第百十八話 四属性発明戦線
インドネシアの海岸は、夜の闇に完全に飲み込まれつつあった。
先ほどまで燃えるようだった夕焼けは消え、代わりに濃い群青と黒が混ざり合った空が広がっている。
砂浜には氷の壁の残響がまだ冷気として残り、海風すら重く感じられた。
その中心で、戦いは続いていた。
「くくく……」
ポンティアナックの笑い声が夜に響く。
氷壁の向こう側で、翼を広げた異形がゆっくりと旋回していた。
「守護者の力……」
「面白いねぇ」
サンパギータは一歩も退かず、静かに構える。
「油断しないで」
その声は短いが、鋭かった。
彩葉は息を呑む。
(速い……)
(見えない……)
ポンティアナックの動きは夜の闇と同化しているようだった。
マツリカは少しだけ肩をすくめる。
「う~ん」
「ちょっと本気出さないとダメかもぉ~」
そして、いつものゆるい声のまま手を上げた。
「発明・フロストユニット~」
瞬間。
空気が変わる。
氷の壁の残骸が再構築され、形を変えていく。
今度は壁ではない。
砲台のような形状へと変化していった。
「……ユニット?」
彩葉が呟く。
マツリカはにこりと笑う。
「うん~」
「氷だけじゃないよぉ~」
次の瞬間。
空間の反対側が熱を帯びた。
「発明・フレイムユニット~」
地面から炎が立ち上がる。
炎は意思を持つように螺旋を描き、空中で球体へと収束していく。
ポンティアナックが翼を広げる。
「ほう……」
「面白いじゃないか」
その声に、わずかな警戒が混じる。
サンパギータが短く言う。
「来る」
マツリカの目がわずかに細くなる。
「発明・サンダーユニット~」
その瞬間。
夜空に雷が走った。
雲がないはずの空間に稲妻が発生し、地面へと落ちる。
砂が弾け、光が散る。
「さらに~」
「発明・アクアユニット~」
海から水柱が立ち上がる。
それは単なる水ではない。
制御された圧縮水流。
槍のように尖り、空中で待機する。
彩葉は圧倒されていた。
「すごい……」
「全部……操作してる……!」
マツリカは軽く笑う。
「発明っていうのはねぇ~」
「組み合わせなんだよぉ~」
その瞬間だった。
ポンティアナックが動いた。
闇そのものが弾けるような速度。
氷ユニットへ一瞬で突進する。
「遅いねぇ」
しかし。
「今!」
サンパギータの声。
氷・炎・雷・水。
四つのユニットが同時に起動する。
氷の砲撃が放たれ、炎が追尾し、雷が加速を与え、水流が包囲する。
四重攻撃。
夜空が一瞬だけ昼のように明るくなる。
ポンティアナックが回避するが、その翼の一部が凍りついた。
「チッ……!」
初めての焦り。
マツリカはゆるく指を振る。
「発明・クロスリンク~」
四属性が交差する。
氷が炎を制御し、雷が水を伝い、全てが一つの陣形として動き始める。
彩葉はその光景を見て息を呑む。
「こんなの……!」
サンパギータが静かに言う。
「これが……ISMPPでも分析が難しい力」
ポンティアナックは翼を広げて距離を取る。
「なるほどねぇ」
「守護者三人か」
「なら……まだ遊べそうだねぇ」
その瞬間、空気がさらに重くなる。
夜が深くなるほどに、戦いは加速していく。
マツリカは小さく息を吐いた。
「でもねぇ~」
「ここからが本番だよぉ~」
氷・炎・雷・水。
四つのユニットが再び動き出す。
夜のインドネシア海岸は、完全に戦場へと変わっていた。
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