第百五十四話 仙界の記憶と麒麟
彩葉は中国で「波紋の仙人」語汐と出会い、仙界を通って町へとたどり着いた。
人の暮らしが見える場所まで来て、彩葉はほっと息をつく。空気は少し乾いていて、さっきまで通っていた仙界とはまるで違う。石畳の道の脇には店先が並び、遠くでは人々の声が行き交っていた。
彩葉は歩きながら、語汐の話を聞くことにした。
「仙人って、何なんですか?」
「うむ、仙人とは厳しい修行と食生活を乗り越えた者がなるものだ。修行と食生活は様々だが、基本は同じ、『健康体』を維持することじゃ」
「健康体……」
語汐はうなずく。
「うむ。妾だって、それを乗り越えた。仙人は、仙人になったのと同時に身体の成長が止まる」
「え! それって」
「あぁ、妾が仙人になったのは十二のときだ。親も仙人でな、求められたのだ。仙人になることを」
語汐は、どこか遠くを見るような目をした。
「……」
彩葉はその横顔を見て、すぐには言葉が出なかった。
「まぁ、今となっては友もできたし、仕える主もできた。なにも、悲しいことはない……」
その言葉には、長い時間を生きてきた者だけが持つ重みがあった。
「そして、妾が牡丹の部隊に加入したのは、小紅に誘われたからだ。山に籠り、修行を続けていた妾に、あやつは『一緒に行こうよ! 楽しいよ!』と言って妾を誘った」
語汐は少しだけ笑う。
「最初は乗り気ではなかったが、妾はあの方と出会い、変わったのじゃ……それから数年後、あの戦い――『第一次共生世界大戦』が始まった」
「第一次共生世界大戦……」
彩葉はその名を、何度も聞いてきた。
とてもたくさんの命が消えた戦い。
そして、この人も、その中にいたのだ。
「牡丹が日本側として、中国軍と戦った」
「え? どうしてですか?」
「中国政府はアメリカ側だったからじゃ。……妾たち仙華六門も当然、牡丹についていった。じゃが、あの方は、『君たちは無理に出る必要はないヨ、私一人でいいネ』、そう言ってくださった」
語汐はそこで少しだけ目を伏せる。
「じゃが、妾たちは共に向かった。戦場に……」
「そうなんですね……」
「あぁ。それに、昔と今じゃ、地形が変わってしまった場所もある。戦争とは辛いものじゃ」
「はい……」
そのときだった。
「……え?」
ピタッと、辺りの空気が止まった。
「ん?」
語汐もすぐに警戒する。
「これは……」
低く響く声が、上から降ってきた。
「懐かしい話をしておるな」
彩葉が見上げる。
そこには、不思議な竜のようでもあり、馬のようでもある生き物が浮かんでいた。
「やはり、麒麟か」
「麒麟?」
「あぁ、その通り。余は瑞獣『麒麟』!」
彩葉は目を丸くした。
「あれは、麒麟。縁起の良い獣。悪いやつじゃない。何しに来た!」
語汐は麒麟に向かって叫ぶ。
「いやなに、近くを通りかかり、お主を見つけたのでな。挨拶だ」
「そうか」
語汐は警戒を少しだけ解きながらも、なお麒麟を見上げている。
「あ、あの、こんにちは。バッグの守護者『彩葉』です」
彩葉は恐る恐る声をかけた。
「ん? 彩葉というのか。最近の守護者は一段とかわいいな」
「え?」
「いやなに、余は年寄りだから、愛でるのが好きなのだ」
「は、はぁ……」
彩葉は不思議な瑞獣だと思った。
「さて、余はもう行く。長生きしろよ」
「おまえもな」
麒麟はふわりと空へ戻っていく。
再び時が動き出した。
「さて、次は何を話そう」
語汐がそう言った、そのときだった。
「あ、……あの! 牡丹さんについて知りたいです!」
「うむ、わかった、話そう」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




