第百二十二話 森で出会った妖怪王
マレーシアの深い森。
背の高い木々が生い茂り、暖かな風が葉を揺らしている。
鳥たちのさえずりが聞こえ、小川のせせらぎが森の静けさをより一層引き立てていた。
そんな中、彩葉は両手を口元に添えながら元気よく声を上げる。
「マレーシアの守護者さ~ん!いますか~?」
しかし返事はない。
風が吹き抜ける音だけが響いていた。
「……」
彩葉は辺りを見回した。
「いないのかな~?」
その瞬間。
「お呼びかな?」
「わわぁ!?」
突然、すぐ後ろから声が聞こえ、彩葉は飛び上がった。
慌てて振り向く。
そこには、ふわふわと浮かぶピンク色の大きなクッションのような球体。
そして、その上に寝転がるようにしてくつろいでいる少女の姿があった。
少女はのんびりと笑う。
「あはは~、ごめんごめん」
「驚かせたね」
「私は『ブンガ・ラヤ』!」
「マレーシアの守護者だよ~」
「あ、あなたが……」
彩葉は目を丸くしていた。
先ほどまでまったく気配を感じなかった。
それほどまでに自然に溶け込んでいたのだ。
しばらくして。
二人は森の中の開けた場所に移動していた。
ブンガ・ラヤは相変わらずピンク色の球体の上でごろごろしている。
「と、言うわけで、よろしくね♪」
「はい!」
「バッグの守護者『彩葉』です!」
するとブンガ・ラヤは嬉しそうに笑った。
「うんうん♪」
「いいこだね~」
優しい声音だった。
その笑顔を見て、彩葉も自然と笑顔になる。
「あの、聞きたいことがあるんですが……」
「なにかな♪」
「なにかな♪」
彩葉は少し考えながら尋ねる。
「日本の守護者『サクラ』さんって、知ってますか?」
「そりゃもちろん」
「有名だもん」
「どんな方、なんでしょうか」
「というと?」
彩葉はこれまでの旅を思い出していた。
「前にサンパギータさんから、あの方はトクベツだって聞いたし」
「マツリカさんを『国』シリーズの守護者にしたり」
「あ~♪」
「サンちゃんとまっちゃんに会ったんだ♪」
ブンガ・ラヤは楽しそうに笑った。
そして少し空を見上げる。
「それで、日本生まれの守護者は水上を歩けて、空は飛べないけど跳躍力がすごいってことと、関係あるんでしょうか……」
「う~ん」
「そうだねぇ~……」
少し考え込む。
「私もよくわからないけど」
「あの方がいると近くに守護者の核が生まれやすいんだって」
「そうなんですね」
「うん」
「それ以外わかんないや」
彩葉はぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「色々と」
「良いよ良いよ♪」
「久しぶりに後輩が来てうれしいから♪」
その言葉に彩葉は少し嬉しくなった。
しかし、先ほどから気になっていたことがある。
「……ブンガ・ラヤさんは、どうして常に浮いてるんでしょう」
「ん?」
「これ?」
ブンガ・ラヤは自分が寝転がっているピンク色の球体をぽんぽんと叩いた。
「私の妖力で作ったモノだよ♪」
「私はもともと名を持たない低級妖怪だったからね♪」
「そして今ではマレーシアの妖怪王だよ♪」
「そうなんですか……って!」
「妖怪王!?」
彩葉は思わず大声を上げていた。
ブンガ・ラヤは相変わらずのんびりしている。
「うん♪」
「一目に触れず頑張ってたら」
「いつの間にか守護者になって」
「『国』シリーズにも選ばれたの♪」
「そうなんですね」
彩葉は感心していた。
精霊だったサンパギータ。
元人間の現人神だったマツリカ。
そして、低級妖怪から妖怪王になったブンガ・ラヤ。
同じ『国』シリーズでも、生まれも歩んできた道も違う。
それが不思議であり、とても面白かった。
「そうだ♪」
「ちょうど良いし」
「マレーシアを案内するよ」
「お願いします」
ブンガ・ラヤは嬉しそうに笑う。
「うん♪」
「おいで♪」
「私の大好きな国を案内するよ♪」
そう言うと、ふわふわと浮かぶピンク色の球体ごと森の奥へ進み始めた。
彩葉も慌てて後を追う。
木漏れ日が二人を照らしている。
優しい風。
豊かな自然。
そして、穏やかな妖怪王。
こうして彩葉のマレーシアの冒険が始まる。
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次回もお楽しみに




