本気出したらカスだった。泣きたい。
ぶっちゃけ書ける気がしない。でもそんなこと読者に失礼すぎるので頑張る。




