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 翌日、改めて、村を見る。変わった村だ。子供達が多い。

 大人達の中に手足が欠損している者もいる。

 聞いてみた。


「ここはどんな村ですか?」

「そりゃ、お嬢様、村は村だよ。アリサ様がオーナーのね」

「ササキ商会もあるよ。子供達は将来、そこで勤める事になるね。ほら、あそこで勉強をしているよ。見てあげてくれないかな」


「はい、でも」


 私は勉強が出来ない。でも、子供なら。

 でも、さすがに分かったわ。


「お姉さん。よく分かるね。これ、高等数学だよ」

「そう、そう、貴族学園よりも客観的に見て上だよ」

「向こうの教科書を手に入れて調べたから確かだよ」


「でも、私、貴族学園に行っておりませんわ。実は、屋敷では誰も相手にしてくれないので、一日中、書庫に閉じこもって本を読んでいたのですわ」


「お~ねぇ、さん」


 ガシと抱きつかれた。マーシね。


「マーシ、お姉さんを気に入ったらしい」

「遊んであげてくれないかな。早速、昨日手に入ったお人形で遊びたいみたいだよ」


「はい・・」


 この人形は、平民のお人形だわ。

 私は、お母様から頂いたお人形、メロディにとられたわね。


 幼い頃にやりたかったお人形さん遊びを堪能した。


 しかし、使徒様はこんなに子供を集めて何をしたいのかしら。



 お昼ご飯を食べて。

 2時から、マーシをお昼寝させた。


「ウガガガガー!お母ぁああ」


 え、この子、うなされているわ。


「大丈夫よ。大丈夫」

「グスン、グスン」


 年長の子が説明してくれた。


「お姉さん。マーシのお母さん野盗にヒドい目に遭わされた。マーシを戸棚に隠して・・それ以来、耳が聞こえなくなったよ。悲鳴を聞きたく無かったのだろうね。

 回復術士の話では治っている。心の問題だって、言っていたわ。多分、その時の夢を見ているのよ」


「そう・・」


「こんな時は優しくなでてあげて、一回はこうなるから後は大丈夫よ」


「分かったわ」



 マーシを寝かしつけて村を回る。そう言えば、今日は使徒様を見ていない。


 何か、大きな工房があるわ。

 そこにいるのかしら。



「ヒィ」


 思わず声を上げた。

 工房にいる人達は恐ろしい姿をしているわ。これは経典に出てくる最終戦争の兵士かしら。


 顔に悪魔の面をつけ。灰色の服を身にまとっている。

 あ、使徒様だわ。


「いいか、鉛を扱うから、安全第1だ。防護マスクと防護衣をきちんと着ているかチェックだ」


「「「はい!」」」


 何を言っているか分からない。

 そう言えば、女神の使徒様の事を魔女と呼ぶ人達がいる。



「ザーム、今夜決行する。湯を浴び準備しておけ」

「はい・・」


 気にかかるわ。

 もしかして、この村は魔族を祀っているのかしら。


 でも、どうても良いわ。

 私は尊厳ある死を迎えて、皆に貴族の誇りを見せつけるのよ。



 それから、最後の晩餐をした。


「お、ねえさん・・・ウワーーーン」

「マーシ、ダメ。お姉さんが決めた事だよ」



 皆に見送られて、村の裏山に行く。


 使徒は魔道具を取り出したわ。杖かしら。



「・・・これは、銃という。7.62ミリ弾を放ち。ザームの頭蓋骨を粉砕する。一撃だ」


「痛みはないのでしょうか?」


「分からない。死んだことはないのでな」


「はい」


「試しに撃つ。安全装置ヨシ、コウカンヨシ、弾倉ヨシ、弾込めヨシ」


 バン!バン!バン!


 ボウガンのように構えて撃ったわ。

 これで、死ぬのね。



「そこに座れ、背後から後頭部を打つ」

「はい・・」


 お母様のところにいくのね。

 女神の使徒様に・・・いや、この方、本当に女神の使徒様なのかしら。

 じゃなかったら、私は地獄行きだわ。


 いや、子供達は・・・マーシは。


「何か、言う事はあるか?」

「あの、マーシちゃんたちは?どうなるのですか?」

「それはザームが知る事ではないが・・・そうだな。将来、私の手足となって働いてもらう。皆、親を亡くし寄る辺がない」


「どこで知り合ったのですが?」

「冒険者時代、西の辺境で拾った子たちだ。ヒドいものだった。どうせ、死ぬのならと拾った」


「元冒険者?貴女は女神の使徒様ではないのですか?」

「それは皆が勝手に言っている事だ」


 騙されたわ。この女、魔女だわ。だから、おどろおどろしい姿をした人達がいたのね。


「貴女の目的は?」


「そうだな。王国の富を牛耳り理想の世界を作る」


「王権に楯突く・・・そう言えば、前の王太子殿下が亡くなったのも」



 私は死ねない。


「まあ、良い。誰に殺されようとも結果は変わらない。関係ないだろう。依頼を果たし金貨30枚の仕事をする。チャラい仕事だ。それだけだ」


 チャラい?そんな風に思っていたの?


 カチャ!


 と魔道具を構えたわ。


「ヒィ」


 でも、何も出来ない。

 その時、マーシの声が聞こえたわ。


「お、お、ねえ、ちゃん・・・」

「マーシ、まだ、早い。村に帰れ」

「あ~、あ」


 まだ、早い。この子にも裏の仕事をさせる気?



 自然と声がでた。



「お前なんかに、殺されるか!私は、死ぬまで死ねない!」



 殺される。この女に嫌だ。

 死にたくない!死にたくない!死にたくない!



【私は生きて、馬鹿にした奴らを見返すのよ!お前もよ!マーシを可愛がるのよ!こんな良い子たちに裏の仕事はさせない世を作るわ!】



 すると、女はジュウという物の先を地面に向けた。


「そうか、依頼はキャンセルか。まあ、良い。後で金貨30枚の手形を渡す」


「えっ」


「お、ねえ、聞こえる。あれ、お姉さん!生きる選択をしてくれて良かったわ」


「ウワワワワ~~~ン」


 マーシを抱きしめて泣いた。


「どちらがお姉さんか分からないな。まあ、良い。1日休んでから帰れ」

「いえ、私の誕生日に当てつけに婚約式を挙行する奴らに嫌がらせで出席をしますわ」

「そうか・・・応援はする。車を出す」



「お姉さん!お人形遊びをしてくれてぇ、ありがと」

「フフ、どういたしまして。私も楽しかったわ」



 そうね。私を好きになってくれる子がいるのに死ぬのはもったいないわ。



 村の皆も喜んでくれたわ。


「「「「良かった!」」」

「ウン、グスン、グスン、一期一会の関係でも嬉しいよ」



 ・・・・・・・・・・・・



 ☆☆☆侯爵家別邸


「私は侯爵家に巣くう害虫の駆除をザームから抹殺を依頼させ当主たる自覚を持たせるつもりだったが、良く臨機応変に対応してくれた。しかし、もし、あの時、死ぬのを翻意しなかったらどうするつもりだったかね」



 ここにはザームの母方の祖父が住んでいた。祖父はあの少女に語りかける。

 あの少女、アリサは執務室で座らずに背を壁につけて、行儀悪く隠居した侯爵に返した。



「装弾不良を起すことにした・・・それから1日おいて爆殺を提案する予定だ。恐怖を植え付けてね」


「そうか、依頼料、金貨100枚をササキ商会に振り込もう」


「分かった」


「でだ。やり過ぎでは無かったかね。ほら、ご覧下さい」

「いや、良い」



 窓の外では、ザームの父、義母、義妹、その婚約者が馬糞を運んでいる光景を眺める事が出来る。


「ヒィ、許してくれ」

「そうよ、私はお義母様よ」

「もう、いやだわ。ドレスを着る生活をしたいわ」

「ザーム、よりを戻そう」


「オ~ホホホホ、お父様、騙したわね!貴族学園のテストを受けたら、簡単に卒業資格をもらえたわ!」



「こんな仕事は嫌だ!頼む。ザームよ。心を入れ替えるから」

「『こんな仕事』と言っている時点で心を入れ替えていませんわ!!』


 バチン!バチン!


「ヒィ、鞭で打たないでくれ」

「次は地面ではなく、お尻をぶちますわ!」



 ・・・・・・・・



「でだ、あの四人、君の村で引き取らないか?」

「無理だ。馬鹿でも良いが、賢いと思っている馬鹿は質が悪い」

「うむ・・」


 後に、ザームの父と義母、義妹、元婚約者は農奴として荘園に送られる事になった。


 ザームは今も生きている。





最後までお読み頂き有難うございました。

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