第二十六話 死姫、嘆願中
視線が集まるのを感じながら、私はゆっくりと口を開いた。緊張して乾ききった口を動かし、なんとか言葉を紡ぐ。
「俺の本当の名は、アリシア・エルヴァーレン。性別は女。でもだからといって、俺はお遊びで近衛士をやっていたわけじゃないってこと、共に戦ってきたお前たちが分かってくれることを願ってる」
今までだって、副隊長として彼らの前に立つことはあった。にもかかわらず、今日はとても緊張する。
きっとそれは、『シアン・バード』というベールを脱いだからだ。
これがアリシア・エルヴァーレンとして彼らと対面する、初めての機会だからだ。
「かつて、近衛隊は形骸化したお飾り役職なんて呼ばれる職だった。そのことは、きっとみんなも知っていると思う。その結果、何が起こったかもな。俺は、いや私は、それがひどく辛かったよ。多くの人が傷ついて、多くの人が死んだ。もう二度と繰り返してはいけない、近衛隊最大の汚点だ。それを立て直すとき、私は、その一員として共に大切な人達を守れる人間になりたかった。だから、私は近衛隊に入った」
副隊長なんて役職になるとは思ってなかったけどな。くすりと笑って、それから再び顔を引き締める。
「私は、もう近衛士じゃない。私はもう王宮を守れない。けれど、みんなを信じている。私の代わりに王宮を守ってくれることを」
入隊の頃から、ずっと一緒に稽古してきた真っ直ぐなブライアン。若輩な私が副隊長となる時、たくさんのアドバイスをくれた先輩のルイス。陰気だった性格を克服し始めたロイ。
私が剣を取ったその時からずっとついてきてくれたデューイ。そして、その隊をまとめ、支え続けているアルバード。
皆、私の大切な仲間だ。
深々と、私は頭を下げた。
「これから、頼む」
隊員達は、皆口々に「承知しました」と頷いた。
私、本当にこの隊にいることができて、良かった。
私がにっと笑い返したところで、ふと思い出したように。叫び声が上がった。
「ふ、副隊長がアリシア姫ってことは、隊長の奥さんじゃないっすか!!」
「……何を今更」
ねぇ、と後ろに視線を投げかけると、隊長もうんうん、と頷いて。
「って、何その手。ちょ、待て待て待てあのね!?部下いるからね!?」
「ということで、これが俺の新妻だ。よろしくな」
「ここで紹介しない!抱き上げない!ハグしない!」
「うわぁ、副隊長の格好だとシュールだなおい……」
その後数日、『実は隊長は両刀使い』という噂が秘密裏に流れたのは、完全なる自業自得だと思う。
だからやめとけと言ったのに。
◇◆◇◆◇
酒場で解散してから屋敷に戻ってきたアルバードは、自室の机に腰掛け、僅かに目を伏せた。
(これで、少しは大人しくなってくれるといいんだがな……)
適量に含んだアルコールが、ゆっくりとアルバードを眠りへと誘おうとする。クッションの効いた椅子に体を埋め、しばらく目を閉じていたアルバードだったが、やがて眠気を振り払うように背もたれから体を起こし、引き出しの一つを開ける。
そこには、一通の手紙が入っていた。既に封の切られたその手紙を開き、アルバードは眉間にしわを寄せる。
「……彼女も秘密が多いが、周りも全く訳が分からないな。俺の秘密など霞みそうだ」
小さく呟いて、それからアルバードは再び手紙を引き出しにしまった。その代わりに書類を引っ張り出し、次のダンスパーティの人員配置を練る。
(もう二度と、悪夢などは繰り返させない)
心の中でそれだけを何度も反芻し、アルバードは羽ペンを手にとった。
『 近衛隊長に警告する。
第三王女アリシアを狙う者あり。隻眼の悪魔は既に獲物に印を残した。
どうか悪夢が繰り返されんことを。
シアン・バード 』
よっしゃああああああこここまで書けたあああああああ
かなり苦しかった。シリアスきつい。しかしまだまだシリアスは続く。
でもアリシアはそろそろウジウジモードを脱出するので、ちゃんとテンポよく書けるかと思われ。
次からは女の子の憧れ、舞踏会編だよ!
どうでもいいですが、これって『びぃえる』注意タグ入れるべし?いや、びぃえるじゃないんだけれども。




