⑮ 桜祭りに向けて
その休日、『SVT』総合リーダーの男、静道彰は公民館に来ていた
いや、彼だけではない
『SVT』メンバーが一様に、公民館のとあるフロアに来ていた
和室であるその部屋は、『着物の会』や『市民お茶の会』の人たちが会合を開く場所
しかしながら、今回の目的は着物でもお茶でもない
最近『桜祭り実行委員』と言うものが、ここ周辺の市民の中から募集された
その第一回の会合が今回、開かれるのだ
『SVT』はボランティアを愛する団体として、参加しない訳にはいかないと思い、全員で参加を決めたのだ
湖の湖畔にある桜並木の広場は毎年『桜祭り』が行なわれて地域だけでなく遠くからも多くの観光客を呼ぶイベントだが、毎年実行委員が足りない事で有名だった
13人の戦力がどれだけの支援になるかはわからないが、役に立てば良い
現場に到着して、靴を下駄箱で脱ぎ、和室の横引き扉に手をかける
「失礼します」
声を発しながら扉を開けて、畳の上に上がる
そこにはすでに集りかけている大人達と『SVT』メンバーの姿がある
「ほぅ〜。これはまたカッコいい兄ちゃんが来てくれたものだ」
「ありがたいなぁ〜」
こちらを見るなり好印象らしいコメントをくれるお爺さん達に軽く会釈をしつつ、知り合いに近づいて行く
「早いな、水爪」
「先輩を除けば僕が最後ですよ、この方々が早いです」
水爪祥
1年生の『SVT』メンバーの1人で、専門は諜報、防諜、潜入
気配を自在に消したり出したりする事ができる彼の性能は『SVT』の中でも特異で、重宝させてもらっている
だが、残念な事に背が低く外見はまさに小学生と言った感じなので、任務では実動部隊には参加させてあげれないのが現状だ
「高校生が手伝ってくれるなんてありがたい話だねぇ〜。そこのお兄ちゃんは何年生?」
お婆さんに声をかけられたので振り向くと、元気そうな感じの老婦人が立っていた
会釈をしつつ答える
「高校2年生です。お役に立てればよろしいんですけど」
「まぁ!青春の時期じゃない!楽しんでいるかしらねぇ」
俺の言葉の前半にのみ反応して笑う老婦人に苦笑いを返しつつ、お爺さん達に近づいて行く
このお爺さん達は、実は顔見知りだったりする
「久しぶりだな!彰君!」
「はい、お久しぶりです」
「今年も手伝ってもらえるって?いやぁ、すまねぇなぁ」
「彰君にはいっつも世話になってるからなぁ」
「いやいや、僕らもお役に立てれば嬉しいですから」
「ホント、良い奴だなぁ〜。彰君は」
やはり、顔見知りは話が進んで良いな……
俺はボランティアは好きだけど、ご老人の支援はあまり経験が無いから、昔からの知人であるこのお爺さん達は俺の貴重な奉仕相手だ
「それで……順調に『桜祭り』は迎えられそうなんですか?」
俺が聞いた途端に表情を曇らせるお爺さん達
俺も、瞬時に嫌な予感を察する
「実はな……これから春先の台風が一発ぶつかるみたいなんだよ」
「台風ですか……?」
「あぁ、嫌なタイミングでな。桜祭りまであと1週間と少しだが、あと2日もすれば台風がぶつかって枝が吹き飛んじまう可能性があるんだ」
「なるほど……そう言う事ですか」
もう少し経てば桜も花を咲かせるが、このタイミングで台風がぶつかれば枝が吹き飛び、つぼみも一緒に飛ばされてしまう
満開の桜を見る為には、ここでどうにかしなくてはならない
「とは言え……台風が相手ですからね……」
相手は自然災害
いくら『SVT』でも台風を退ける事はできない
台風への対策……
「何か、手段はあるんですか?」
「んあぁ。あるにはあるんだがな……」
やはり、手段はあっても厳しい作戦らしい
それでも、この事態をただ黙って見ているだけと言うのはできない
無茶してでも、状況を打破しなくては
「手段は一体?」
「……桜をシートで覆って、風を避けるんだ。そうすりゃ台風がぶつかっても殆どの枝は守れる……だがなぁ……」
「何か問題があるんですか?」
「湖畔の広場の桜の数はおよそ1000本だ。今からやっても間に合うか……。それに、シートを被せた桜には日光が当たらないから開花が遅れちまう。やるならやるで、一気に、直撃の直前にやらなきゃいけないんだが……1000本だからな……」
なるほど……
それは確かに厳しい任務だ
だけど……桜祭りを万全の体勢で迎える為には必要
「台風の直撃はいつですか?」
「早ければ明後日の朝には直撃しちまうな……。間に合いっこねぇだろ?」
「……なんとかしましょう」
「ん?あ?いや……彰君でも流石に無理じゃ……」
「いえ、ギリギリですけど可能です。任せてください」
「良いのか……?彰君」
「はい。大丈夫です」
この任務……『SVT』が請け負おう
活動時間は、太陽光の影響が無い深夜
隠密で、台風直撃の前夜、明日の夜にシートを被せれば何とかなる
後は……桜祭りに対する他の必要事項の確認
「さてさて……みなさん集ってきましたね。もしかして全員集りましたか?」
「あ、あなたは……!」
唐突に良く通る声が響き、振り返る
同時、そこに居た人間を確認して、思わず『SVT』メンバーの赤木が狼狽える声が聞こえる
俺も、思わず息をのむ
「み、御奈沢市長……!」
そう、この付近の市長だ
桜祭りは、市が主催で行なっているため最高責任者は市長なのは知っていたが……会合に直接現れるとは……!
地域愛が凄まじい人だ
それから、既にわかるだろうが、この市長は『SVT』とも、ある意味で関わりがある
「お爺ちゃん?仕事が忙しいんじゃないの?」
「おぉ、雨羽も来ていたのか。この桜祭りを大成するように働くのが今の私の仕事だよ」
そう、御奈沢との会話を聞いていてもわかるとおり
市長は、御奈沢の御祖父だ
いや、御奈沢が市長の孫と言うべきか……
どちらにしろ、わりと身近に関わっていると言う事だ
「雨羽の高校からは多くのボランティアが参加してくれて助かるよ」
「そこにいる人たちが、丁度その人たちよ?」
「おぉ、君たちが」
市長が俺や赤木の集っているところに歩みを進めて来る
柔和な笑みと、よく通る声、不思議なカリスマ性は御奈沢と同じか……
「ありがとう。君たちのおかげで、役員の人手不足は大きく解消される。君たちみたいな学生が居てくれて、市の職員としても鼻が高いよ」
一人ずつ、握手をして行く市長
全員が戸惑うようにしながら手を握られ、取り敢えず礼を連発する
「よろしくお願いします」
俺も握手をしながら、声をかける
市長は嬉しそうに笑みを浮かべて、頷く
「あぁ、よろしく頼むよ」
市長はそう言うと手を離し、周辺を見渡す
総勢、30人を少し超えている程度
つまり、人員の半分は『SVT』だが、多いとも少ないとも言えない人数が集っている
「皆さん。このたびは『桜祭り実行委員』に立候補頂きまして、ありがとうございました。素晴らしい『桜祭り』にしましょう!」
市長が挨拶とともに一礼をして、拍手が巻き起こる
拍手に対しても多くの礼をする市長。やはり、これでこそ市長だ
「では、これより『桜祭り』への具体的計画を練りましょう」
拍手がやみ、市長が顔を上げながら言う
市長も畳の上に腰を下し、全員非常にリラックスした状況
良い空気だな……
「えー、『桜祭り』では特設ステージを設置して、ビンゴ大会やクイズ大会を行ないます。そちらの方はどのように進んでいるんですか?」
『SVT』のメンバーの冴崎が声を上げる
この『桜祭り』毎年ステージで多くの催しがある他、多くの出店も参加するから、色々と計画が必要なんだよな……
ホント、それなりに大きい祭りだからなー
「ステージは俺等が作るって聞いてるから、安心しな」
「そうですか。では、お願いします」
頭にハチマキを巻いたテンプレートな大工ファッションの、実際に大工の人が言い、冴崎が反応する
この大工の人は、仕事が無いあまりに毎回、市のイベントに技術班として参加している会社の人だ
しかも会合に送られて来る一人の社員さん。これが仕事として認められているのか……
「それから、当日の駐車場の交通整理については?」
今度は裏寡が言う
「いつもいる駐車場の交通整理の人たちを、特別ボーナスで増員して行なうつもりだよ。人員は足りているかな」
「なるほど。わかりました」
市長が答えて、裏寡が頷く
今回、当日の仕事は少なそうだな
桜祭りを楽しむ事ができそうだ
「人員が足りないところは……そうだ、迷子センターのブースの人数が少し足りていない。あと、特設ステージの音響スタッフや放送スタッフ、司会進行が居なかったはずですね」
市長、微笑みながら言う
っていやいやいや……
結構重要な仕事うまって無いですよ!?
「一応、特設ステージと迷子センターブース、スタッフブースは隣接させるつもりだから……誰かやってくれると嬉しいのですが……」
だが、ここで老人の方々は首を縦には振れずにいる
あの方々は、老人文化組織、通称『ツバキの会』のブースにて竹細工の実演工作販売や、地酒の販売を行なう為に当日は忙しいのだろう
で、あれば……
「司会進行は私がやりましょう」
「ん?君は……」
「冴崎美咲と申します。訳あって放送機材の扱いには馴れているので、仕事ができます」
『SVT』がやるしかない。その意思が『SVT』の全員の脳内を走った
最初に手を挙げたのは冴崎
俺も、あいつを推薦したい
日頃から『SVT』のオペレーターとして活躍するあいつなら緊張で放送ミスを起こす事も無いだろうからな
「銀嶺静流。放送の一時休憩の交代は僕が努めさせて頂きます。」
名乗りと同時に意思を伝えるあいつも、放送には適任だろう
結構声が通るからな、あの二人は最適だ
「放送機材の設置や調節、音響の操作は私が行ないます!」
「私も、協力します。」
「ありがとう。助かるね」
次に名乗りをあげたのは葉城と鎌月
技術レベルは高い、心配は要らないだろう
あと残ったのは迷子センターだが……
「迷子センターのブースは私たちで交代でやるわ。お爺ちゃん」
「おぉ、助かるよ。雨羽」
『SVT』は当日、ステージ脇に待機、そこで仕事を行なう訳だ
無論、誰も異論は無い
当日の動きは決定か……
「当日までにすべき事は、何かありますか?」
俺も、聞く
「あとは、桜が満開で咲いてくれるように祈る事と、前日には音響の準備が欲しいかね」
それを聞いて、俺は決意を決める
明日の夜の戦いは、本気で挑むべきだな
『SVT』史上、稀に見る長期戦になるかもしれない。
いつも本気である俺たちが、更に全力を注ぐ事になる
普段の任務中の俺等は『不可能』なんか考えてはいない
だが、俺は今、不可能を恐れている
1000本の木、全力で覆う
時間との戦いになりそうだが……なんとかなる
いや、なんとかしてみせる
こんにちは永久院悠軌です
さて、メインストーリーに戻ってきたのかな?
ボランティアの気配です
ところで、この作品、略称がありません
どう呼んでくださっても構わないのですが、略称がほしいです
現在募集中です!




